三四話 いざ霓へ
「キツツキ……さん。おは、おはよう……ございます」
「ほう、上手くなったなぁ、ルゥラ」
朝、廊下で葦鳴語での挨拶を受けたキツツキは、ルゥラを褒めた。
ルゥラは、語学の才能があるらしく、葦鳴の言葉を習ってまだ半年も経っていないが、ルゥラの語学力はかなり上達した。
また、霓の言葉もそれなりに覚えた。
飲み込みが早い。
この様子であれば、一年もすれば、ほぼ満足に使いこなすことができるであろう。
「えらいな」
「えへへ……」
ルゥラは頬をかいた。
三月も、あと数日となったある日。
ルゥラは、屋敷にいる子供達とすごろくで遊んでいた。
彼がいかに語学の能力に天稟があったとしても、十一歳の子供であることには変わりがない。
そして、遊び相手である子供達は、この街に来た時に開かれた宴会の時、給仕をしていた子たちだ。
ほとんどは人間の子だが、中には数人魔族も入っている。エルフの子はいない。
彼等は、キツツキに拾われた孤児だという。
彼が、縄張り内の森であったり、縄張り外へ他行している時であったりに拾ってきたそうだ。
屋敷の部屋の一つで、ルゥラがその子供達と遊んでいると、急に勢いよく障子が開け放たれた。
その場にいた子供全員が、障子の方へ目線を移した。
「ルゥラッ。行くぞ!」
敷居向こうに立つキツツキは、いつも通り華美な着物を身につけ、気魄がみなぎっている。
しかし、どこへ行くというのか。
「キツツキさん」
子供の一人が、誰ともなく呟いた。
「どこへ……、行くんですか?」
ルゥラが尋ねた。
「火翠だッ」
「かすい……」
ルゥラも、この名称が、霓のあった土地一帯を指す言葉であることは知っている。
「ねえ、とうりょー。ルゥラだけ?」
「なんだ、お前らも行きたいか?」
子供達は顔を見合わせた。
「僕は行きたい」
「わたしはいいや」
「じゃあ、僕もいい」
結局、行くと答えたのは、魔族の子供を含む数人であった。
キツツキは、わかった、と頷いたが、でもお前らはダメだ、と魔族の子等をさした。
なんで、と問われると、
「あそこは魔族が侵略して手に入れた土地だ。そこにお前等が顔を出せば……、色々うるさいだろう。石を投げつけられるかもなしれないぞ」
と、なかば脅すように言った。
「とりあえず、お前等はダメだ。家で大人しくしてろよ」
こういうと、高圧的に聞こえるが、キツツキはいつもの快闊な笑みを浮かべており、子供達に怖がる様子はない。
「……うん」
魔族の子供は、小さな声で頷いた。
そのあと、サクラが、自分も行きたいッ、と騒いだため、彼女も行くことになった。
エルフが霓の人間と会うことは、あまり問題がない。
霓とエルフの接触はほとんどないのだ。
いや、そもそもエルフは閉鎖的であり、関わったことのある異種族自体ほとんどいない。
出発はすぐである。
ルゥラに話があった三日後に、キツツキに随行する数名、そしてルゥラ含む子供達や食糧などを積んだ馬車は、洛遼を発ち、霓の亡命政権のある広陽へ向かった。




