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第9話「ゲームでリアルファイトはダメ、ゼッタイ」

 あの惨劇から一週間経つ。


 僕と雪菜はこの一週間、麗子さんの発明品の犠牲になったり、ダラダラとゲームをしたり、カレンさんと燐さんの残念な一面を見たりと中々濃厚な毎日だったが、段々と慣れつつあった。


「そういえば嶺二、今度出るk〇yの新作買う?」


「うん、もう予約もしてあるよ。待ちきれないなぁ……」


「私お金ないから諦めかけてたけど、最近橘先輩の実験に付き合ってるお陰で、お金が入ってくるからさ。買おうかなって思って。今からでも予約間に合うかな」


「……治験?」


「なんか栄養価の異常に高い保存食を作ってるらしくって、ぶっちゃけ私的にもタダで栄養価の高いもの食べられるのはありがたいし……」


「えぇ……」


 ――それは大丈夫なモノなのかな……。


 登校しながら、僕が雪菜とそんな会話をしていると、校門を通った先でカレンさんと燐さんが麗子さんと談笑しているのが見えた。


「花園先輩にカレン先輩!? それに二年生でも一番人気の橘先輩だ!」


「スゲーよな……。 なんかあそこだけ別世界みたいだな。話しかければワンチャンお友達に……」


「無理だから諦めろ。同じ二年の俺だって、橘に話しかけても素っ気ない反応しかされないんだから」


 その光景は、まるで物語の一ページのようで絵になっていたが、三人の本当の中身を知っている僕と雪菜は複雑な気分になる。


「ホント、あの三人。表と裏じゃキャラが全然違うよね……」


「あの人達、いつもの三人を見たらなんて言うのかしらね」


 猫を被りながら全校生徒の憧れの的としての振る舞いを続ける三人を尻目に、僕と雪菜は玄関へ向かった。



 昼休み。現在、僕は係活動の押し付け合いに参加した反動で、机に突っ伏してダウンしていた。


 ちなみに僕たちが必死に面倒な役割を押し付け合っている中、夏美さんが進んで一番面倒な学級委員になっていて中々罪悪感が凄かった……。


「おい嶺二、今日はお姫様と昼飯行かなくていいのかよ?」


 と、竜也が僕に聞いてくる。


 ――お姫様って雪菜の事? 


「行く。行くけど、もう少し休んでから……」


「全く羨ましいぞ、何をどうすりゃあんな美少女とお近づきなれるんだ。それにあの生徒会長と副会長、その上にあの滅多に口を開かない橘先輩とまで親交があるらしいじゃないか。おい! どうやったんだ! 吐け!」


「え、マジで? あの三人と? ハハハ……冗談だろ? なあ、嶺二君よォ」


 ――なんで知ってるんだよ……。


 わざわざ遠くの席から移動してきて、必死な形相で詰め寄ってくる直樹。負のオーラを発生させる竜也。それに呼応するように立ち上がった男子生徒達。僕がこの後のめんどくさい展開にため息をつきながらも、夢の世界へ旅立とうとしたその時。教室の扉が勢い良く開いた。


「ちょっと嶺二! いつまで待たせんのよ! お腹も空いたし早く行くわよ!」


「チッ、時間切れか」


 ――眠いけど、多分もう自分じゃ切り抜けられなかったから助かった……。


 雪菜はどうやら、いくら待っていても全く来ない僕に、業を煮やして教室まで迎えに来たらしい。


「あ、けど待って。後五分……。後五分だけ……」


 尚も寝ようとする僕の胸倉を掴むと、雪菜はズルズルと僕を引きずりながら食堂へと向かう。


 ――ん? なんか寒気が……。


 半分寝ながらも、僕がふと強烈な視線を感じて一瞬顔を上げると、雪菜が去り際に僕の隣の席の夏美さんを睨みつけ、夏美さんも普段見ないような物凄い眼光でにらみ返したような気がした。


 ――けど雪菜は兎も角、夏美さんがあんな顔をするわけがないよね……。だって急に真面目な学級委員長ってよりも、木刀持って校舎裏でたむろしてるのが似合いそうな……。ううん。きっと眠気と周りの男子共の殺気でそう見えただけだよな、そうに違いない。


 その後、眠さのあまり味噌汁にソースをかけてしまい、驚いて盛大に味噌汁を被る羽目になったことはまた別のお話。





 放課後、僕はサブカル部の部室に居た。


「嶺二くーん、そこの柿ピーとってくれなーい?」


「はいはい」


「そういえば雪菜ちゃんは?」


「用事らしいですよ」


「そうなんだ。あ、柿ピー取ってくれてありがとうね」


 僕は、ソファで寝ころびながら美少女キャラの抱き枕に抱きつき、テレビに食らいつく燐さんに柿ピーを渡した。

 ついでに、喉が渇いたので僕は冷蔵庫に向かう。


 ――現実って無情だよね……。あれが全校生徒の憧れなんて。


「あ、私にもコーラお願い」


「燐さん、僕は召使いじゃないんですよ」


「ごめんごめん」


 全くもう、と僕がつぶやきながらコーラを運んでいると、炬燵に足がぶつかった。


「あ、すいません」


「うん、大丈夫。次からは気をつけてね」


 カレンさんは僕の方を見ずに言う。どうやら今度イベントがあるらしく、それに向けてオリジナルのBL本を書き上げているようだ。


「燐さん、どうぞ」


「ありがとねー。ムフフフ……。ふひっ」


 燐さんは僕に礼を言うと、またアニメに戻って行った。どうやらサービスシーンの真っ只中のようだ。


 ――ホント現実ってのは無情だよな……。


 燐さんはアニメのサービスシーンに必死で喰らいつき、カレンさんはBL本を書いていて、麗子さんは暇を持て余してコップに少しだけコーラを注いで、そこにメントスを入れて遊んでいる。

