四四話 御山
「そーいえば、キツツキさん」
ルゥラは、馬車の後ろから顔を出し、馬車と並んで歩くキツツキへ声をかけた。
「どうした?」
「キツツキさんは、ミヤマ様がどの龍王様なのかってわかりますか?」
ルゥラは、きょとんと小首を傾げた。
葦鳴生まれで、こっちの大陸のことも知っているキツツキなら、ミヤマの正体がわかるかも、と思ったのだ。
意外な質問に、キツツキは一瞬戸惑いを見せ、
「そうだな……、俺も詳しくはわからん」
と、残念そうに首を振ったが、
「……ただ、おそらくは水龍だろうよ」
とも付け加えた。
「雷龍とかではないのですか?」
「違うな。葦鳴にはその御山がすむとされる所があるが、雷など滅多に鳴らない。それに、そこには大きな池がある。もし、御山とするならば、憶測だが——水なるだろうよ」
「なるほど」
ルゥラは感心するように頷いた。
葦鳴と大陸の二つを見ているだけに、政左衛門よりも見識がある。
しかし、キツツキは感心するルゥラを見て、カッと笑った。
「ただ、龍王じゃないかもしれないぜ?」
「それは?」
どう言う意味です?とルゥラは首を傾げた。
「世の中にゃあ、龍王と呼ばれぬ龍もいるからサ」
「それは龍王の眷属ではないんですか?」
龍王の中には眷属を持つものもいる。
例えば、キツツキに接触した龍人も龍の眷属であり、他には中型の属龍、矮龍など。
これら眷属には、それぞれ個体名が存在する場合があり、中には凄まじく強大な力を持つものもいる。
それのことではないのですか、とルゥラはキツツキにきいてみたが、キツツキは彼の頭を撫でながら、違うといった。
「たとえば「シン」という龍がいるがな、これは螭と呼ばれる」
キツツキは咳払いを一つした。
「この龍は、霧に隠れ、幻を見せる。龍の眷属といえば、親玉の近くにあるものだが、こいつは魔族領の中にある霧の森に棲むという、単体で存在する龍とよく聞くわな」
「キツツキさんは、そのシンを見たことがあるんですか?」
「そもそもその霧の森すら行ったことがないな。ただ、まあ、少し前までは中央諸国いたようだから、わりかし噂は聞くぜ」
ルゥラはキツツキの話に聞き入っている。
「確か……、勇者に棲む場所を追われた、だったな」
「勇者パーティーと戦ったんですか!?」
勇者パーティーは、ルゥラの国でも知らぬ者はいないほどの英雄である。
「おう、お前も英雄豪傑が好きか」
あれは英雄だろう、俺は好きだ、とキツツキは訊いた。
その問いに、ルゥラはこっくりと頷いた。
すると、キツツキは機嫌良くルゥラの背を叩き、
「やはり男はパッと爆けなければナァ」
「はいッ。でも、勇者パーティーと「シン」という龍が戦っていたなんて初めて知りました」
「まァ、向こうの話だから、仕方ネーよ」
「ただ、もしかしたら、シンも同じようにミヤマさまも龍王さまじゃないかも、ということですよね」
「応ッ」
ガタンッ、と馬車が小石に躓いた。
「まァ、当分は地龍と虹龍が世のお題目だろうがな」
と、キツツキは大欠伸をした。
世の動乱にはあまり興味がない様子。
実際、あの女龍人に二人付けたり、封龍石を探したりしたのは、龍薙の動向への関心からではなく、単に彼の義侠の心からであった。
「単羲ッ、少し寝る」
「はい」
キツツキは眠くなったのか、馬車に飛び乗ると、適当な空間を見つけて横になった。
木の葉と共に風がそよぎ、依然馬車の後ろから顔を出していたルゥラの髪を靡かせた。
そのうち木の葉の一枚が、ルゥラの髪に乗った。
ルゥラは、馬車の中へ頭を引っ込めると、パッと頭を払って木の葉を落とした。
洛遼までは、まだ距離がある。
やがて、ルゥラも馬車の揺れに身を任せて、眠りについた。




