三七話 霓の首都
今日、ルゥラは他の付いて来た子供達と一緒に街の観光に出た。
キツツキは、不知火、皇帝との会談。
「あまり遠くに行くなよ」
「章さん」
キツツキに随行した者は、数名いるが、その中に章も入っている。
「それにしても、すごく綺麗ですね」
ルゥラは目を丸くして周りを見渡した。
ここに来た時にも、街の風景は少し見たが、亡命政権とはいえ、この広陽は、その首都であるに相応しい様相を持っていた。
朱の塗料が柱に壁に、街の建物ほとんどに塗られており、視線を上げれば、青く光る瓦が陽を反射して目が痛いほど輝いている。
また、道は馬車三台並べても通れるほどであり、様々な見た目の人間が右へ左へと交叉する。
大通りを外れれば、屋台が立ち並び、陽が暮れれば、その喧騒は割れんばかり。
「僕の故郷の王都みたいです」
「ああ、皇帝がいるだけのことはある」
章は、眩しいのか、目を細め、道の脇にある朱塗りの壁や柱を見つめた。
「そういえば、章さんはこの辺りの生まれなんですか?」
と、ルゥラは訊いた。
章は、その名前の通り霓の出身だが、一言に霓といっても、その範囲は広大であり、東から西まで数百キロはある。
「もう少し東だな、ここよりは大きくないがそれなりに栄えていた」
ただ、章は薄く笑い、いまはどうなっているか知らんが、と付け加えた。
「とりあえず、街をぐるりとまわってみるか」
「はいッ」
ルゥラと子供たちは、章に連れられ、街を散策した。
(洛遼とも違うなあ)
似ているが、街の雰囲気が明確に違う。
洛遼にも朱の塗料は使われていたが、あくまで一部の建物のみに、である。
ここまで見渡す場所いたる所に朱が塗られてはいない。
しばらく歩いたのち、ルゥラたちは大通りを外れ、脇道に入った。
(へぇ……)
ルゥラの足取りが遅くなった。
宮殿のある街の中央部や大通りは、朱塗りの鮮やかな建物が多いが、一歩逸れると人々の営みが顕著に現れた。
狭い道のそこここに出店が立ち並び、道行く人々は土埃で汚れた服を気にもせず、忙しく動き回っている。
「何か食うか」
「うん、食べる!」
子供のうち一人が叫ぶようにいった。
昼にはまだ早いが、ちょっとした軽食である。
章はある出店に立ち寄り、鶏肉の串焼きを人数分買ってくれた。
その串焼きは、黄金色に焼き上がってとても美味しそう。
ルゥラや子供たちは、小さな口の周りを汚しながら、串焼きにかぶりついた。
章も、自分の分を、串を横に、ゆっくりと食べた。
広陽の大通りは瓦は輝き朱が至る所に塗られて絢爛豪華だが、脇道の奥や街の端の方は木の地色が現れ、大通りと比べ、多少のみすぼらしさはある。
ただ、人通りはあるし、出店はあちこちに出て盛況、活気は大通りと比べても遜色はない。
やがて、昼になると、昼にもかかわらず出店の提灯に灯がともり、料理の甘美な香りが通りを埋め尽くした。
ルゥラたちは、出店には寄らず、一旦大通りに戻り、一軒の料亭に入った。
今日、ルゥラたちが広陽の観光をすると聞き、皇帝があらかじめ予約をとっておいてくれたそうだ。
気配りが行きとどどいている。
それだけ、キツツキの信用を得たいということか、もしくはこれほどの気配りができねば、亡命政権の長など務まらぬというのか。
席は、それぞれ個室になっており、ルゥラたちは、その中の一室に通された。
そこは、一段高くなっており、靴を脱ぐ必要がある。
「すごい、きれい!」
部屋に上がると、ドタドタと子供たちは興奮して、部屋の中を走り回った。
「……落ち着け」
章は、怒鳴ることはせず、ため息混じりに注意をした。
そして、走り回る子供たちの襟首を掴んで一人ずつ席に座らせた。
「ほら、座れ」
子供等は、きゃっ、とはしゃぐが、章に捕まって全員大人しく座った。
ルゥラは、来た時から静かにしている。
大人びいているというべきか、ませているというべきか。
とかく、しばらくすると料理が運ばれてきた。
香辛料のたっぷりきいた肉料理に、春雨のような麺など諸々。
霓の料理は、宮廷でも街に下りても香辛料が強い料理が多い。
ただ、それぞれに独特の風味があり、決して似通った料理ばかりではない。
肉料理は、ドロッとした甘辛いタレがかかっており、宮廷で食べたものよりも味が濃く、また、春雨風のものは、ピリリと辛いが後から酸味と甘味が口の中に広がっておいしい。
ルゥラは、昨日と同じように、口の周りをタレの色に染めながら、他の子供たちと同様に食事を口の中へ次々と放り込んでいる。
皆、午前中、街の中を歩き回っていたせいか、余計に腹が減っていた。
章も、ルゥラや子供たちを見つつ、それなりの量がある料理を、次々と口の中へ運んだ。
(懐かしい味だ)
洛遼でも、霓の料理は食えないことはないが、それでも、霓の建物に囲まれて食べると、懐かしい気持ちが込み上げてくる。
ふと、窓の方を見れば、光が部屋の中へ落ちていた。
平穏な一日。
章は茶を啜った。




