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第5話 「アニメキャラの変装はなぜかバレない」

 僕は途中銀行に立ち寄り本屋に着くと、布教用のラノベを補填するつもりだったけど、気が付いたら新刊コーナーにフラフラと立ち寄っていた。


 ――人は『ニュー』とか『新作』と言った言葉にに引き付けられる生き物なんだ、しょうがないしょうがない。


「うーん、やっぱり主流は異世界モノか……」


 僕は今月のお小遣いと、口座の残高を脳内で照らし合わせる。


 ――え? 布教用の補填に来たんじゃなかったかって? それも買うよ? けどね、人ってのは新しい物の魅力には抗えないんだよ。


「これとこれと……悩むなぁ」


「ねえねえ、君」


 誰かに呼ばれた気がしたが、気のせいだろう。僕はまた、新刊コーナーにある欲しい書籍を自分の中でランキング付けして、上位三つを絞り込む作業に戻る。


「ちょっと、君ってば!」


 ――ん? なんだろう。


 僕は一瞬チラリと目だけ向けるも、何となく見たことのある人のような気もしたが、よくよく見ると知らない人だったので無視を決め込む事にした。


 ――滅茶苦茶美人だけど知らない人だな……。これ反応したら、実は声を掛けられたのは隣の人で、自分が死ぬほど恥ずかしくなる奴だ。


「そもそも知り合いでも非オタの知り合いと、ラノベコーナーで真剣な顔で選んでる所に鉢合わせって……。僕だったら死ねるな」


「それについては同感ね」


「ヒエッ」


 ――な、何事ッ!?


 僕が驚いた顔を向けると、隣で帽子を被った()()の美少女がこちらをのぞき込んでいた。


「ど、どなたで?」


「どうでもいいじゃない、そんなこと」


「え、えぇ……」


 ――いや。普通知らない人に声を掛けられたら、その人が誰なのかってどうでもいいで片付くことじゃないと思うんですけど……。


「えっと、何か御用で?」


 ――どう考えても変な人だよな……。ヨシ、無難に笑顔で対応しよう。


 僕は引きつった笑みで、なんとか声を絞り出す。


「ん? さぁ? なんでしょう?」


「……」


 ――君子危うきに近寄らず。美人さんだけど変な人だし、申し訳ないけどさっさとトイレにでも逃げ込んで撒かせてもらおう。


「あー、すみません。ちょっとトイレに行きたいので……それでは」


 僕がさっさと立ち去ろうとすると、彼女は慌てた様子で質問を投げかけてきた。


「あ、ちょっと!! ねえ君!! 最後に一つだけ質問!! もしも誰にも気を遣わずに、趣味仲間だけが集まる部活があったらさ、君は入りたい?」


 ――いきなりなに言ってるんだろうか、この人。脈絡がなさ過ぎる……。


「んぇ? そうですね……。もしもそんな部活があるなら、是非とも入りたいとは思いますね」


 僕が混乱しながらもそう返すと、彼女は満足したのか去っていった。


「何だったんだ? 一体」


 全くもって謎である、僕は不思議に思いながらラノベ選びに戻ろうとしたが。


「それはそれとしてやっぱりトイレ行こ、漏れそうだ」





「お会計、22,066円になります」


 結局、予定していた買い物以外にも大量に買い込んだせいで、中々の金額になってしまった。


 予想外の金額に、僕は若干顔を青くしながら支払いを終えると、両手に紙袋をそれぞれ持ち、プルプルと震えながら帰宅した。


「ハァ、ハァ、ハァ……」


「お母さんアレなーにー?」


「コラ、人を指さしちゃいけません!」


「あ、あと一キロ……」


 ズシャッ


「ヘブッ」





 次の日。


「おはよう嶺二君」


 僕が校門をくぐり、玄関に居る先生に挨拶し靴箱で靴を履き替えていると、佐倉さんが登校してきた。


「おはよう佐倉さん」


「今日からいよいよ授業開始だね」


「そうね、嶺二君! お互い頑張ろう!」


「うん!」


「そういえばこの学校、学食と購買どっちもあるよね。佐倉さんはお昼どうするの?」


「私? 私はお弁当かな。けど一回は両方とも行ってみたいな」


 ――これだよこれ! なんか僕、今物凄く青春出来てる!


