第6話 「人は見かけで判断できない」
「その……嶺二、ホントに大丈夫?」
「たいひょぶ、もんたいないよ」
裁判が終わり僕と雪菜は一緒に帰宅して、今は僕の家の前で談笑していた。尚、僕は敗北したボクサー並にズタボロである。
「ほれにひても、ふぁひゃかゆきなのひうぇと、ほくのひうぇがこきんひょふぁっふぁなんへね」
「うん、私も驚いた。高校入学に合わせて引っ越してきたんだけど、嶺二の家の斜めお向かいだったなんてビックリ」
帰り道、てっきり途中で別々に別れると思っていたのだが、何故か全く同じ道を通るので互いに不思議に思っていると、実は僕と雪菜は斜めお向かい同士だったことが分かった。
「ほんひょ、まひゃかゆきなかあそひょにひゅんでるはんて。ひや、ふぇんなひみでひっはふぁけひゃないよ」
そう嶺二が言うと、雪菜は苦笑いしながら言った。
「いいわよ、別に。言いたいことは分かるし。あのボロアパートに住んでるとは思わなかった。でしょ?」
そう、雪菜が住んでいると言ったのは、築40年は経ってそうなボロアパートだった。
「最近引っ越してきたんだけど。ウチ、母子家庭だからお金ないの。それでも、行きたい高校に通わせてくれてるお母さんには凄く感謝してる」
雪菜は頬を掻き、照れくさそうに言う。
「ほっか……ふごいんだね」
「それじゃあまた明日! あ、学校いく時も一緒に行かない?」
「ひひよ、ほれひゃあはたあした」
そう約束すると、雪菜は帰った。
三日後。
「いよいよ部活見学会ね! 楽しみ! どんな部活あるのかな」
僕たちは、雪菜と共に学校に向かっていた。
今日は部活動見学会。授業がない代わりに午前の部と午後の部に分かれていて、新入生は部活動を見学、在校生は各々部室や借り受けたスペースで催し物や説明会を開いて、新入生を歓迎するイベントだ。
「さあ? 入るかどうかは兎も角、演劇部とかボードゲーム部には行きたいかな。演劇部は出し物するらしいし、ボードゲーム部は先輩たちとボードゲームで景品ありの勝負ができるらしいし」
「私は手芸部とか料理研究会を見てみたいかも」
と部活見学会の話題で盛り上がっていると、学校に着いた。
「楽しみだね、けど漫画研究会とかは見た感じなかったのが残念かな」
「そうね、あったら入ってたんだけど……」
そんな会話をしながら僕が靴箱から上靴を取り出すと、何かが靴箱から落ちる。
「ん? なんだろ?」
靴箱から落ちてきたのは、可愛らしいピンクの封筒だった。
――ば、バカな!? ラブレター、だと?
「れ、嶺二……。これって」
「ぼ、僕の時代がキター!!」
「ちょ、うるさッ!?」
僕は早速中身を見る事にした。
『ずっと貴方の事が気になっていました。放課後四時に、旧部室棟三階。サブカルチャー研究部と書かれた、ドアプレートの掛かっている正面の教室までお越しください。時間厳守でよろしくお願いいたします。』
サブカルチャー研究部なんてあっただろうか。それと文言がラブレターっぽくない気が……。いや、ラブレターだ! 誰がなんと言おうとラブレターなんだッ!
「ねえ嶺二。この学校にサブカルチャー研究部なんてあったっけ? というか旧部室棟って例の噂の……」
旧部室棟、そこには学校に届出していない部活が多数集まっているという。噂では黒魔術研究会や、オカ研なんてのもそこにはあるようだ。
その上、旧部室棟には怪談まである。なんでも、廊下に女の薄気味悪い笑い声が響いている。とか、男二人で歩いていると薄気味悪い視線を感じ、振り返ると一瞬人影が走り去るのが見えた。物理現象を無視した出来事が起こったり、自殺した女子生徒の霊が誰かの名前を呼びながら夜な夜な徘徊している等、とてもじゃないが普段近づきたくない場所だ。
なんで取り壊さないのか、全くもって不思議な場所だ。
「……露骨に怪しくない?」
「大丈夫だ、問題ない」
「いや問題あるわ」
――問題なんてないともッ! そうさ! なんたって僕の時代が来たのだからッ!
