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討龍譚  作者: 二式山
   二章  峡谷都市 洛遼
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二十六話 宴とエルフ


 夕暮れ。


 空は紅く染まり、徐々に星を浮かび上がらせていく。


 この街は、幸い東西に伸びており、峡谷の内側に建てられている割に、日照時間はわりかし長い。


 ただ、この峡谷は若干曲がっており、日没は、平地と比べてやや早い。


 現在、空は紅くとも、陽はすでに隠れてしまっていた。


 軒に吊された提灯に明が灯り、橋の両端には、必ず二つの篝火が設置されている。


 そのさまは、まさに幻想。


 この街は昼よりも夜の方が美しい。


 その中、ルゥラとキツツキは並んで歩いていた。


 身長差もあって手は繋いでいないが、ルゥラは遅れまいと、てててッ、と足早、小さい身体を揺らしている。


「綺麗ですね」


「そうだろうッ。夜景はこの洛遼が天下随一よ!」


 キツツキは、嬉しそうに胸を張った。


「今まで見た街で一番、きらきらしてて、綺麗です」


 ルゥラは、街の灯りが見せる輝きに目を奪われた。


 キツツキも、自分の街が褒められて悪い気はせず、満足そう。


 (すごいなぁ……、こんなところがあるなんて……)


 軒下の提灯や篝火が、狭い峡谷の中、乱反射して、まるで星のきらめきのよう。


「さて、帰りゃあ宴会だ。ご馳走を用意させてるから期待しとけッ」


 キツツキは快闊に、ルゥラに笑いかける。


 彼の姿もまた、華美な衣装も相まって、輝く街の一部のようで、鮮やかに見えた。



 

 屋敷に帰ると、人が廊下の上を、あちらこちら。


「あ、大将ッ。準備はもうすぐですッ」


 と、キツツキに言ったのは景姫英。


 他の者も、気づき次第キツツキへ挨拶をしていく。


「先に大広間に行ってようか」


 と、キツツキはルゥラを連れ、この屋敷で最初にルゥラと再開した部屋へ。


「こんなに大っきくなるんですね」


 ルゥラは目を丸くして驚いた。


 最初に入った時は、五十人くらいが入れる広さだったのが、今では二百人は軽く入れる部屋へ様変わりである。


「襖を外したからな」


 キツツキは、先程座っていた一段高くなった上座には座らず、その手前で腰をおろした。


 ルゥラはその隣。


 周りを見渡すと、部屋にはすでに酒肴がずらり。


 (大きなテーブルじゃないんだ)


