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第8話 「黒歴史は成長したから自覚できるもの」

「いいけど、どんなパーティーゲームなの?」


 そう燐さんが聞くと、橘先輩は胸を張って答える。


「ジェンガだ」


「……ジェンガ? 普通じゃない」


「本当にそうかな? 取り敢えずやってみようじゃないか」


 僕たちは炬燵の上にジェンガを積み終え、今はじゃんけんで順番を決めようとしていた。


「「「最初はグー! じゃんけんぽん!」」」


「あ、私が最初ね」


 どうやら、一番手は燐さんのようだ。


「それにしてもなんかありそうに言ってたけど……半透明なだけで普通のジェンガじゃない」


 燐さんの言った通り確かに、自信満々に出してきたものにしては、何の変哲もないただの半透明ジェンガだった。


「フフッ、まあまあ。 試しに一つ引いてみると良い」


 何故かジェンガには参加せず、少し離れたところで椅子に座ってPCをいじりながら橘先輩が言う。


「まぁ良いわ、それじゃあ最初だしちょっと攻めた所に行かせてもらうわ。よっと」


 そう言って燐さんがブロックを抜いた瞬間、引き抜いたブロックが光った。




 僕たちは気が付くと、何故か校舎の廊下に居た。


 僕たちがきょろきょろとあたりを見渡すと、傍にに燐さんが居るにも関わらず、もう一人燐さんが正面から歩いてくる。

 

「え? え? 何!? 私のドッペルゲンガー??」


 僕の隣の燐さんが目を白黒させながらそう言っていると、もう一人の燐さんの方向へと女子生徒が大声で呼びかけていた。


『おーい、こっちこっち!』


『あら、ごきげんよう。どうしたのかしら? 私に何か御用?』


 ――わあ、滅茶苦茶猫被ってる……。キメ顔で微笑んでるし。


『は、花園先輩!? い、いえ、ごめんなさい。その、呼んでたのは花園先輩の後ろに居た彼氏にで……すいません、失礼します!?』


 そう言って女子生徒は顔を真っ赤にして、件の彼氏の方へと走り去る。


 その間、自分が呼ばれたと勘違いしていたことに気がついたもう一人の燐さんは、顔を真っ赤にしてうつむいていた。


 ――なんか、バックにバラでも咲いてそうなくらいキメてたもんな……。


 僕たちがいたたまれない気分になり、こちらの燐さんも顔を赤くして手で顔を覆ってうつむく。そんな状態が10秒ほど続いていると辺りが一瞬真っ暗になり、気が付くと僕たちは元の状態でジェンガを囲っていた。


「なななな、なによこれぇ!」


 燐さんが顔を赤くしたまま麗子に詰め寄ると、橘先輩はあっけらかんとした表情で答える。


「とあるマンガにインスピレーションを受けて、その中で出てきた罰ゲームを私なりにアレンジしてな。このジェンガは罰ゲームが書かれている代わりに、ブロックを抜いたプレイヤーの恥ずかしい記憶を再生するようになっている」

 

「貴方に人の心はないんですか」


 僕がそう橘先輩に聞いたが口を閉ざす。


「あー、ごめんね。この子、今まで研究ばっかりで人付き合いが苦手な上に、人見知りで、親しい間柄じゃないとまともに話せないのよ。特に男の子相手は。無口でクールビューティーな天才少女とか言われてるのはそのせいね。ホントはただの中二病マッドサイエンティストよ」


