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②自己嫌悪

「どうだ、君も私の家に住み込みで働かないか? 今よりも待遇は約束するし、騎士団も色付きの部隊へ異動できるよう手配しよう」

「………いえ、せっかくのお誘いで申し訳ないのですが」

 我慢できなくなったバイオレットは、不自然にならないよう礼節をもって大きく一歩下がり、彼との距離を置く。

「この後、クライル閣下から騎士団『盾』の騎士団長代理を任じられる事になっておりますので」


「そうか………ふむ、ならば仕方がない」

 イーチャウの顔が分かりやすく変わっていた。自分のお気に入りのおもちゃが取り上げられたような、そんな悔しさが混ざった顔をしている。


「それでは、自分はこれで」

「あぁ、そうだ。バイオレット………一つ言っておく事がある」

 踵を返したバイオレットに、イーチャウが彼女の背中に向けて声をかけ、その動きを止めさせる。

「法廷での最後の質問だが………必要があれば怪しまれない程度、最低限の恩義ある振りをしろとは言ったが、あそこまで奴を弁護するような言葉は必要はなかったのではないか?」

 お陰でクライルと交渉する羽目になったと、冷たさの籠った声で淡々と独り言に変わっていく。

「………申し訳ありません」

 彼女にはそう謝るしかなかった。


「まぁ良い。お陰でクライルの奴も、お前と私の関係には気付いていないようだ。奴との交渉でタイサを死刑に追い込めなかった事は残念だが、次点の王都追放まで事を運べだのは、一重に私の巧みな話術の勝利と言う事と言えるだろう」

「………はい、その通りかと」

 自分で自分を褒めて笑っている。バイオレットは目の前の男に憐みを感じつつも、小さく頭を下げて部屋を後にした。


 扉を閉める。

「………貴様など。隊長の半分にも満たない」

 バイオレットは、男に触られた髪を強く握りしめながら呟いた。彼は違法行為こそ犯したものの、決して部下を見捨てず、常に前線に立って強敵から逃げる事なく戦い続けた。できるものならば、これからもあの人から教わり、学び続けたい。意固地で頭の固い自分には必要な存在、そう思える初めての人だったと彼女は目を潤ませる。

 だが涙を流す事は許されない。彼を騎士団から追い出したのは他でもない、自分自身なのだと、彼女は袖で顔を拭った。

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