二話 思惑
時は少し遡り、ルゥラが挨拶回りをしている頃。
セントレージアより北東数十キロ。
見渡す限りの樹海にて。
小鳥が鳴いている。
「それでェ、話ってのはなんだ」
二メートルはあるだろう長身の男が腕を組み、目を鋭くし、目の前の女を見下ろしていた。
女の身長は百五十センチほどしかないが、異様な姿をしている。
頭に角が一対と小さな尻尾が服から出て揺れていた。
「龍薙が再び現れたようです。あなたも気をつけるように、と」
「国家の主でもねェ俺が気をつける必要があると?」
男の疑問に彼女は頷いた。
「貴方様はこの世界において神人と目される御方です。彼等から危険視されてもおかしくはないでしょう」
男は、ふんっと鼻を鳴らした。
「龍神さまはどうするつもりなんだ」
「ご存じの通り虹龍様は現在、祭殿を動くことができません。しかし、我々はその託宣に従い、諸国へ赴き龍薙の同行を探っている次第です」
女は事務的な口調で淡々と告げる。
柔和とはいえない雰囲気の中、風が地面に咲く花を撫でた。
花の名は知らない。雑草の花である。
男は屈み、その花を一輪、摘み取った。
そしてその花を顔の前にかざし、眼下の彼女を透かすように見ていたが、急に表情を変え、カッと笑った。
「お前さんの忠告相わかった。だが、近々ドンパチが起きそうで俺はあまり遠くには行けない。せいぜい、レッドモス辺りまでだな」
手放された花が落ちる。男の隣をゆらゆらと。
女は彼の言葉に驚いた様子もなく、
「わかっています。私はただ忠告に参っただけですから心配は無用です」
「いや、待て」
男は帰ろうとする彼女を呼び止めた。
「ここでみすみす帰しちゃキツツキの名が廃る。腕の立つ奴を二人貸す、好きに使ってくれ」
「結構ですと申したでしょう」
彼女は迷惑そうに顔をしかめた。
「どこに龍薙の者がいるかわからないのです。もしかしたら貴方の配下にもいるかもしれません」
男はそう言う彼女の意図を見透かした様に、不敵に笑った。
「案ずるな。そいつらは、赤子の時から俺が世話してきた二人だ。当然信頼できる」
そう、キツツキがいうものの、彼女は依然疑いの目を向けている。
「お前らが世界の為に動いてるってェのに、俺らにゃ指咥えて待ってろなんざ、聞きいれることは出来ねぇな」
キツツキというこの男は、威風堂々としているくせに、腹の内に清流が流れているようで、どこか浮世離れした印象を受ける。
彼女はしばらく疑惑の目で男を見ていたが、大丈夫だろうと判断したのか、では有り難くお受けします、と頭を下げた。
キツツキは「おう」と胸を張ってこたえた。




