⑧隊長はおかしい
「えっと………」
何の流れか読めないルーキーには、二人のやりとりが分からない。
「毎回毎回。全く、お前達は飽きないのか?」タイサも呆れる。
「まぁまぁ。そう言わないで見せてやってくださいよ、隊長」
部下の賭け事の材料に毎回使われていたタイサは、仕方がない奴らだと今日も諦めた。そして腕をまくる真似をしているボーマの注文通り、右腕の袖をめくってルーキーに見せた。
「傷が………ないですね」
タイサの右腕には切り傷が見当たらなかった。そんな馬鹿なと念入りにルーキーがタイサの右腕に近付いて目を凝らすが、ようやく見つけたのは、長く赤くなっている一筋だけだった。
まさかと思い、ルーキーは引きつった顔で先輩達の表情を伺った。
「うちの隊長は頑丈なんです」
エコーが三杯目の麦酒を口にしながら、呆れた意味を込めて鼻で溜息をつく。騎士団の鎧を脱いだ普段着の彼女は、団子状にまとめていた黒髪を降ろして1本に縛り、さらしを巻いているものの胸の膨らみが袖のない薄着からも分かるほどに女性らしかった。
「頑丈って、それだけじゃぁ」
「ルーキーの感想はもっともだ。まぁ、俺も初めて見た時はそう思ったよ」
手前の皿に乗っている串が他の2倍はあるボーマが、ルーキーの肩を叩きながら何度も同情する様に頷く。彼は、普通ならば致命傷になるであろう攻撃を受けた数々の過去を新入りに語った。
「隊長の防御力は異常だ。ハッキリ言って人間離れしていると言っていい」
ボーマが人差し指を立てる。
「酷い言われようだ。お前と酒を飲む毎に、俺に対する表現に悪意が込められていく気がする」
「気のせいっすよ」「嘘だな」
毎回その話で盛り上がると、タイサは鼻で笑いながら三杯目のジョッキを空にした。