 ――知りたくなかったなぁ……。これが校内人気ランキング上位陣。現実とは、どうしてこうも上手くいかないものか。


「おーい嶺二くーん! 戻ってこーい!」


 僕が現実に打ちひしがれていると、雪菜が顔を引きつらせながら炬燵から離れようとした。


「わ、悪いけど私は降りさせてもらうわよ! 後はお三方でどうぞ……あれ?」


 雪菜は、炬燵から出ようと踏ん張ったり体を捻ったりするがびくともしない。


「どうなってるの!?」


「ああ、ちなみに逃亡防止用に逃げられないようにする機能も搭載してある。私にも止められないようにしてあるんだ……だからこっちを睨むのはやめてくれ!」


 ――この人は悪魔か……。


 僕たちが、橘先輩の所業に戦慄していると、雪菜が叫んだ。


「じゃあ最後までやるしかないんですか!?」


「そういう事みたいね……」


「や、やってやろうじゃない! そうだ! わざと崩せば……」


「ちなみに、負けるとその人物の人生で一番恥ずかしい記憶が流れるようになっている」


「「「この戦い、絶対に負けられないッ!!」」」


 その瞬間、僕たちの己の尊厳をかけた戦いが始まった。


「……じゃあ、私の番ね」


 雪菜がそう言ってブロックを拭きぬこうとした瞬間、僕は雪菜に猫だましをする。


「ぴっ!」


 だが、雪菜は危なげなくも無事にブロックを引き抜く。その瞬間、雪菜の記憶が再生された。





 僕たちが目を開けると、中学生っぽい男子生徒たちが目の前を元気に通り過ぎていく。どうやら何処かの中学校のようだ。そこでは、今よりも少し幼い雪菜が先生と思われる人に話しかけようとしていた。


『ママー!』


 ――あるよね、つい先生の事お母さんって言っちゃったりすること。


「へえ、雪菜ちゃんはママて呼ぶ派なんだ」


 その瞬間、僕たちは元の場所に戻っていた。


「殺して……」


 雪菜は顔を真っ赤にし、懇願する。


「だれか私を一思いに殺して!!」


「まあまあ、人間だれしも通る道だから……」


「同情なんていらないわよ!! もう嫌!!」


 次はカレンさんの番だ。カレンさんはにこやかな顔のまま、ブロックを引き抜く。


 ――なんでそんなに平然としてられるんだ……。


「こ、ここは……」


 僕がそう呟くと、小さい子供たちが僕たちの方へ走ってきてすり抜けた。どうやら今度は幼稚園の中らしい。


「ねえ、あれ。小さい頃のカレンさんじゃない?」


 雪菜の指さした方向を見ると、幼いながらも途轍もなく可愛らしい子供がじゃれ合う子供たちを物陰から見ていた。


 ――ほほう、仲間に入れて! って言えなかったパターンか。それを今でも恥ずかしがってるなんて、カレンさんは可愛いな。


 そう思いながら僕が小さい頃のカレンさんに近づくと、ブツブツと何かを言っているのが聞こえる。


「ん?」

 

 ――仲間に入れてってお願いする練習かな?


「やっぱりやまと君が攻めで、気弱そうなれん君が受け。いや、だけどイメージとは逆のれん君攻めやまと君受けもいいかも……」


 ――は?


 それを聞いた瞬間、僕は真顔になった。


「カレンさん?」


「恥ずかしいわ。この頃はまだあんまり周りを警戒せずに、思った事口に出しちゃってたもの」


「カレン……。小・中学校で男子同士のじゃれあい見て妄想してたのは知ってたけど、まさか幼稚園の頃から……」


 そして、僕たちは元の場所に戻ってきた。次はいよいよ、僕の番である。


 僕は、意を決してブロックを引き抜こうとする。しかし。


「ていっ!」


 先ほどの猫だましの仕返しをしようとした雪菜の蹴りが、僕の股間にクリーンヒットした。


 ――大きな星が頭の中で付いたり消えたりしてる……。


「おうふ……」


「あ。ご、ごめん……」


 悶絶しながら、それでも僕はブロックを抜き切った。


 そして、僕の記憶が再生される。


「ん? ここは?」


「……僕の部屋だよ」


 ――さて、どの記憶か……。とりあえず誰か、痛み止めください。玉が……。僕の玉が変な所に……。


 僕たちが周りを見渡すと、黒づくめの格好をした幼い僕が、鏡の前に居ることに気が付いた。


「ヘルフレイム! いや、違うな。ヘルフレイムッ! こうか! ヘルッフレイム! よし、これで良い! 次はかめはめ波だ!」


 雪菜は何となく悟りながらも、僕に問いかける。


「ねえ、嶺二? あれは何をしているの?」


「自分で考えたカッコイイ必殺技ポーズの練習です」


 そう言うと僕は股間痛みではなく、恥ずかしさからうずくまって絶叫した。


「どうして! どうしてなんだ! カレンさんは兎も角、他のみんなはそこそこに恥ずかしい位のレベルのエピソードだったじゃないか! 僕だけどうしてこんな! 他にも服を裏表逆のまま外出したり、メントスコーラしてみたら大惨事になったり……もっとこう他にもあるって!? よりにもよってどうして!」