 まさにカオスである、しかしそんな光景に慣れてきたのか、若干の居心地の良さを感じてしまった事に僕が自分自身を疑っていると、ふと某ギャルゲーの箱が目に付いた。


「そういえば、なんでこういうゲームってわざわざ箱に入ってるんですかね。滅茶苦茶デカいのもあるし」


 その瞬間、僕の肩を妖怪……もとい燐さんがすごい勢いで掴んだ。


「ヒ、ヒッ!?」


「いい、嶺二君。その箱にはね、夢が詰まっているのよ」


 ――なんか僕、変なスイッチ押した?


「正面の美少女達とのまだ見ぬ出会い! タイトルの甘美な響き! 箱裏を見た時のストーリーに対するワクワク感!」


「は、はぁ……」


「現実ではあんな美少女達と会えない。それに、もし現実に居てもお近づきになれないし、あんな事やそんな事なんて夢のまた夢。そんな私達全オタクの夢が詰まってるのよ」


「えーっと、はい」


「だから箱がデカくて邪魔、とか。こんなにデカく堂々と恥ずかしいタイトル表記するなんて、とか。自分から入ってきたのに、愚痴った上に陳列棚に軽蔑のまなざしを送るとか……とかァァァ! コロス、コロシテヤル……」


 ――この人は昔、なんかあったのだろうか。尋常じゃない殺気が……。


「嶺二君、私と一緒にス〇ブラやらないか?」


 僕が、ブツブツと俯きながら呪詛を吐く燐さんに恐怖して固まっていると、先ほどまで遊んでいた手を止めて、麗子さんが声をかけてきた。


 ――助かった……。


「良いですよ、どうせ暇ですからね」


「NTRダメゼッタァイ……。無理矢理ダメゼッタァイ! フフフフ……。ハハハハハ!」


 僕がふと見ると燐さんはもはや目の焦点も合わせずに、空中に呪詛を吐き続けていたのでそっと肩から手を外し、何も見なかったことにする。


 そうして僕たちはス〇ッチでス○ブラをプレイし始めた。


「ちょ! ピカ〇ュウズルくないか!? 攻撃が当たらない!」


「ふっ、甘いですね橘先輩。僕は何でも器用に出来る妹相手に、毎日ボコボコにのされてるんですよ? エンジョイ勢の先輩相手に負ける訳ないじゃないですか」


「何だとぉ! そこまで言うならやってやろうじゃないか!」


 今のところ僕と麗子さんは5勝1敗で僕が勝ち越している。


「ねえ二人とも……私も仲間に入れて欲しいんだけど」


 そこに、燐さんがやってきた。若干げっそりしているような気がする、大方恨みつらみを全て吐出し尽くしてきたのだろう。


「良いですよ」


「……まぁ良い、嶺二君相手に今度こそ打ち勝つところだったんだけどね」


「ありがと、さぁ! ストレス発散させてもらうわよ!」


 


 10分後。


「ちょっと! 嶺二君のピ〇○ュウズルい!」


「燐さんのシ○〇クだって永遠とスマッシュ技繰り出してるだけじゃないですか!」


「おい! 私は……」


「「雑魚は黙ってなさい(ください)!」」


「良いだろう、私もキレた。君たちが悪いんだからな!」


 更に5分後。


「ちょっと麗子! アンタふざけんじゃないわよ!」


「そうですよ! ス〇ブラを何だと思ってるんですか!?」


 嶺二と燐がキレながら麗子に詰め寄ると、麗子は悪びれもせずに言った。


「別にただ私はク〇パの技を使っているだけだ。掴んだ結果偶々ステージ外に落ちて運命を共にしようと、なんらおかしなことはないだろ?」


「この! ……言わせておけば!」


「弱いからって自棄になって道連れ戦法するんじゃないわよ! 正々堂々戦いなさい!」


「ほう、言ったね? ならばこの部で誰が一番偉いか、ここで決めようじゃないか!」


 そうして、僕たちはリアルファイトへ突入した。


 ――どうして人という生き物は、醜い争いをせずに居られないのだろうか。僕はただ、しつこく陰険に攻めただけなのに!!


 ひっかいたり襟をつかみあったり、もみくちゃになっている内に、僕は吹き飛ばされて炬燵にぶつかってしまう。


「へぶっ!?」


「「あ」」


 僕が、ぶつけた頭をさすりながら立ち上がると、後ろから殺気を感じる。

 僕が後ろを向くと、そこには僕がぶつかった拍子に、こぼれたインクで真っ黒になった原稿と、うつむいているせいでうまく表情の伺えないカレンさんが居た。


――あっ、ヤバい。


 僕は二人に助けを求めて視線を向けるが、知らないふりをされた。


「橘先輩、燐さん! なぜ見てるんです! 僕達は、仲間でしょう!? 目を逸らさないでくださいよ! ねえ! あ、カレンさん。違うんです。橘先輩と燐さんが悪いんです! だから……ごめんなさぁい!!?」


 もう2度と、ゲームでリアルファイトはしないし、誰かが真剣に作業してる近くでは騒がない。僕たちはそう誓った、というか誓わされた。

外出先で再編集したのでちょいミスあるかも……。後、ストックがもう無いのでちょいペース落ちるかもです。

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