六話 昔話
最近、各地で揉め事が多い。大きいものだと戦争になってしまったところもあり、幾つか国も滅んだ。
元々、各国がそれぞれ割拠し、平和とは到底いえない時世だが、それでもここまで血なまぐさいことはなかった。
キツツキの脳裏に、あの彼女の話が浮かぶ。
(……龍薙)
彼女のいうようでは、おそらく、龍薙が裏で糸を引いているという。
(古の伝説が、なぜ今頃……)
この大陸には、数千年前、虹龍と地龍、二体の龍王がいたという伝説がある。
この世界では誰もが知っている話である。
ルゥラも、寝物語として、ヨークや母によく聞かされた。
それは遥か昔のこと。
世界には八大龍王と呼ばれる、神に比肩されるほどの龍が八体存在したという。
その八体の龍はそれぞれ領域を持ち、あるいは眷属や信徒を従え、あるいは単独で、己の縄張りを守護していた。
八体のうち、地龍と虹龍は、ルゥラのいる大陸を住処とし、それぞれ眷属をつくり、地龍は東、虹龍は西に盤踞した。
二つの龍は、大陸の端と端。
両者の認識はあったものの、特に諍いはなく、協力して共通の敵を倒したこともあった。
しかし、地龍は戦禍を招き乱を欲した為、平和を望む虹龍と敵対し、両龍が激突した天地戦役が勃発。
魔族など諸種族も世界各地で地龍・虹龍、両陣営に分かれ、幾度となく大戦を演じ戦った。
結果、虹龍が勝ち、地龍は虹龍の根城——今は虹龍国とよばれる——そこにある縦穴の底深く封印されたが、あくまで神と比肩されるもの。
簡単に封印されたわけではない。
虹龍自ら穴に入り、封印の要となることで、地龍はようやく封印されたのだ。
虹龍が楔になることでの、地龍の封印。
これで天地戦役は終わりかとおもわれたのだが、地龍陣営の残党が未だ生きていた。
彼等は、地龍復活を目的として「龍薙」を組織し、戦乱で荒れた地を方々駆け廻り暗躍、巨大な勢力となりつつあったが、龍薙の存在を認知した虹龍陣営と、再び戦争を起こし大敗、あえなく壊滅した。
その後千年以上、龍薙の話は聞かない。
しかし、最近になって再び現れたらしい。
目的は当然、地龍の復活であろう。
地龍は今なお、虹龍とその眷属が住まう虹龍国、虹龍の真下に封印されている、といわれている。
遠い昔のことで、虹龍も地龍も直に見たものはいないが、虹龍国には龍の巫女と呼ばれる者が居り、虹龍と意思疎通が出来、虹龍の権能の一部を使えるという。
まあ、現状、キツツキには関係がない。
今は彼女——虹龍国の使者メーチェの言ったことだろう。
(確か……地龍の力を封じた封龍石が、あるとか何とか)
地龍を封印した際、地龍の持つ力が十二の丸い石にわかたれたという。
そして、その石——封龍石を十二の場所に分散させ封じた、と。
当時の虹龍国は今よりはるかに勢力が弱く、一ツ所に安置すれば、もしもの時、どうしようもない、との判断のようだ。
(それを、勢力が強くなったから今度は一ツ所に集めよう、か)
過去はともかく、今の虹龍国は世界一、二を争うほどの強国だ。
ちょっかいをかけた国が一晩にして滅んだという話もある。
ただ、基本的に自分達の領内に引きこもっており、手を出さない限り他の国へ攻撃することはない。
メーチェの言葉では、今は十分に強いから封龍石を手許に置いた方が安全だ、とのことらしい。
実際、幾つか龍薙に封龍石を持ち去られたと聞く。
(しかし、埋めた場所がわからないたぁ、困ったモンだな)
キツツキは周りを見渡した。
レッドモス奥地、一面の樹海である。
切羽詰まっていたのか、それともうっかり忘れていたか、当の虹龍国でも封龍石のおおよその場所しかわからないらしい。
「さて、」
キツツキは大きく背伸びした。
裾がひらひら踊った。
彼は、前合わせ、袴姿。
その着物は華美、紅に藍など様々、桜が舞い鬼は金棒持ち。
片肌脱ぎ、一点赤の襦袢が鮮やかに。
メーチェの話だと、このレッドモスの中にも、一つ封龍石を安置した遺跡があるらしい。
遺跡はことごとく埋没しており、目視ではわからない。
「探すとするかね」
キツツキは歩き出した。