三三話 魔族領の街
函から西へ、山を幾つか越えると、会昌という街にたどり着く。
城壁が四方を囲み、街の規模はわりかし大きい。
火翠——旧霓のあった土地の辺りを、土地の者や周りの人は俗にそう呼んでいる——を巡る主要な道路からは外れてしまっているが、ここから少し南に楽という巨大な港町があり、この街も、その都市圏ということで、それなりに繁盛していた。
不知火一行は、道案内役の史格という者に導かれてこの街に入った。
商人に見せるため、馬車に様々な荷を乗せ、史格が鞭を持っている。
不知火たちは、既に着替えを済まし、この土地の商人の服装になっていた。ただ、不知火だけは、その特徴的な風丰を隠すため、顔全体に布を巻いていた。
「あまり、魔の者はいないようだな」
不知火の部下が、小声で、ささやくように言った。
霓語ではない言葉を話していれば、怪しまれてしまう。
「ええ、幸か不幸か、霓の土地は魔足の皇帝じきじきの物となったようで、魔足の国から遠いこの辺りは、魔足は少ししかいません」
「なるほど」
周りを見れば、魔族領とは思えないほど、人間がそこここで生活を営んでいる。
まるで侵略されたことを知らないようだ。
(国が代々変われば、こうも鈍感になるか)
不知火は一人、周囲の人々を見ながら思った。
霓、霓と呼ばれているが、それ以前にもこの火翠と呼ばれる地域には国が興っており、何度か代替わりしてきた歴史がある。
霓の前は賛という国が存在した。
とかく、長い歴史の中で、こう何度も支配者が変われば、民衆も国に対する哀愁を気ほども感じなくなるのであろう。
(我が国はどうか)
不知火は葦鳴のことを思い浮かべた。
武士は、いい。そのほとんどは教養があり気骨がある。
では、皇帝の周りにいる公卿連中はどうだろう。
(あまり信ずべきではないか)
公卿の臆病はよく知られている。
あとは、被支配階級である百姓。
(百姓は、彼等と同じだな)
欲望があるばかりで、誇りはない。
ましてや、国への忠誠心など、あるはずがない。
まあ、あくまで不知火の主観であり、この街の人々が、そこまで卑屈かどうかはともかく。
(明日は我が身、か……)
街を見渡すと、服装からそれなりの階級とわかる人物が、普通に歩いているし、時々すれ違う兵士も、現地の人間である。
不知火たち一行は史格先導のもと、雑踏の中を進んでいく。
今日はこの街で泊まり、翌日、次の街へ向けて出発する。
空が青い。
不知火に前途への不安はない。
ただ、武士として、与えられた命を、まっとうするのみである。
その果てに待ち受ける運命が死であれ、一向に構わない。




