四二話 広陽での間話
「しかし、まだ一年やそこらなのだろう。そこまで話せるとは、たいしたものだ」
ルゥラと対座する男は感心するように、ゆっくり頷いた。
広陽の街を見学した後、キツツキは葦鳴の人を不知火を介して紹介してくれた。
今、目の前にいる人物がその人で、鹿角政左衛門という。
歳は四十くらい、謹直な人物なようで、着ている着物は埃一つ見当たらず、見事に剃られた月代の上には大たぶさをのせている。
ルゥラは、この人物から葦鳴語や葦鳴の歴史を教えてもらった。
「えへへ、まだまだです」
ルゥラは、政左衛門にほめられて照れた。
その席の横は、陽光が壁の小窓から差し込み、明るくなっている。
ルゥラは、恥ずかしさからか、目を逸らし、陽に当てられた床に掌を当てた。
暖かい。
「あとは……、何かあったか」
と、政左衛門は、ルゥラのために何か葦鳴の話題を探している様子で、二、三回頭を回した。
「そうだな、御山さまのことはどうだ」
「ミヤマ……ですか?」
「ああ、神さまだ。龍神さまといえばいいだろうか」
「もしかして八大龍王のッ!?」
「そういえば、外ではそのような肩書きもあったと聞くな」
八大龍王……虹龍や地龍も含まれ、神と同一視される存在である。
また中には、龍王を「存在する幻想」と呼ぶ者もいるらしい。
「でも……ミヤマさまですか……?」
ルゥラは首を捻った。
八大龍王については、両親や祖父母からお伽話のように聞かされてきたし、家にあった本にも龍王について記述されたものは幾つかあった。
そこには、虹龍、地龍、雷龍、黒龍、水龍、海龍、赫龍、天龍とあった。
御山はどれにあたるのだろうか。
ルゥラは、とりあえず虹龍と地龍を除いた六体の龍の名前を言ってみたが、政左衛門には心当たりがない様子。
「すまぬ。我が国では御山さまで通じるものでな」
「い、いや、大丈夫です。……でも、いったいどの龍王さまなのでしょうね」
ルゥラは、目をきらきら輝かせた。
知らないことを考えると、心がわくわく弾むようで楽しいのだ。
「そうだな」
政左衛門は、謹直な顔を綻ばせて微笑した。




