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討龍譚  作者: 二式山
  一章  旅
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四話 はじめまして

 

 翌日もまた、商談である。

 見学だろうと意味はある、といわれ連れまわされる。


 と、今日は父親もいた。


 ギルドに出した依頼が受理されれば、ルゥラ達が宿泊している宿に連絡が届くことになっている。


 ルゥラは、今日も移動の途中、街の風景をつぶさに見た。


 今日は、街の角を主に回ったため、レッドモスと街の境界線をありありと見ることができた。


 人と自然の境界線が明確に分かれている。


 森に棲む魔物の対策のためか、森と街の間には深い堀と三メートルくらいはある土塁や逆茂木がある。


 別に珍奇な光景ではないと思うが、ルゥラにとっては真新しい。


 ラマークに来る際に通った森には魔物はいなかった。


 故郷の街は城郭都市であり堀も穿たれていたが、それは対人用であってピズのものとは趣が違う。


 故郷のそれは、対照的な整った美しさがあったが、ピズは野戦築城といったような、僅かな時間と予算で組み上げたような必死さが見てとれた。


 ちなみに魔物とは、見た目は動物に似ているものもいるが、似て非なるもので、その体内に魔力というものを溜め、生半可な剣では傷を付けることすらできない。


 ほぼ全世界に棲息しているが、ここセントレージア内であれば、国境付近やレッドモスなど国境に面する森林くらいである。領土の中心部に棲んでいた魔物は遥か昔に討伐されて今はいない。


 また、魔力というものは、この世生きとし生けるものにとって生命の源であり、工夫すれば魔法という超常の技も使えるようになる。




 商談が終わり、帰り道。


 陽が赫く、傾いている。


(明日はどこから見ようかな)


 ルゥラはうきうき心を弾ませていた。


 明日から自由時間なのだ。


 商談はあらかた終わり、あとは事務作業や次の街までの物資の買い出しである。


 事務作業などは、ヨークは、そこまでしなくて良い、と言ってくれた。

 そういうことはもう少し大きくなってからでいいそうだ。


(何が見れるだろう)

 商談で街中歩き回るうちに、この街の姿は粗方見終わってしまった。


 しかし、自由に見ることができれば、見れていなかった部分もあるかもしれない。


 ルゥラの頭の中はすでに明日のことで一杯になっていた。



 

 ピズの街に来て三日経った。


 次の街へは四日後に出発する予定だ。


 ルゥラは朝食を食べるとすぐ、まるで誘われるように宿から飛び出した。


 外に出、彼の網膜に飛び込んできた景色は、商談のついでに見ていた景色とは少し違うように思えた。


 街全体が明るく、きらきら輝いている。


 ルゥラは駆けた。


 空は深く澄んでいる。


 ルゥラはピズの街を隅から隅まで舐めるように駆け回った。


 後ろからオリバーがついてくるが、ちょこまかと動くルゥラを追うことで必死だ。




 陽が白く眩い。


 昼頃、昼ごはんを食べようと宿に戻ろうとすると、宿の前の路上で、ヨークと見知らぬ人達が談笑していた。


 彼等は皆、何かしらの武器を携帯している。


(あの人たちが冒険者ッ)


 ヨークの出した依頼を受けた人達だろう。


「父さん!」


 ルゥラは声をあげた。


 ヨークは、丁度いいところに帰ってきた、という顔をして、彼等は冒険者で、商隊の護衛についてくれることを話した。


「お願い、しますッ」


 ルゥラは緊張で動きがぎこちない。


 上気して顔が赤くなってしまっていた。


「こちらこそ」


 冒険者の一人がゆっくりと手を差し伸べた。


「あ、はいッ」


 ルゥラも手を出し、その冒険者と握手を交わした。


 大きく、岩のような手だった。


「俺は護衛隊の隊長になったブレントだ」


 中年の男で、背丈は百七十○センチくらいだろう。


全身岩のような体躯をしており、顔面に荒々しく無精髭を生やしていた。


 護衛隊は、彼を含めて中年の男四人に若い男が二人、若い女が二人。


 あとでヨークに聞いたことだが、冒険者の仕事は、今回のような護衛や森に生える植物などの採取が主であり、その性質上それぞれ三〜六人ほどのグループを組むことが多いそうだ。


 今回は、ブレント達中年の組と若者四人の二つの合同グループであり、ブレントは年頭という理由で隊長に選任された。


「そうだ、こいつに話してくれないか」


 とヨークがいった。


「話?」


「なんでもいい、ルゥは外の世界に憧れていたみたいだからな、レッドモスの話でもどこか遠出した時の話でも」


「わかった」


 ブレントは景気良く頷くと、背後の仲間に声をかけた。


「おい、ドログ。お前の与太話の出番だぜ」


「与太話とは失礼だな、武勇伝といえ」


 ドログ、と呼ばれたのは彼の背後にいた屈強な中年。


 顔中の至る所に傷痕が残り、見えていないが身体にも傷痕が無数にあろうことは容易に察せられる。


 彼は、ルゥラの方を向き、真ん中に深い傷痕がある顔を歪めてカッと笑った。


「いいぞ、少年。俺の武勇伝を腹いっぱいになるまで聞かせてやろう」


 ドログは音を立てて笑い、話は酒がなけりゃ進まねぇ、といって一足先に宿に入っていってしまった。


 ルゥラは弾む足取りで彼の後について宿に入った。


「彼は話がうまいのか?」


 ヨークが訊いた。


「まあ、俺達の中で一番の古株だからなあ。色々な話を知っている」


 ドログはブレントと出会う前はソロで各地を遍歴していたらしい。


 ただ、人の上に立つのが嫌で、リーダーの役は毎回ブレントに押し付けているようだ。


「時間があれば俺も聞こうかな」


「やめとけやめとけ」


 ヨークの呟きにブレントはすぐに首を振った。


「子供には夢物語だろうが、大人が聞けばただのカビの生えた話だ」


 それに長いし疲れる、ともブレントは付け加えた。


「そういうものか」


 ヨークは天に向かって大きく背伸びをした。


「また一仕事だ」





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