三六話 鼎談
キツツキは、円卓の一方に座った。
ルゥラたちは、キツツキの背後、部屋の隅に控え、円卓の周りは、キツツキ、不知火、叔珊の鼎座のかたちとなった。
「あの人が皇帝さまですか」
ルゥラは、あの豪華な服を着た人がそうか、と隣に座る単羲に小声で訊いた。
彼は、五十半ばの、やや痩せた顔立ちの男で、キツツキの秘書官的な役割で今日は同伴した。
その単羲が、ルゥラの問いに小声で、
「そうだ。あと、皇帝陛下だ」
と答えた。
叔珊——姓は高、名は凱、亡命政権では二代目であり、先代皇帝である父は、霓の最後の皇帝の従兄弟にあたる。
歳は三十二、身長は約百七◯、やや筋肉のついた痩せ型で、髪は赤みを帯びた黒、垂れ目だが、その眼光は射抜くように鋭く、しかし不思議なことに、全体から厳しさはまったく感じられない。
また、身にまとう豪華な衣装のせいか、もしくは本人が天然に所有するものか、そこに佇むだけで風格があり、小柄にもかかわらず、体格が巌の如き不知火や、長身で立派な体格のキツツキにさえ劣らない。
「はい」
ルゥラは単羲の答えに頷くと、部屋の中央の三人へ目を移した。
三人は、その肩書通り、それぞれ厳然たる風格を持している。
叔珊は亡命政権とはいえ霓の皇帝、不知火は葦鳴の元将軍であり派遣軍の大将、キツツキは一国に比肩しうるほどの縄張りを持つ猛者。
この内、叔珊と不知火は端座しているが、キツツキは円卓に頬杖つき、あぐらをかいて 姿勢を崩していた。
「それで叔珊、これはなんだ」
と、キツツキは人差し指でトントンと円卓を叩いた。
霓に円卓を囲んで話すという習慣はない。
また、葦鳴にもない。
叔珊は、ああ、と頷き、目の前の円卓を撫でるように触れた。
「この大地の南の端にはこういう文化があると聞く。これは便利でな、互いのあれこれを斟酌せず、腹蔵なく話すことができる」
互いのあれこれ、とは身分階級のことだろう。
「コレとしては諸君等とよき友人として会いたかったのだ」
と、叔珊は微笑を二人へ向けた。
「そうか」
「………」
キツツキは頬杖つきながら微笑をたたえ、不知火は興味がないのか、目を瞑り黙っていた。
(たしか……、皇帝陛下はキツツキさんと同盟関係だったような)
ルゥラは、そんな話を聞いたことを思い出した。
数年前、魔族に敵対する者同士として両者は同盟を結んだ。
ただ、厳密には同盟ではなく、緩やかな協力関係である。
同盟という強固な関係をキツツキが嫌ったからだ。
「さて、客も揃った」
と、叔珊は手を叩き、用意していた酒肴を部屋へ運び来させた。
「諸君等も遠慮なく食べてくれ」
と、叔珊は不知火の後ろに控える側近と、ルゥラ達に目を遣り、沁み通るような微笑を浮かべた。
料理は、ルゥラ達には床に、叔珊達三人には円卓に置かれた。
出された料理は、肉に魚、野菜など色とりどりで、どれも香辛料の匂いが鋭く、鼻の奥を刺激する。
また、酒も出された。
いつの間に飲んだのか、キツツキの杯はすでに空である。
宴会が始まった。
ルゥラは、出された肉に、むしゃりとかぶりついた。
甘いタレと香辛料がぴりりと効いて美味しい。
ふと、周りを見ると、不知火の部下は、話さず黙々と出された料理を食べ、霓の臣は、招待した当事者ゆえに遠慮したのか、食事はなく、にこにこ笑顔をこちらに向けている。
また、単羲は無口な男で、黙々と料理を食べ、話す気配がない。
部屋の中央でも、不知火はその部下と同じようにまったく喋らず、キツツキも微笑を浮かべているが、自分から話そうとはしない。
唯一、叔珊だけは、これはどの地方の料理だとか、どんな食材を使っているのだとか、と話すが、二人は、聞いているのかいないのか、頷くばかりであった。
やがて、料理をすべて食べ終わると、今日は一旦おひらきとなり、正式な会談は明日に持ち越され、皆、用意された部屋へ戻った。
(おいしかったなぁ)
ルゥラは、戻る途中、服の袖で口元をごしごし拭った。