 佐倉さんととりとめのない会話をしている内に、僕達は教室に着いた。


「おはよう」


「おはよ~」


 教室の扉を開けながら挨拶すると、男子たちの殺気だった目が僕だけに向けられた。


 ――こ、怖すぎる……。


「おはよう!」


「おはよ!」


「「「おはようございまァす」」」


「ヒッ」





 授業中、僕は襲い掛かる睡魔と格闘中だった。


「えーよって、この式の展開は~」


 先生が式の解き方を解説している。けど僕は半分夢の中だ。昨晩、夜更かししてラノベを一晩で三冊読破せいだったりする。ラノベの辞め時って分からなくなるよね。


「痛っ」


 その時、僕の頭に何かが当たった。


「なんだよもう」


 僕が周りを見渡すと、床に丸まった紙が落ちていた。それを拾って机の上で広げると、こんなことが書いてあった。


「なになに? 新聞部主催、4月期全校生徒人気ランキング。期日は4月の末まで。へーこんなのあるんだ……。というか入ったばっかで分からないんだけど」


 その投げつけられてきた告知用紙の説明文によると、年に二回新聞部主催で男子部門女子部門に分けられて集計されるらしい。


 ――とりあえず書くか。


 見たら速やかに回すべし! と書かれていたので、書き終えると前の席の女子に手渡した。




 そして睡魔と数式と格闘し、おじいちゃん先生のゆっくりとした口調に、夢の国へ招待されたりとしたがなんとか踏ん張り、やっと昼休みが訪れた。


 昼休みに突入すると、竜也が声を掛けてきた。


「おい嶺二! 飯食いに行こうぜ!」


「ごめん、僕ちょっと用事があるから」


 竜也の誘いを断り、僕は隣のクラスに向かう。昨日約束したラノベを雪菜に渡すためだ。


 ――結構重い……。


「こんにちは~。えっと、雪菜っていますか?」


 扉を開けると、唐突な部外者である僕に視線が突き刺ささった。中を見渡すと、教室の一角に人が集まっているのが見える。どうやら先ほどからの刺すような視線は、この集団によるものの様だ。


