二十一話 新たな旅の予感
十月、大気が冷えてきた。
ルゥラのいる街では、雪は滅多に降らないが、それでも冬になれば寒さに襲われる。
ルゥラが遭難したのは、春の陽気香る四月頃。
あの後、商会はルゥラの母親が差配することになり、街に残っていた商会員達と共に、商売を再開させた。
母親自身、商会の仕事には、あまり関わってこなかった。
しかし、それでも商会長の妻。
関係各所に挨拶をしつつ、古参の商会員の助言も取り入れ、商売を以前と同じように、軌道にのらせることができた。
ルゥラはその間、商売の勉強をしたり、商隊について行ったり。
ただ、商隊についていくといっても、せいぜい隣街程度。
それ以上は、母親が許さなかった。
この日、ルゥラは二階の自室で、机に向かって本を読んでいた。
プルシード王国建国記。
かつて、セントレージアの北西方向にあった国で、数十年前に魔王に滅ぼされ、今は無い。
——すみませんッ
ふと、階下で呼ぶ声が。
おそらくお客さんだろう、とルゥラはページをめくる手を止めなかった。
「ルゥラ、お客さんよ」
「友達が来たの?」
ルゥラは、ときどき近所の子供達と遊んでいる。
「いや、とにかく、会ってみればわかるよ」
と、母親は目を細めて微笑った。
(誰だろう)
そう思いつつ、玄関まで行くと。
「……よォ」
「ルゥラくん、久しぶりだね」
ルゥラは目を見開いた。
「ミシウさんッ、章さんッ」
あの日、自分をここまで送り届けてくれた二人がいた。
「今日はどうしてここに?」
「ルゥラくんに棟梁から伝言があってね」
「伝言?」
ルゥラの頭に、快活に笑うキツツキの姿が浮かんだ。
そのキツツキの伝言とは一体。
「うん。洛遼に……、棟梁の街に来ないかって」
(らくりょう……)
キツツキの本拠地だろう。
ルゥラは、「洛遼」という聞き慣れない言葉に、きらきらと目を輝かせた。
その洛遼が何処にあるかは知らないが、きっと遠いところだろう。
宋蒙は霓の出身のようだし、洛遼はその近くにあるのだろうか。
とにかく、ルゥラは、その言葉を聞くと、身悶えするほどの、洛遼へのおもいに焦がれた。