「僕、行くよ。そして明日には念願の、リア充生活が始まるんだッ!」
「……だと良いわね。とりあえず、まずは部活動見学会だけど」
そうして雪菜と共に行動し、僕たちは部活動見学会を見て回った。演劇部では簡易版ロミオとジュリエットをやっていたので一通り見終え、僕達は席を立ち次の部へ向かおうとすると、途中で竜也たちとばったり会って合流した。ボードゲーム部で大負けしたり茶道部で竜也がお茶をこぼしたり、色々な部を見て回っていると昼休みになった。
現在僕たちは購買で食べ物を買い、どこの部も使わない教室で作られた休憩スペースで昼食を取っている。
「いやー、結構見て回ったわね」
「ホントね……。ちょっと疲れちゃったよ」
「そういえばさ、この学校って一体いくつ部活あるの? 竜也」
僕が竜也に問いかけると、竜也は少し悩みながら言った。
「いや、非正規の部活もあるから全部把握してるわけじゃないんだが。少なくとも正規の部活だけでも20はあるぞ?」
――最低でも20!? 道理で沢山見て回ったはずなのに、まだまだ見学できていない部活があるはずだよ……。
「先輩曰く。全部回るなんてどうあがいても不可能だから、最低限行きたいところだけマークして効率よく回れだと」
――コミケかなんかかな?
と僕はクリームパンをほおばりながら、呆れたように言う直樹の言葉を聞いて脳内で突っ込んだ。竜也と直樹にはわからないであろうから、口には出さないけど。
そして午後の部を終えた後。一旦自分の教室に集まり、担任の先生の挨拶と明日の連絡を聞き終え、僕はいよいよ運命の放課後を迎えようとしていた。
――ウ゛ェへへ。待ってろよ、僕のリア充生活! さあ行くぞ!
この後の展開を妄想しながら席を立つと、不意に竜也が声をかけてきた。
「おい嶺二。お前今日一日中ニヤニヤしてて、死ぬほどキモかったぞ。死んで顔面リニューアルしてくるか、熱でもあるんなら風邪薬か睡眠薬でも大量に飲んで人生リニューアルしてこい」
「僕に死ねと? ……ねえ夏美さん。僕、今日一日そんなに気持ち悪かった?」
――一応部活動見学会中に数回会ったから、もし気持ち悪い顔していたらわかるはず……。そういえば。なんでか毎回雪菜と睨み合ってた気がするけど気のせいだろう。まあいいや。そんな事より今日一日、僕がそんなに気持ち悪かったかどうかが重要だ!
僕がそう聞いた瞬間、夏美さんはそっと目を逸らした。
「しょ、正直……。うん。なんかふとした瞬間、ニヤニヤっていうよりニヨニヨしてた」
「へ、HAHAHA……。そ、そう」
僕のメンタルに999のダメージ! 僕は心に瀕死の重傷を負った!
そして心に傷を負いながらも、妄想する事で心の平穏を保ち迎えた放課後。
「……ここか」
――なんでここだけ他とは雰囲気が違うんだろう、薄気味悪すぎる。
他の建物は真新しく洗練されたデザインで、ザ・名門と言った雰囲気を醸し出したのに旧部室棟だけは、ひびが入って居たりツタが絡んだりして、不気味な雰囲気を醸し出していた。
「ホントにここで会ってるのかな?」
僕は手紙を確認するが、やはり旧部室棟と書いてある。
「いつまでも迷ってても仕方がない、行こう」
僕は覚悟を決めて、旧部室棟へ足を踏み入れる。
「確かに、ここなら本当に何か出てきそうだな……」
「「「うおー!!!」」」
「ぴっ!」
――なんだ!? 急に何処かから野太い歓声が!? 後、なんか変な悲鳴も聞こえた気がする……。
薄暗い廊下を進みながら、ここでなら色んな噂話も湧いてくるよな……。と僕は納得すると、余り怖いことは考えないように努めた。
――誰だってこんなお化け屋敷みたいなところだと、ビビると思うんです……。僕が情けないって訳じゃないし!?
「あ、ココか。サブカル部って書いてある。じゃあこの正面の、なにもついてない扉の部室が目的地か」
様々な怪異と、どこからともなく聞こえる悲鳴に見舞われながらも、遂に僕は目的地に辿り着いた。
ふと僕が隣の部屋に目を向けると、そこには黒魔術研究会と書かれたプレートが扉に付いていた。
「ホントにあったんだ、黒魔術研究会」
――というか黒魔術ってなんだ……。
僕は無性に隣の部室を覗いてみたくなる衝動に駆られながらも、覚悟を決めて扉を開ける。
――待ってろ! 僕のバラ色生活! いざ行かん! 夢の世界へ!
「失礼しま……す……」
「ようこそ我が部サブカルチャー研究部の面接へ」
そこには、某魔法少女の仮面付けた、デスボイスな黒づくめの不審者が炬燵に居た。
――んん?
