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討龍譚  作者: 二式山
  一章  旅
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九話 街に滞在中


 昼下がり。


 意外と人通りは少ない。


 昼前は割れんばかりの雑踏であったが、皆それぞれ依頼でも受けたのか、昼を過ぎると途端に閑散とする。


 残っているのは、店の人間か、ルゥラ達のような隊商ぐらいだろう。


 ファルファイドに到着した、その翌日。


 午前は父とお祈りがてら、教会へ行ってきた。


 そして昼食後、ルゥラはイレネに誘われ、一緒に街の探索をすることになった。


 また、他の若者仲間二人に唆され、ベルスも付いてきた。


 三人、肩を並べ、道の真ン中をゆく。


 雲一つなく陽が眩しい。


 ふと、ルゥラはイレネの腰のあたりを、ちょんとつついた。


「イレネさん」


「もう、イレネおねーちゃんでいいよッ」


 イレネは、ルゥラの頭をわけもなく撫でた。


「そんな堅苦しくなくていいよ」


「……はいッ!」


 ルゥラは二、三度こくこくと首を縦に振った。


「お前がそう呼ばれたいだけだろ……って痛たッ」


 小言を言ったベルスは叩かれた。


 イレネにパシンッと。


「ベルは黙ってて」


 彼女は口をへの字に曲げた。


 叩かれたベルスはため息を吐いた。


 イレネは再びルゥラに向き直った。


 彼女の茶色の髪は、太陽によく映え、輝いても見えるのだが、その顔はなんだか圧がある。


「イレネおねーちゃん。ほら、言ってみて!」


「……あ、はい、うん」


 彼女の圧に、おそれを持ったか、ルゥラは頷いた。


「い、イレネおねーさん」


「……おねーちゃん」


 そう呼ばないいけないのか。


「おねーちゃん」


 と、ルゥラは戸惑いながらも、上目遣いをしつついった。


 すると、


「うんうん。よくできましたッ!」


 と、イレネは笑顔になって、ぎゅう、とルゥラを力強く抱きしめた。


 ルゥラの顔は、若干ややふくらんだ小さな柔らかみのある、イレネの胸に埋もれた。


「やっぱりかわいいなぁ、ルゥくんは。弟に欲しかったなぁ」


 イレネはルゥラの頭に頬擦りしている。


 当のルゥラは、困った顔になりながらも、彼女になすがままにされていた。


 ルゥラに兄弟はいない、一人っ子だ。


 イレネの押し付けるような好意でも嫌とは思わず、まるで姉ができたようで楽しかった。


 ただ、思いっきり抱きしめられれば苦しい。


「ちょっと苦しいです……」


 ルゥラはイレネの胸に埋もれながら、もがいた。


 彼女の胸に埋まった顔も、くるくる回して、上へ鼻を出し、満足に息をすることができた。


「あ、ごめんね」


 イレネはルゥラを抱きしめる腕を少し緩めた。


 ルゥラは、にっこり無邪気な笑みを見せた。


 パタパタ、店脇に突き立てられた旗が鳴った。


「ねえ、どこ行こうか」


 イレネが言った。


 街の散策に出た、といっても何か目当てがあったわけではない。


 イレネに問われ、ルゥラは頭上を漂う白雲を見つめ、とつこうつ考えた。


 道の右手に教会がある。


 それは陽光の下、黒々と、鉄塊のような威容を推しつつ、蕭然と腰を下ろしている。


 やがて、ルゥラは考えがまとまったのか、視線をイレネに戻した。


「なら……、この街に入ったところと反対側が見てみたいですッ」


「私たちが通った入り口とは逆ってこと?」


 ルゥラは、こくこく頷いた。


 まだ、その場所は行ったことがないのだ。


「じゃあ、行こうか」


 イレネは、ルゥラの手を取り、燦々と陽の下、はしゃぐように笑った。


 ルゥラも笑顔、足取りは弾むよう。


「ベルも、ほら早く!」


「はいはい」


 ベルスはため息を吐きながらも、困ったような、だが若干嬉しそうな笑みをこぼしつつ、二人を追った。


 陽は未だ高い。


 額に数滴、汗が滲んだ。


 三人は、人気の無い道を、陽気に、ころころ笑いながら行く。


 


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