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君が笑顔なら

作者: 原田 楓香


「なにこれ!」

 彼女が怒りの声を上げる。彼女は、ネットニュースを見ている。

「ほら。どうせ怒るんやから、ネットニュースなんか見んとき、って言うたやろ」

 僕は言う。

「でも。気になるもん」

「見出しで、腹立つ記事かどうか分かるやろ。そういうのは見んかったらええねん」

「うう」

 

 でもやっぱり気になるらしい。見なきゃいいのに見てしまっては、怒る。

 彼女の推しのアイドルグループのメンバーが立て続けに熱愛を報じられ、ウブな恋心を歌った彼らのデビュー曲を引き合いに出して、イメージと違うことをやっていると揶揄する記事をうっかり見てしまったらしい。


「ウブな恋を歌ったら、ず~っとウブな人でおらんとあかんの?」

「そやなあ。……どうやろ?まあ勝手なイメージやな。たしかに」

「そんなんやったら、都はるみは、北の宿にお泊まりして、着てもらわれへんてわかってるセーターをせっせと編まんとあかんし、石川さゆりは、嫉妬メラメラして恨みを抱きながら、天城峠越えんとあかんことになるやん」

「ぶふっ。何それ」

 僕は吹き出す。

「選曲が、なかなかシブいね」

「大体、アイドルでも自分のプライベートの時間に、普通の若者がするようにデートをして、何があかんの? 犯罪でもないし、仕事サボって行ったわけでもないやん。何があかんのかわからんわ」

 彼女は悔しそうに言う。

「そやな。そっとしといてあげるべきやんな。彼らにだって、守られるべき個人の生活があるよね」

「そうそう。その通り」

 彼女はうなずく。


 とはいうものの、最初に、メンバーの中で自分のイチオシの彼の記事が出たとき、めちゃくちゃ落ち込んでいたのは、彼女だった。

 ありとあらゆる泣いているキャラクターのスタンプを延々と僕に送りつけてきたくらい、ショックを受けていた。

 それが、一晩経ち二晩経ちしているうちに、みるみる立ち直って、逆に彼を批判する記事に激怒するようになった。


「それでも、好きなもんは好きやねん。だって、あの子らの笑顔や歌声に、めちゃくちゃ元気が出て、がんばるぞーって力が湧いてくるんやもん。何年間もいっぱい苦しい思いや努力を重ねて、ここまでがんばってきたことを知ってるから。その姿にいっぱい励まされてきたから。だから、嫌いになんかなられへんし。ずっと応援したいと思うし」

「そうか。なんかわかるなぁ。誰かの姿を見て、笑顔になったり元気が湧いてきたりすることって、たしかにあるよね」

「誰かを好きになることが、ファンを裏切ってるとかっていうの、おかしいよね」

「そうやな。ファンがおるんやからアイドルは恋もするな、っていうのは、ヘンやな。ファンのために、毎日24時間365日、アイドルでいろっていうのは、あまりに無茶な要望やしな」

「そうよ。お店とかで、お客様は神様やねんからって言うて無理難題押しつけてくるお客さんと同じやわ」

「なるほど。そうかもな」

 

 彼女は、ネットニュースを彼らの歌のYouTube動画に切り替えて、言った。

「同じ人間として、私は、あの子らのことを大事にしたい。いつもキラキラの笑顔で、笑わせてくれて楽しませてくれて、幸せな気持ちにしてくれて、ありがとうって思うから。笑顔の陰に、いっぱいの努力があることもわかるから。だからね、こっちの願望ばっかり押しつけるんじゃなくて、あの子ら個人の生活も大事に思いやれる、そんなファンになりたいねん」

「あんなに、泣いてるスタンプ送りまくってたのにね。進化?成長?したね」

「うん。いっぱい送ったおかげで、なんかスッキリしてん。おかげで、リアルには泣かなかったよ」

 彼女がニッコリと笑った。花の咲くような笑顔。

「そうかそうか」僕はホッとする。もう怒りは収まってきたらしい。

 

(何でもいいよ。僕は、君が笑顔なら、それで元気が出るんだよ)

 心の中でそっとつぶやく。

 


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