第7話 「地雷は何処に埋まっているかわからない」
あの衝撃的な面接から数日。
僕たちは、サブカル部の部室に来ていた。そこで初めて知ったのだが、ココの部の設備はおかしい。いや、面接時の生徒会長さんの格好みたいなおかしさではなく、余りにも色々と揃いすぎているのだ。最新のゲーミングパソコンにテレビとゲーム一式。大量のアニメグッズもあるしソファもオーダーメイドだそうだ。なんでそんなに揃っているのかと聞くと、内緒だと可愛らしい仕草で返された。
……聞けば今は本来の理事長先生が昏睡状態で代行が立っているが、生徒会長さんはその本来の理事長先生の孫だそうな。ていう事はう、裏金とか……?
――そんな事を考えていると、どうやら部員を紹介してくれるらしい。けど周りに人なんて……。
「さて! 二人とも入部おめでとう! 早速だけど部員を紹介するわ! 二人とも、もう出て来ていいわよ!」
生徒会長さんがそう呼びかけると、不自然に隅に置いてあったダンボールがガタガタと震える。
――もう既に不安しかないんですけど。
「ちょ! 待つんだカレン! もうちょい手を……」
「麗子ちゃんこそ足をそっちに!」
「痛い痛い! カレン! お前はまな板なんだからぶつかると痛い……しまッ! おい、よせよせヤメロッ!」
ダンボールから一度、鈍い音と短い悲鳴が聞こえると静かになった。
――なんだろう。ダンボールの中かなんかから、聞こえちゃいけない声と名前が二つも聞こえた気がする。
「あちゃー、尊い犠牲に合掌」
生徒会長さんがそう呟いてダンボールに向かって合掌すると、中から人が2人出てきた……。1人は出てきたというよりべシャって音がしたし、倒れてきたというのが正解だけど。
「ふう、やっとでれたよー。君が新入部員の高月君と柊さんだね? 私の名前はカレン・フローレンス。気軽にカレンって呼んでねー」
カレン・フローレンス先輩、生徒会副会長で生徒会長たる花園燐と並ぶ人気者。社長令嬢だかなんだかで、普段の僕じゃあマトモに話すことすら出来ない高嶺の花だ。間近で見ても綺麗なんだけど……。さっきの奇行と血まみれなせいで、僕の抱いていたイメージがガラガラと崩れ去る音がする。
――で、もう一人の血まみれで倒れている人も、何かの間違いじゃなきゃこの学校の上位ランキングに名前乗ってた人だと思うんだけど……。
「え、えっと。よろしくお願いします、カレンさん。ところでこの倒れている人は一体誰なんですか?」
顔を引きつらせて僕が質問すると、カレンさんはにこやかな顔で答えた。
「うーんとね、この子は橘麗子ちゃん。二年生だよー。 ちょっとコミュニケーションに難のある子だけど、仲良くしてあげてねー」
橘麗子さんと言えば、コバルトブルーの髪の無口でクールビューティーな天才少女として人気な二年生。
な、はずなんだけどな……。僕は目の前の、仰向けにひっくり返されて白目を剝きながら、生徒会長さんにつつかれている人物が、どうにも噂で伝え聞いてた人物像と合致せず混乱していた。
「……この人が本当に、あの橘先輩?」
雪菜もいぶかし気な目を向けている。
「噂なんてそんなもんよ。そういえば自己紹介がまだだったわね! 私は花園燐、気軽に燐さんって呼んで……って入学式で挨拶もしてるし知ってるか。改めて、これからよろしくね? 二人とも!」
――拝啓、全校の男子生徒へ。どうやら僕たちの抱いていた幻想は、ただの幻想でしかなかったようです。
僕は僕の中の幻想が跡形もなくブチ殺される音を聞きながら、もうめんどくさいんで悟りを開いたことにして、心へのダメージを減らすことにした。
――うん、まあそれは兎も角。
「「よろしくお願いします!」」
五分後。僕と雪菜は炬燵に座りながら、燐さんに質問していた。
「そういえば燐さん。この部って一体何をする部なんですか?」
「特にコンテストとかに出たり、ボランティアしたりとかはないわね。基本、趣味仲間同士で駄弁ったり、ゲームしたりしてグダグダするだけね」
「はい! 燐さん!」
「どうしてこの部は表で部員募集してないんですか! あと燐さんはどうしてあんな恰好したんですか!」
「いいところに気がついたわね! それじゃ、ヒントを出すから当ててみなさい。ヒント1、部員が私・カレン・麗子。ヒント2、全校生徒人気ランキング。ヒント3、ファンクラブ。もう分かった?」
――なるほど。この人達本性はアレだけど、表じゃ完璧に偽装しきってるもんなぁ……。
「なるほど、燐さんたち目当てで人が集まり過ぎて部活どころじゃなくなると」
「正解、厳密に言うとそれもあるし、何よりも入部希望の人が多すぎると、本当に趣味仲間が欲しい人まで疑心暗鬼になって落としちゃいそうだからね。だからもしもの為の保険に、あんな格好してたのよ。断じて私の趣味ではないわ」
「それじゃあどうして僕たちを勧誘しようと思ったんですか? 直接会ったこともなかったのに」
僕がそう言うと、燐さんは悪だくみが成功したような顔で嶺二を見る。
「ふふん。 私、ちゃんと嶺二君と一度会ってるわよ?」
「え? いつ? どこでですか!?」
――燐さんと会ったなら、会ったことを忘れるなんて有り得ないと思うんだけどなぁ。
「フフッ、ほら。4日くらい前に本屋で」
――ええっと……。あの時は確か、変な黒髪の美少女にあったような。
「黒髪の綺麗な人には会いましたけど、燐さんには会ってませんよ?」
「その黒髪の綺麗な人が私よ」
「えぇ!? けど、燐さんは銀髪ですよ?」
「変装よ、変装。人に気が付かれたくないときはいつも麗子が作った、4日前にも使ってた変装セットで誤魔化してるんだけど。今日は調整中で使えなかったの。だからあんな姿で二人の面接してたわけ。それにあの時聞いたでしょ? もしも誰にも気を遣わずに趣味仲間だけが集まる部活があったら、君は入りたい? ってね」
「なるほど……」
「それで嶺二君を調べていたら、雪菜ちゃんも見つけたから勧誘したわけ。後日別に拉t……呼び出すつもりだったから、嶺二君に付いてきてくれた時は内心ガッツポーズだったわ! ぶっちゃけ二回も面接するのめんどくさいし」
――今拉致って言いかけなかった? 後色々ルーズだなぁ……。
「そうだったんですね」
よっこらしょ、と燐さんはこたつから出るとこう聞いてくる。
「それじゃあ親交を深めるためにゲームでもしましょう? なにかやりたいゲームある? ス〇ブラ? 桃〇? 人〇ゲーム? それともTRPGでもやっちゃう?」
僕たちが答えようとしたその時、倒れていた橘先輩がそのままの体制で口を開いた。
「ヒヒッ、ここは私に任せてもらおう。ちょうど作った新作の発明品が、パーティーゲームなんだぁ」
――すいません。顔自体は美人そのものなのに血まみれなせいで、夢に出てきそうなレベルで怖いです。
こうして僕達たちは、橘先輩の作ったパーティーゲームをプレイすることになった。
そうして僕たちは知ったのだ。変人《この人》の作るモノに、マトモな物などないと。
新規の人が入りやすいように、ちょいと各話を再編しました! おお! ブックマーク増えてる、ありがたや……。評価頂けると、本当に励みになります……。