その瞬間、僕は扉をそっと閉じた。
「え? なに? 気がついたら黒魔術研究会の扉を開けちゃってた?」
僕は一度目を擦り、もう一度扉を開けた。
「こんにちは、今度こそようこそ! 我がサブカルチャー研究部へ!」
「どうやら間違えたようです。失礼しました」
僕はもう一度扉を閉じる。その瞬間、どうやら尾行してきたらしい雪菜と目が合った。
「や、やあ雪菜。これから放課後もやってる部活見学に行こうと思うんだ。雪菜も一緒に……」
「逃がさないわよ……」
「ヒエッ!?」
「ぴっ!?」
僕が後ろを向き引き返そうとした瞬間、扉が開き肩を掴まれる。
「は、離してもらえませんかね」
「いいえ放しませんとも。せっかくの部員候補をみすみす取り逃がしてたまるもんですか!」
「嶺二……嶺二の事は忘れない。だから……その、ごめん!?」
僕は咄嗟に、逃げようとした雪菜の手を掴んだ。
「離して!? お願い!!」
雪菜が涙目で嶺二の手を振りほどこうとしているのを見て、嶺二は微笑んでこう言った。
「僕たち、友達だろ?」
「友達なら逃がしてくれるわよね? ここは俺に任せて、お前たちは先に行け! とか、ここは俺が食い止める! みたいな事言いなさいよ! 主人公でしょ!? いや! お願いはーなーしーてー!!」
「いやーごめんね。驚かせちゃって」
現在僕たちは、某魔法少女の仮面付けた、デスボイスな黒づくめの不審者と向かい合って、炬燵に座りながらお茶を啜っていた。ちなみに座る前に一通り発狂は済ませたので、心は比較的平穏だ。
――人間、一通り叫んだら意外と落ち着くよね。
「それにしても凄いですね、色々と」
僕がそう言うと、不審者は笑いながら肯定する。
「そうでしょ? このお面はイベント限定品。ボイスチェンジャーはウチの部員に変な道具を発明する天才が居てね?」
――いえ、それも凄いんですけど、特に凄いのはその格好を出来る貴方ですよ。
僕は突っ込もうかどうか迷ったが、怖いのでやめておいた。
「それじゃあ面接を始めましょうか」
そう不審者は朗らかに言った。
「では質問1! 趣味は何ですか!」
「えっと、趣味はアニメとゲーム。あとはラノベ鑑賞で、最近はネット小説漁りにハマってます」
「右に同じく……」
――なんだこれ?
「質問2! 特技は何ですか!」
「以前空手をやっていたので、空手を少々。あとはやられたら、人の嫌がることを的確にやり返せる自信があります」
「え? え? 特技ってそういう特技? ぴっ!? と、特技は編み物です……」
「質問3! 入部出来たらこの部では何をしたいですか!」
「えー、サブカル部って事はオタク仲間の集まりって事でいいんですよね? とりあえず趣味仲間と、だらだらアニメやゲームの話が出来たらと思います」
「お、同じく」
「では最後の質問! エ〇ァで好きなシーンは何ですか!」
「え、えっと。私は破でア〇カが、シンジの為に料理をしてるシーンが好きです」
――んえ? それって関係あるの?
と僕は疑問に思ったが、既に正常な思考が出来ていなかったので正直に答えてしまった。
「ペン〇ンがお風呂に侵入してア〇カがお風呂から飛び出してくるシーンです」
――あ、つい本音が……。
その瞬間、嶺二は雪菜から凍えるような眼差しで見られる。
――ムッツリでゴメンナサイ……。
「二人ともすっごくわかるわ! あそこのア〇カは物凄く尊いし! お風呂のシーンも色々捗るし!」
捗るって何がだろう。と僕が考えていると、拍手をしながら目の前の不審者は言った。
「二人とも合格! おめでとう!」
「は、はぁ」
「えっと、ありがとうございます?」
そう僕たちが気の抜けた返事を返すと、怪人は仮面を取り去る。
――えっ?
その瞬間、白銀のように輝く腰まで伸びた銀髪が広がる。現れたのは、凛とした佇まいに青い瞳の綺麗な顔立ち。
入学式で見た全校生徒の憧れの的、花園燐その人が目の前に居た。
「改めて、ようこそ我々サブカルチャー研究部へ! 二人ともこれからよろしくね!」
彼女は僕たちに笑いかけ、こちらに手を差し出しながらその透き通るような声で言った。
――多分、僕はこの時の光景を一生忘れないだろう……。黒づくめの不審者スタイルだけど。
まあた5000字超えてる上に、気がついたら1時だよ……。それもこれも全部、WBCが面白すぎるせいだッ!