 ルゥラは目の前にある、料理がのった小さなテーブルを見つめた。


 セントレージアでは、一つのテーブルを囲んで食す。


 しかし、ここ洛遼では、料理は、目の前の小さなテーブル——膳の上に乗せられていた。


 席は、部屋に、三つの長方形のコップのように、整えられていた。


 キツツキを底とすれば、その両脇は、ずらりと膳が並んで、向かい合うようになっており、頭は開き、給仕達が通る道となっていた。


 キツツキは三つの長方形のうち、真ん中。


 長方形の中を、給仕をしている小さい子供等が、ちょこまか動く。


 時々、大人も現れるが、ほとんどの給仕は子供である。


 中にはルゥラと同年代くらいの子もいた。


 ルゥラは、その子等を眺めた。


 まだ宴は始まらないが、そこここに人が座り始めている。


 しばらくして、ルゥラは給仕達から目を離し、


「あの……」


 ふと、そう言った。


 キツツキは、二メートルはあろう大男、ルゥラは必然、彼を見上げた。


「どうした?」


 ルゥラには、彼に聞いておきたいことがあった。


 子供とて、ここまで親切にされれば、誰でも疑問に思うこと。


「そういえば、なんで、助けてくれたんですか。それに、こんなに良くしてもらって……」


 本来、キツツキとルゥラは他人である。


 しかし、キツツキの義侠がルゥラを救い、縁を結ぶことになった。


 ルゥラには、彼がなぜ他人にここまでよくするのかが、わからない。


 彼の脳裏には、商人の息子らしく、損得や利益という、義侠とは程遠いものがあった。


 それに、助けるならまだしも、なぜ洛遼にまで呼んで、ここまで歓待してくれるのか。


 ルゥラにはわからなかった。


 その問いを聞いたキツツキは、目を見開いて数秒黙ったあと、大口あけて、はじけるように笑った。


「ルゥラッ」


 キツツキの声はよく透る。


 ルゥラの頭をポンポンと撫でた。


「合縁奇縁、俺が好きにやってるだけさ」


 キツツキは、気にすんな、と口角上げ、不敵に笑った。


 そして、呟くように、


「それに、約束もあるしな」


 とも言った。


「約束?」


「ああ、人を嫌うな、ってな」


「奥さんと、ですか?」


 ルゥラは、好奇心のまま訊いていく。


 キツツキは、それらに答えてやった。


「いや、ガキの頃の恩人だな」

「恩人」


 ルゥラは、そうなのか、とこっくり頷いた。

 これ以上は、興味を失って訊かなかった。


 やがて、人が集まり終わり、酒肴も揃った。


 ルゥラの隣には、左側には前述した通りキツツキが座り、その反対、右側には宋蒙が座った。


 キツツキの左側、ルゥラの向かいには、彼の妻。


 章とミシウは、ルゥラの列のずっと後方。


「さてッ」


 キツツキが声をあげた。


 その左手には盃、妻がその中を満たした。


「今日は前話した通り、ルゥラが来た記念だッ——」


 と、キツツキは幾つか口上を述べ、その後、


「——では、皆騒げッ!」


 と、盃を干したことを合図に、各々酒を飲み、料理へ手をつけた。


 ルゥラも、ちびちび食べ始めた。


 他の者は箸を使っているが、ルゥラの膳には、木製のスプーンと、爪楊枝があった。


 キツツキが気を利かせたのだろう。


 ただ、セントレージアでは、手掴みで食べることがほとんどである。


 一部、上級貴族がスプーンを使うこともあるようだが、基本はどこも手掴みで食べる。


 ルゥラは、慣れた方の手掴みで食べた。


 膳の上には、ご飯、味噌汁、漬物、焼き魚や肉など。


 まずは焼き魚と肉、魚は塩っぽい味付け、肉は色々香辛料がかけられているようで、セントレージアよりも味は濃い。


 ご飯はだけは、ほくほく湯気を立てて熱かったのでスプーンを使った。


 味噌汁や漬物は塩っぽい。


 (これが、葦鳴の料理かな。それとも霓?)


 そう、ルゥラは思った。


 ただ、どうあれ料理は不味くない、全部美味しかった。


 洛遼の中を歩き回ったことも、美味しかった要因だろう。


「どうだ、うまいか」


 横からキツツキが訊いてきた。


 その頬は、すでにやや赤い。


「はい。おいしいですッ」


 ルゥラは頷いた。

 ぱくぱく、料理を口へ運ぶ。


 キツツキは大笑、周りは、がやがや騒がしく。


 やがて、宴も酣の頃。


 ——ドンッ!


 突如、天井が轟音とともに震えた。


 一瞬の沈黙。


 しかし、キツツキや他の人たちは一瞬天井へ顔を向けただけで、すぐ何事もなかったように酒を片手に騒ぎ始めた。


 中には、一瞥すらしなかった者もいた。


「まーた、あいつか」


 キツツキは、ため息を吐きつつ、盃を干した。


 ルゥラは状況がのみこめていない。


「あの、あの音はなんだったんですか?」


 と、キツツキに訊くと、彼は頭を掻きつつ、


「アレ……、ああ、すぐわかる」


 と、また小さくため息を吐いた。


 少しして、バンッ、と勢いよく襖が開かれた。


 そこに立っていたのは十六くらいの少女。


「お頭ァッ」


 その少女は、そう声を荒げると、魔法の力なのか、凄まじい跳躍で、部屋の反対側にいるキツツキの元へ、たった三歩で辿り着いた。


「お頭ッ、今帰ったッ、遅れたッ!」


「お前……、屋根の上に着地するな、とアレほど言ったろう」


 キツツキの顔は苦々しげ。


「あとで直しとけよ」


「ええーッ」


 少女は、不満そうな顔をするが、キツツキはそれに、軽く笑っただけであつた。


 一連のやり取り、言葉がわからないルゥラにはさっぱり。


 しかし、なんとなく先程の轟音は、彼女が出したものだとわかった。

 

 彼女は、視線をルゥラへ変えた。


 ルゥラも、騒がしく登場した彼女に視線を向けている。しかし、その方向は顔ではなく、耳の方へ向いていた。


「————、……————ッ」


 彼女は何か喋ったが、ルゥラには、何を言っているのかが全くわからない。


 困惑した表情で、首を傾げた。


 それに気づいたキツツキは、気を利かせて、


「お前がルゥラだな、って訊いてるんだ」


 そうです、とルゥラは少女へ向けて頷いた。


「————ッ、——……————ッ」

「——、————」


 また、少女は何か言い、キツツキもそれに答えた。


 キツツキの返答を聞いた少女は、何故か、不満げに頬を膨らませた。


「どうしたんですか?」


「後でミシウに翻訳してもらえって、お前の話が聞きたいんだとよ」


 キツツキは、また盃を傾け、


「————ッ」


 と、快闊に笑い少女へ何か言うと、彼女は若干不機嫌そうな顔をしながらも、空いている席に座って料理を食べ始めた。


 魔法など能力は別にして、姿は、普通の少女である。

 ただ、人間と違う点が一つ。


 彼女の耳が、人間よりも尖っていたのだ。

 耳が尖った種族は聞き覚えがある。


「あの……、もしかしてあの人は、エルフですか?」


 と、ルゥラはキツツキに訊いた。


「おお、よく知ってるな」


「前に本で読みました」


「あいつはエルフだ。他にも何人かいるぜ」


「エルフは、北の大森林に籠って出てこないのじゃないんですか?」


「……ああ、群れと合わなかったり村八分を受けたりで、時々来るんだよ」


「ほぉ……」


 ルゥラは目を輝かせた。


 エルフといえば、伝説にも名高い。


 その寿命は約千二百年、男女ともに細くすらりとした体型であり、髪色は、例外はあるものの白髪と金髪が多い。


 この世界の種族中、最も魔法を扱うことが上手く、またその長命も相まって、エルフはこの世界において大勢力を誇っている。


 まあ、エルフの王の方針で、虹龍国のように、自ら侵略することはほとんどなく、現状、北の大森林に引きこもっている。


 ただ、他国に侵略されれば、凄まじい反撃を行い、一国など容易く滅亡させてしまう。


 そして、そのエルフの王は、数千年間変わっておらず、五星候と讃えられている。


 ルゥラには、伝説が目の前に現れたような気がした。


 ルゥラは、ご飯をスプーンですくい、ぱくりと食べた。


 あの少女には、宴会の後に会えるようなので、まずはこの宴会を楽しもうと思った。




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