三一話 夜闇
三月中旬。
様々な草木が花や蕾を身につけ、天地が華やぎはじめた頃。
人が寝静まる真夜中。
二艘の船が、旧霓の港から離れた、周囲を岩山に囲まれた所で錨を下ろした。
その二艘の船から短艇が繰り出され、やがて、船の乗員すべてが上陸した。
海岸は岩ばかりだが、すぐそこに緑豊かな山が、手前にまで迫ってきている。
陸地には、彼等を迎える案内人が一人、小さな行燈を手に、佇んでいた。
「お待ちしておりました」
顔は見えないが、うっすら涙を浮かべているように見える。
「この度は、よくお越しなさいました」
声が、若干ふるえていた。
行燈持ちは、手に持つ行燈をゆらゆら揺らし、内陸の方へ、上陸した一隊を先導していく。
天は雲で覆われ、周囲は行燈の他、黒暗々。
行燈の、か細い灯の先導のもと、一隊は山中、暗い夜道を、ひたひたと、幽鬼の如き様相で進む。
その行燈持ちのすぐ後ろ、上陸した一隊を率いる者の容貌は、暗くてよく見えないが、微かな灯に照らされ、うつし出された体躯は、常人よりも一回りも大きい。
「………」
暗やみの中、目だけがぎょろりと光り、遠くから見れば怪異にも見られかねない。
「此度の援軍。陛下もお喜びになられると思います」
「………」
時々、行燈持ちがあれこれと喋るが、怪異は目を僅かに動かすだけで、沈黙している。
「少ししたら我等の拠点があります。兵士の方々はそこでお休みになって頂き、代表の方は私と共に移動し、陛下に会って頂きます。それでよろしいでしょうか」
「わかった」
その怪異——もとい元三ノ衛将軍、葦鳴の先遣隊の隊長格である九釣不知火は、やっと口を開き、頷いた。




