序章①
王都ウィンフォスから西に馬を走らせること約2時間。王都に一番近い街との街道を繋ぐ森の中で旅人や商人が襲われるとの情報が入り出したのは1週間前からだった。
大陸一を誇る国家といえど、街道に賊が出る事は別段珍しくはない。旅行にしろ、商売にしろ、街から街へと移動すれば、『運が悪かった』という程度には誰にでも等しく起こりえる。本来街道の警備や賊退治は各街に設置された冒険者ギルドの担当するところだが、賊の正体が人間ではないとの情報がギルドから王国騎士団へと報告された事で事態が一変した。
王国騎士団は、この件を騎士団自らが解決すべき案件として冒険者ギルドから半ば強引に引き継ぐと、王都に駐留する騎士団を現地へと急遽派遣する事を決定した。
国内、それも王都周辺で人ではない『蛮族』が出たとあっては、住民の不安を生むだけでなく、王国の威信にも大きく影響する。
王都から派遣された騎士団『盾』を指揮する団長のタイサは、馬に乗る三名の部下を連れて、最も目撃情報が多かった森の中でその足を止めた。
位置的にはちょうど街と街との中間地点。
街を繋ぐ街道としては最短の行路だが、石の補装もない狭い道、左右を木に挟まれるだけでなく、木々の間隔が狭く、また奥の深みも十分に濃い。それなりの目をもった人間でなくとも、ここが両側の茂みで待ち伏せを行うのに絶好の場所だと分かる。
近隣の住民はこの道の危険性を分かっている為に、急ぎの便であってもこの道を使う事はない。実際襲われた者の多くは、遠方から来た旅人や時間のみを追い求めた駆け出しの商人達ばかりであった。




