二十三話 和解
ルゥラは、ミシウ、章と共に家へ。
時々、靴が、石畳の上を転がる砂利を、じゃらりと噛む。
そうして、家へ向かって歩いていると、向こうから母親が来るのが見えた。
心配になって追いかけて来たのだろう。
「お母さん……ッ」
ルゥラは、たたたっ、と駆け出した。
「………」
ルゥラは、自分から出て行った手前、なんだか気まずそう。
「……ルゥラ」
ルゥラの母親も、こんなことは初めてで、困惑している。
「親は、いつまでも親じゃない」
と、口火をきったのは、章であった。
母親は、章を見て、不思議そうな顔をした。
「それは、どういう……?」
母親の問いに、章は目を細め、
「俺に、血縁と呼ぶような家族はいない。……皆、死んだ」
やはり、彼の話の頭だけでは、何を言いたいのかわからない。
「たとえ順調に生きたとしても、子より先に親が死ぬ。……あなたが、どれだけルゥラを守ろうとも、ルゥラはいつまでも子供ではないし、あなたも、少なくとも親として、ずっと共に居られるわけじゃない」
章は珍しく口数が多い。
「俺は九歳で放浪の身となった。……かといって俺の境涯とルゥラを比べる気はないが、それでも、ただ内に囲って守るだけじゃあ、子供は、いつまでも親の玩具だろうさ」
「………」
「それに、俺たちは、そこらの魔物程度にはやられない。あなたの息子を危険に晒すことはない」
「………」
母親は、伏目、葛藤しているよう。
ルゥラは、そんな母を見つめている。
「ねえ……」
母の服の裾を引っ張った。
懇願のまなざしを向けた。
「本当に行きたいの?」
「うん……ッ!」
ルゥラの瞳は、意志が込もって爛々。
母親は、眉をひそめた。
「………」
本当は行かせたくない。
しかし、ルゥラが外の世界に対して、溢れるような好奇心を向けていることも知っている。
ちらり、ミシウと章を見た。
彼等は、キツツキという、護衛の冒険者では敵わなかった魔物を、一蹴した者の配下らしい。
ひとりになったルゥラを、ここまで送り届けてくれたことは感謝している。
ルゥラを救ったキツツキも同じく。
だが、洛遼という場所は聞いたことがないし、そもそも国外にあるという。
「……本当に、大丈夫なんですか?」
母親は、不安そうな目をした。
「大丈夫だ」
「安心してください。息子さんは我々がしっかりと守ります」
章とミシウは、力強く頷いた。
「ねえ、いいでしょ?」
「………」
母親は、眉間にシワを寄せて、しばらく逡巡。
道の上、陽はまだ高い。
ルゥラは、母の服の裾を掴みつつ、ダメなのかな、と不安の表情。
ひとつ、踵で石畳を蹴った。
やがて、母親は、肺の空気をすべて吐き出すように、大きなため息を吐き、
「わかった。そんなに行きたいなら、行っといで。気をつけるのよ」
微笑って言った。
「いいの!?」
ルゥラは、やったッやったッ、と飛び跳ねんばかりの喜びよう。
「うん。でも、危険なことはしないことよ」
「わかったッ!」
ルゥラは喜色満面。
「じゃあ、帰ろうか」
「うん!」
「では、あの、息子をお願いできますか?」
と、母親は、ミシウと章に視線を向けた。
「もちろん」
ミシウは快諾。章も、そのうしろで頷いている。
まだ、母親は言いたいことがあるようで、
「あの、先ほどはご無礼を働いてしまったようで……、申し訳ありませんでした」
申し訳なさそうに顔を伏せた。
玄関での出来事だろう。
「いえいえ、気にしてませんから」
「問題ない」
ミシウと章は、問題が一段落したとみて、安堵したように微笑った。
と、ルゥラが母親のそばから離れ、一歩進み出た。
ぎこちなく頭を下げ、張り切った声で、
「あの、よろしく、お願い、します……ッ!」




