三二話 援軍
やがて、一隊は山の中にある、函という小さな村に着いた。
「ここは、表向き小さな山村でございますが、その実、霓の拠点でもあるのです」
一隊は、村の人に案内され、それぞれの家に分宿した。
その中、隊長である不知火と数名の側近は、この村で一番大きな屋敷に案内され、そこで村長の挨拶を受けた。
名は李哀というらしい。
村長といっても、年輪の如くシワが刻まれた老人ではなく、四十そこそこの壮年の男であった。
「道中にてお話致しました通り、明日は陛下に会って頂く為、兵士の方々はここで休息をとり、不知火殿と数名の方のみ、広陽へ向け、移動して頂くことになります」
話すのは行燈持ちの男。
広陽とは、現在霓の亡命政権がある街。
不知火達は、筆談はともかく、霓語を話せるものはいない。
それは、霓でも同じことで、葦鳴の言葉を解する者は、目の前の行燈持ち以外はいないといっていい。
「申し遅れましたが、私の名は羅藉です。以後、皆様の通訳を担当させて頂きます」
羅藉は慇懃に頭を下げた。
「まことに恐れ入りますが、移動する際、魔足(魔族の意)の目を誤魔化す為、不知火殿、及び同行する方々には、商人の格好になって頂きますがよろしいでしょうか。あ、お腰のものは布に包みますので、持参して頂いて結構でございます」
「承知した。こちらからもお頼み申しあげる」
不知火は頭を下げ、後ろの側近も彼に倣い頭を下げた。
部屋の中、灯の元、明確に映し出された彼の体躯は、雄偉。
肩幅が広くまるで一個の岩山のよう。
その姿は、霓側の人にとっては非常に頼もしく思えたらしく、不知火へ期待のまなざしを、常に向けている。
顔の彫りが深く、その眼窩に沈む目玉はぎょろりと大きい。そして、縮れた、白髪混じりの髭が顎全体を茂みの如く覆い、彼の風丰を際立たせていた。
その後、両者は幾つか問答をし、それが終わると、様々な酒肴が運ばれ、宴となった。
不知火は酒豪であり、杯を次々と干していく。
その、宴会の最中。
「代殿、あなたは我が国の言葉を知っておられるようですが、それはどこで?」
不知火の幕僚の一人が、好奇心にそう聞いた。
また、「代」とは羅藉の字である。
「実はキツツキという鬼から教わったのでございます。……いや、正確にはその奥方からでございますが」
「キツツキ……」
と、声をあげたのは不知火である。
酒の入った器を宙に止め、眉をひそめ、天井を睨んだ。
「九釣様、知っておられるのですか」
「いや、気のせいだ」
不知火は首を振り、器に入った酒を一気に呷った。




