二十二話 喧嘩
「いや、あの、困ります」
ルゥラの母は、洛遼行きに不満のよう。
ルゥラを隣街までしか行かせていないのが、彼女の仕業であることは前述した。
また、遠出した家族が遭難したというのも事実。
次、遠出すれば、今度は大切な息子を失ってしまうのではないか、という恐怖があった。
「ねえ、行ってもいい?」
ルゥラは、母親の服の裾を引っ張りつつ言った。
しかし母親は、
「ダメ。外には怖い魔物がいっぱいいるんだよ。それに、あの時のように、襲われたら今度は死んじゃうかもしれないんだよ」
と、ルゥラの頭を撫でつつ、かぶりを振った。
また、母親はミシウ達の方を向き、
「あなた達も、息子をたぶらかすのはやめてください」
と、迷惑そうに言った。
「大丈夫だよッ。この人たち強いんだよ!」
と、ルゥラは反論。
「それに、キツツキさんはもっと強いし!」
だから行っていいでしょ、とルゥラは上目遣いで母親に懇願するが、母は再び首を振った。
「何度言ってもダメッ。外は危ないって、いつも言ってるじゃない!」
母親は叫ぶように言った。
「あなた達も、もう帰ってくださいなッ」
母親は、双方の言葉に聞く耳持たず。
ルゥラを内側へ入れ、バンッと玄関を閉めてしまった。
取り残された二人は、顔を見合わせた。
ミシウは苦笑し、章は口をへの字に曲げた。
「また明日、来てみましょうか」
「そうだな」
二人は、今日の宿でも探そうとか、とルゥラの家から離れた。
一方、家の中に入れられたルゥラは、というと。
珍しく怒っていた。
ルゥラは、穏やかな性格ゆえか、怒ることはあまりないのだが、それでも子供、癇癪は起こしやすい。
「ねえ、なんで行っちゃダメなのッ!」
「ダメなものはダメッ。ちゃんと聞き分けなさいッ」
ルゥラの叫ぶ声に、母親も思わず声を張り上げる。
「あの人たちは強いって言ってるじゃんッ。大丈夫だよ!」
「だから、ダメだって言ってるじゃない!」
ルゥラは、親が自分の気持ちを無視していることへ、怒りの感情が湧いてきた。
しかし、母親も母親、あんな不幸があって一年も経っていないのだ。
今度ルゥラが遠くへ行けば、そのまま帰ってこないのではないか、という恐怖が、ルゥラを洛遼へ行かせたくないという思いに直結していた。
「お母さんはね、ルゥラが心配で言ってるのよ!」
「大丈夫だって言ってるじゃん!」
「なんでわからないの!?」
口論は激しくなっていくばかり。
激しく言い合う中、はじめに我慢の限界が来たのはルゥラ。
「もう、バカッ!」
と、言い捨てて、泣きながら玄関を飛び出した。
「待ちなさいッ!」
背中へかかる母の声も遠ざかっていく。
ルゥラは駆けて一目散。
やがて、ドンッと人にぶつかって、ルゥラは尻餅ついた。
「あ、ごめんなさいッ」
ルゥラの顔はぐしゃぐしゃ、ぶつかった人の顔も見ず、地面の石畳を見つつ言うと、
「……ルゥラくん?」
「どうした」
聞き覚えのある声。
顔を上げると、見知った顔が二つ。
「ミシウさん、章さん……!」
ルゥラは、ごしごしと袖で目元を拭き、少し明るい顔になった。
「あの……、僕を『らくりょう』へ連れてってください!」
ルゥラは、必死に、すがるようにいった。
ミシウと章は怪訝な顔つき。
母親と喧嘩別れしてきたことは、彼の泣き顔を見れば明らかであった。
「ルゥラくん……、お母さんと仲直りして、きちんと許しをもらってからじゃないと、洛遼には行けないよ」
「なんで……」
「たとえ喧嘩してしまっても、それでも君の、唯一の肉親なんだ。ここで別れてしまったら、後悔することになる。きっと、洛遼から帰ろうとする時に足踏みしてしまう」
ミシウはしゃがんで、ルゥラと目線を合わせる。
「友達は喧嘩別れしても、それっきりじゃないし、時間が経って仲直りできるかもしれない。でも、親は自分にとって唯一の存在で、そんな存在だからこそ、遠く時間が経った時、どう接すればいいかわからなくなる」
ルゥラは、その小さな眉間にシワを寄せた。
章の方へ顔を向けると、
「どうあれ親だ。別れはきちんと済ませろ」
と、章も、親と和解しろという。
ルゥラは俯き、しばらく考えているようだったが、最後、弱々しく諾と頷いた。