 ――えぇ……。なに? この殺気にまみれた視線。


「あ! 嶺二! ナイスタイミング!」


 人混みの中から雪菜の声が聞こえてきた、どうやらこれは雪菜目当ての集まりだったらしい。雪菜は、人混みをかき分けながらこちらまで来ると、僕の手を掴む。


「え? ちょ、雪菜?」


「ごめん、話は後。今はとりあえず移動させて」


 僕たちは、そのまま学食に向かった。





「うーん、中々迷うわね。どれも美味しそうだし」


「僕はこのザンたれ丼頼もうかな」


 現在、僕たちはタッチパネル式の食券機の前で昼食を選んでいた。


「じゃあ私は豚の生姜焼き定食にする」


 僕が現金で支払う傍ら、隣の雪菜はパスポートのようなもので支払う。


「ん? 何それ、雪菜」


「ああこれ? 入学前の書類になかった? 学食とか購買で使えるICカード作りませんか? って」


「あー、なんかあったようななかったような……」


「割と便利よ? ICカード支払いだとだいぶ割引されるし、ウチみたいな貧乏家庭だと結構デカいのよね」


「そうなんだ、僕も作ってみようかな。それにしても流石名門、設備も最新式のが多いよね」


 ――PCも最新のが揃ってたし、空調も完備。凄いよなぁ……。


 食堂のおばちゃんに食券を渡し、品物を受け取り僕たちは席に着いた。


「で、どうしたのさ雪菜」


 僕が質問すると、雪菜はうんざりしたような表情で答える。


「昼ご飯に誘われたり、ちょっと話しない?だったり、バンドしてるから見に来てくれない? だったり。ああもう! お呼びじゃないのよお呼びじゃ!」


「あはは……災難だったね」


「ホントよ、全く。人が嫌がってるのくらい察しなさいよ! ……だから助かった、ありがと」


「ん? どういたしまして? で良いのかな。ああ、そういえばはい、これ」


 僕が紙袋を手渡すと、雪菜は嬉しそうに微笑む。


「ん、ありがとう! 大事に読ませてもらうわ! ……それじゃあお腹も減ったし食べよ?」


「「いただきます」」




「「ごちそうさまでした」」


「いやー、美味しかった。量もあるし、それなりに安いし。いいね、学食」


「どうせ学食だからって舐めてたけど、案外美味しくて大満足」


 僕たちは、食べ終わった後の食器を返却すると、教室のある方へ歩き出す。


「さてと、午後の授業も頑張らないと……」


「ねえ嶺二、アンタがもしよかったらなんだけどさ。明日からもお昼一緒に食べない?」


「いいけど……どうしたのさ、急に」


「い、嫌なら良いんだけど。その、毎日昼休みに下心まみれの男子たちに詰め寄られるって想像するとね。その点、アンタなら……その、趣味仲間で信頼できそうだし」


 出会い方的には最悪だったにしては、信頼してもらえたみたいだ。実際僕も、嫌がる女子にしつこく迫る気なんて無いし。


「うん、わかった。雪菜も大変そうだね、僕でよければいくらでも付き合うよ」


「ありがとう……ってさっきから私、アンタに感謝してばっかりね」


 僕達は笑いあうと、各々教室に戻った。





 ――なんだろう、凄く居心地が悪いんだけど。


 授業中、僕は何故か突き刺すような視線を常に感じていた。暫く不思議に思いながら授業を受けていると、不意に何かが僕の耳の横を通って机に着弾する。


「うわっ! 今度は何!?」


 僕が何かが落ちた机を見ると、なんと紙飛行機が机に刺さっていた。


 ――いやいや、当たってたら大惨事だよ? 死因が紙飛行機の直撃ってカッコ悪すぎる……。そんなことで死んだら、耐久値ス〇ランカー並みって笑われる事請け合いだよ!? 


 けど威力が威力だし。というか机に穴が開くって何事!?


「ええっと。オマエヲコロス……? いや怖っ!? まあいいや、誰かのおふざけだろうし気にしなくても……。なんか一瞬、脳内で変なBGM鳴った気がするけど」


 僕は、そのまま丸めて机の中に放り込んだ。


 その時、僕は悪寒を感じたが、気のせいだと思うことにした。




 放課後、僕が帰る準備をしていると誰かに肩を掴まれる。


「ん? どうした……の……」


「「「「嶺二クゥン? 柊雪菜さんとお昼一緒だったってホントォ?」」」」


「ひえッ!?」


 振り返るとそこに居たのは、世にも恐ろしい悪鬼羅刹達だった。


 ――こ、殺されるッ!?


「「「「知ってるかい? この学校には、新聞部作成の人気生徒リスト及び全校生徒人気ランキング上位者を独占するべからず。っていう暗黙の了解があるんダケド」」」」


「イヤ知らない知らない!」


 ――というかあのアンケートってさっき書いたばっかりだよ! もう集計終わってるの? どうなってるのさここの高校の新聞部!?


「ほう、嶺二君。君は無罪を主張すると?」


 僕を問い詰めている悪鬼羅刹達もとい男子たちの中から、出る作品間違えてるよね? とムキムキなプロレスラーが出てきた。こんな人クラスに居たっけ??


「ど、どなたで?」


「ふむ、わからんか?」


 と、ムキムキなプロレスラーめいた人は首をかしげる。


 ――いや、わからないです。


「同じクラスの吉田だが?」


「うっそん」


 ――吉田って、吉田茂君? 確か吉田君って、ひょろっとして大人しそうな人じゃなかった!?


「俺はキレるとこうなるんだ」


「なるほどなー……」


「で、君は無罪を主張すると? 彼女とは一切何もなかったと?」


 ――認めたら殺されるッ!


