②疑問
「―――で、本当の所。隊長は何を考えていたんで?」
ボーマがエコーと同様にタイサに改めて尋ねる。
「………まったく、お前達ときたら」
タイサはいつの間にか全員の会話に耳を傾けていた様で、まだ任務中だとボーマ達に釘を刺しつつも、先程まで考えていた事を淡々と話し始めた。
「先程の蛮族の組み合わせが、少し気になっていてな」
「オークとゴブリンが、ですか?」
エコーの問いに、タイサはそうだと何度か頷く。
「確かに珍しかったとは思いますが、過去にオークの様な格上の蛮族に、下位のゴブリン達が付き従っていた例はいくつもあったと思います」と、ジャック。
「俺も、そう思わないでもないんだが」
それだけではない、とタイサが付け加える。
「ゴブリン達が荷物を漁っている間、オークが出てきていなかっただろう? 普通なら格上のオークが一番最初に良い獲物を選ぶはずだ。だが実際は格下であるゴブリンが我先にと荷物を漁っていたからな」
言われてみればと、エコー達の視線がそれぞれ異なる方向に向き、つい先程の記憶を振り返った。
「一応、本部にはその事も報告しておきますか?」
エコーがタイサに提案したが、タイサは一瞬迷うも、すぐに首を左右に振る。
「組み合わせについては無論報告するが、今の考えは俺の推測の域を出ないものだ。おまけに証拠もない。口頭ではそれとなく伝えてみるが、向こうが受け止めてくれるかは難しい所だな」
―――『色なし』の騎士団の報告を、上が真に聞くはずがない。
溜息をつくジャック達の脳裏に、共通した未来が予測される。
王国騎士団は役割に応じて複数の部隊によって構成され、それぞれに名前が付されている。
その内、上位に位置する五つの騎士団の名には色が含まれており、残りには『剣』や『牙』等、短い名前だけが与えられていた。
そして、タイサが率いる騎士団『盾』は、下位の中で最も底辺の序列に相当する。
国民が想像する様な華々しい戦ができる程の人数すら用意されず、外見や経歴、能力等に問題を抱える者達の集まりであった。
故にタイサ達の騎士団は、『色なし』の騎士達からも『底辺』と呼ばれ、時には会った事もない騎士達からも見下される事が少なくない。
そんな騎士団の報告を、本部がどこまで耳を傾けるか、タイサ達は考えるまでもなかった。