「私もそこそこに恥ずかしいくらいだよー」


「カレンさんはちょっと黙っててくださいッ!」


「ふむ、次はスター〇-スト〇リームの練習だな。行くぞ! スター〇ースト……」


「ヤメロォ!」


 その瞬間、僕の恥ずかしい記憶は終わってくれた。


「ねえ、雪菜。僕、無事に終わったらオーストラリアに家を買って住もうと思うんだ。白くて綺麗な大きな家を……」


 雪菜は僕の肩に手を置いて、優し気に言う。


「大丈夫よ嶺二、こんな事誰にだってある。私はアンタの味方よ」


 カレンさんもその雪菜の言葉に頷く。


「うんうん、そうだよ。嶺二君、気にすることないよー。男の子だもんねー」


「カレンさん……雪菜……」


「そ、そうよね。大丈夫よ、嶺二君! 男の子ですもの、そういう時期があっても……フフッ」


「とか言いながら思いっきり笑ってるじゃないですか! 燐さん! チクショウ、どうしてこんなことに!」


 ――穴があったら入りたい。寧ろ埋まりたい。埋まったまま消え去りたい。



 数十分後。僕たちは色々なものを失いながらも、いよいよ戦いに決着がつく時が来た。


「く、クソ! 僕はまだ生きてたいんだ! 死んでたまるか!?」


 僕はそう言って自分を鼓舞しているが、もう既にギリギリで何処を抜いても崩れそうだ。


 ――僕は死なない! 死ねないんだッ! 予約したギャルゲーをプレイするまでは、死に切れるモノかッ!


「ココだぁーーー!」


 僕がブロックを引き抜いた瞬間、ジェンガの塔は崩れ去った。


「やめろッ! やめてくれ! 他の事なら何でもする! だからッッ!」


 その瞬間、辺りは光に包まれる。


『俺の名前は香月嶺二! 転生者にして、神に選ばれし勇者で全能神だ!』


『嶺二、ちょっと待ってよ!』


 ――やめて。

 

 今、俺の事を呼んだのは旅の仲間で大切な幼馴染の香織、よくわからないけど事あるごとに俺にくっついてくる。


 ――お願いだよ、何でもする。僕にできることなら何でもするからッ!


『嶺二の腕ゲット!』


『抜け駆けは許せませんわ!』


 そう言って俺の片方の腕に引っ付いてきたのはエミリーヌ。この国の王女で、俺の大切な仲間だ!


 「もういいでしょ!? ねえ、頼むよッ! ねえ! ここから出してくれッ! どうして恥ずかしい『記憶』のはずなのに、僕の恥ずかしい中学時代の『妄想』の中に入ってるんだよッ!」


「嶺二……。もう何回もやってて分かってるでしょ。途中で抜ける事は……出来ないのよ……」


 僕は、そっと僕の肩に手を置く雪菜を尻目に崩れ落ちた。


 ――毎度のことながら神様、僕が何したって言うんですか……。


『嶺二は私のだもん!』


『いいえ、嶺二様は他でもない私のモノですわ!』


『『嶺二(様)はどっちを選ぶの!』』


『やれやれ。この世界に転生してから、気が休まる事がないな』


 ――コロシテ……。ボクヲコロシテ……。誰でもいい……。ボクヲコロシテ……。


 『二人には仲良くしてほしいんだけどな、どうして事あるごとに喧嘩をするんだろう。そう思いながらも俺たちは史上最凶最悪の魔王、レギオンを倒す為に旅を……』


「あぁぁぁぁぁぁ!!!???」




 その後。僕たちは元凶たる橘先輩、もとい麗子さん《バカ》にお仕置きをし、このジェンガを封印する事に決めた。

 苦楽を共にした僕らには、固い絆が芽生えていた。そりゃそうだ、あんな記憶たちを見られて裏切れるわけが無い。そんな事をしてみろ、死ぬぞ? 特に僕は。



 尚、僕は中二病だったらしい麗子さんに仲間と認定された。

 アリリコ初めてみたんだけど虚無なんだよな……。ストーリー進めれば面白くなるのかな? けど評価あれだもんなぁ……。ちなみに、今更ながらこの作品の舞台は2018年です。あの頃はまだ、アニメも豊作で良かったなぁ……。今もちょくちょく面白いのあるけど、あんまり合わないの多いんだよな。

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