「ないないない! 全然そんな事ないですよー! HAHAHA!」


「嘘をつくな!! 虚偽の証言はより罪を重くするぞ!」


 ――虚偽の証言て。


「すいません、リーダー。発言よろしいでしょうか」


 ――いや、リーダーって。


 その時、おもむろに集団の中の一人が口を開いた。いや、顔は見えないんだけど。


「よろしい、許可する」


「我々は、高月嶺二もとい被告人が有罪足る証拠として、証言を録音テしたープを提示します」


「僕の味方はいないのか!? 弁護士を!? 誰か弁護士を呼んでくれ!?」


「被告人、静粛に。それでは証拠を再生しなさい」


 『高月嶺二君が昼休み何をしていたか、お聞きしたいのですがよろしいでしょうか』


 先ほどの忍者君の声だ。どうやら誰かに聞き込みをしているらしい。


 『あー、嶺二なら昼飯誘った時に用事があるからって断ってどっかに行ったんですけど、友達と二人で食堂に行ったら、赤髪ツインテールの滅茶苦茶可愛い子と飯食ってました。マジでアイツ、抜け駆けしやがって。許せねぇ』


「竜也ァァ!!」


「被告人、事実に相違ないな」


 雪菜とお昼を一緒に食べたのは事実である。


「いや、その! 確かに一緒に食べたけど! 下心があったり、僕が無理やり誘ったわけじゃないんだ!!」


「噓をつくな! あれ程の美少女を前に下心がないわけないだろ!?」


「貴様如きがどうやったら、脅す以外にあんな美少女と昼食を共にできるというんだ!」


 ――貴様如きって、酷すぎませんかね!?


「美少女は皆のもの、美少女は皆のもの、美少女は皆のモノォォォ」


「「「殺せ! 殺せ! 殺せ!」」」


「静粛に! 被告人、最後に何か反論はあるか」


 ――こ、殺される……。もうお終いだ……。


「たまたま渡すものがあったから、雪菜のところに行ったら雪菜が沢山人に付きまとわれてて、僕は虫よけ替わりになってただけだ!! 皆が羨むことは一切無い!」


「以上か?」


 ――サヨウナラ、僕の人生。



「それでは判決を下す。被告人は有罪、死刑……と言いたいところだが、先ほどの被告の供述と、新入生であって協定を知らなかった事。以上を持って被告を無罪とする」


 その瞬間、場はブーイングの嵐に包まれた。


「ふざけんな!」


「甘すぎる! 何を考えてるんだ!」


「Kill……Kill……Kill……Die!!!」


「おい、二番目! 今叫んだの竜也だろ!?」


「沈まれぇい!」


 吉田君がそう喝を入れると、場は静まった。


「いいか、諸君。我々は別に世のリア充を撲滅したい訳ではない。偶にひっそりと闇討ちはするかもしれんがな。リア充を無差別的に攻撃してしまうと、いつか上手くいった時に跳ね返ってきてしまう」


「ですがリーダー……」


「聞けば彼は、困っている少女の盾になっただけのようではないか。美人またはイケメンは皆のもの、という我々の理念ではなかったか? なれば彼の行動は、褒められることではあれど咎められるべきではない。それに……彼も我々と同じくあまりモテなさそうではないか。フツメンだし」


 ――余計なお世話だよ。


 僕は一瞬カチンときたが、無罪放免になりそうなので余計なことは言わずに、押し黙ることにした。


「そうだな……リーダーの言う通りだ」


「だな」


「彼みたいなのでも昼食を一緒に出来たんだ、俺にだってチャンスはあんだろ」


 ――生きられる……。僕、生きてていいんだ!!


 僕が解放されるかと思われたその時、後方部にある扉が開く。


「あのーすいません……ここに嶺二がいるって聞いたんですけど」


 そこには、帰り支度を済ませた雪菜が居た。それを見て、場が静寂に包まれる。


「え、えっと。一緒に帰ろうって誘おうと思ったんですけど、その……」


 ――あ、死んだ。


「お嬢さん、彼には用事があるので、少し待っていては貰えないかな?」


 会場全体が負のオーラに包まれたのを感じてか、気圧されながら雪菜は涙目で言う。


「その、あの! ぁぅ……ごめん、嶺二。外で待ってるね」


 吉田君は少し息を吸うと、僕に明るく言い放った。


「さて、と。彼女を長く待たせるわけにはいかないから、手早く済ませようか」




 ――あっ、これきっと僕、死ぬな。神様は僕のこと嫌いなんだろうな……。僕も大嫌いだよッ!!


「あ、ヤメッ!? ちょ、まッ!? お願い助けてッ! アァァァァァァ!?」


 二日酔いで頭痛い……。どうも、荒星です。今回、本来なら二話だったのをキリが悪すぎたので一話に纏めました。ゆるして……。



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