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第4話 「初めてラノベをレジに持っていく時は誰しも緊張するもの」

「ここは? あれ、確か僕……んん!? 手が動かない!?」


 僕が目を覚ますと、手をロープの様なもので木に括り付けられていた。


「ちょ! なにこれ! 全然外れない!?」


 ロープを外そうと藻掻いていると、柊さんがこちらを睨みつけながら声を掛けてきた。


「気が付いたみたいね? 変態さん?」


「誤解だよ!?」


 いや、例え風のせいだったとしても、ガン見した上、色までつぶやいたのだから紛れもなくアウトである。


「なんの誤解よ」


 ギロリと睨まれ、僕は声を詰まらせる。

 

 僕もつい『誤解だよ!?』などと言ってしまったけど、誤解もクソもないことくらいは分かっている。なので、素直に謝ることにした。


「グッ……それは、その……ごめんなさい」


「ん」


 柊さんは僕の謝罪を受け入れると、僕の手を括り付けていたロープをほどいた。


「ま、私も咄嗟に蹴ちゃったし。いいわよ、見たことについては許す」


 ――助かった……。ホモ疑惑に加えて、パンツ覗き魔なんて称号なんてついた日には、永遠に家から出ずに一生を過ごす自信がある。


 どっこいどっこいね、と笑う彼女を見ながら僕は、少しロープの跡の付いた手首をさすりながらポツリと言う。


「ただこれだけは分かって欲しいんだけど、わざとじゃなかったんだ……」


「犯人は皆そう言うじゃない、と言いたいところだけどわざとじゃないのは分かってる。私も別段見られただけなら、まぁ恥ずかしいけどそんなに怒らないわよ」


 それを聞いて、僕は安堵の息を漏らした。


「けど、アンタ目を逸らすなり見ないふりすらしないでガン見してたじゃない。その上色まで言うとかサイテーよ、サイテー」


 ――ハイアウトー! ゴミを見る目ですねぇ、これは。


 ジト目でこちらを見る柊さんに、僕は土下座をした。見るが良い! この僕が、妹相手に毎日することで磨いた華麗なる奥義! ジャパニーズ・DO・GE・ZAをッ!


「お願いします! 柊さま! 神様! 職員室から警察行きだけは! それだけはッ!」


「許すって言ったでしょ、冗談よ冗談……半分は。頑として自分の非を認め無い奴だったり、逃げようとするやつだったら流石にムカつくし、そのまま職員室行きだったけどね」


 ――なんだ、ビビらせないで欲しいなあ……。


「あ゛?」


「ごめんなさい」


 ――バカな、エスパー……。だと?


「ンンッ……。ホントにごめん、なんか僕にできることとか無いかな?迷惑かけちゃったし」


 こほんと咳ばらいして、正座になりながら僕は問いかける。


「……調子いいわね。別にいいわよ、そんなの別に」


「いやいや、遠慮しなくて良いんだ。そうだな……。なんか欲しいものとかある? 2000円までなら出すよ」


 ――なんていうか、見物料的というか罪悪感的にというか……。


「いいわよそんなの、別段お金欲しさにアンタに謝らせたわけじゃないし」


「いやいや」


「いやいやいや」


「いやいやいやいや」


 そんなやり取りを30秒ほど続けていると、柊さんが折れた。


「あーもう、わかった。全く、こっちがいいって言ってるんだから構うことないわよ。アンタ、相当なお人好しね。普通形だけで申し出ても、こっちが遠慮したらラッキー! ってどっか行くやつの方が多いのに」


 見直した、と柊さんは微笑む。


 ――いえ。水色がこの先長いこと頭から離れそうにないので、見物料兼慰謝料です。


 こらそこ。慰謝料より先に見物料が来ているあたり、御察しだよなとか言わない。


「それでね、その。欲しいものなんだけどさ。笑わない?」


「うん」


 柊さんはもじもじしながら言いよどんでいる。


 はて?何か言いづらいものなのだろうかと、僕は自分の人に欲しいと言いづらいものを考え出した。


「いい? 笑ったり、言いふらしたりしたら職員室行きだからねッ!」


「お、おう……」


 ――勢いが……。それに近い近いいい匂い! ていうかこれだけ必死になるって一体? 薄い本とかDVD? いや、違うか。ん?もしやまさか……!?


「ア〇ルトグッズ!?」


「違うわバカッ!」


「ぐべッ」


 柊さんは僕の背に飛び乗ると、僕にアイアンクローをかました。


 ――頭が割れる!? 耳から脳漿飛び出しちゃうッ!


「ずいまぜん、ごべんなざい。ゆるじで……」




 5分後。


 ひどい目にあった……。後もう少し長ければ、お茶の間にスプラッタなニュースが流れるところだった。


「それでね。欲しいモノなんだけど……」


「ぽへー」


 ――あー痛い、見たこともないウチのばあちゃんぽい人が、僕に来るなってやってた気がする。無駄に綺麗な人だったな、多分母さんの家計だな。紬と母さんに似た所あったし。


「それでッ! 欲しいモノなんだけどッ!」


「え? ああハイハイ」


「アンタから聞いたんだから、ちゃんと耳くらい傾けなさいよッ! ……それで、欲しいのは~~っていう本なんだけど」


「え?エロ漫画?」


 そう僕が聞き返すと、柊さんは顔を真っ赤にして言った。


「違う! 〇〇マンガ先生って本!」


 ああ〇〇マンガ先生ね、と僕は納得した。その僕の様子を勘違いしたのか、柊さんはあたふたしながら言い訳しはじめる。


「ち、ちがうの! ラ、ライトノベルってジャンルの本の題名で別段そっち方向の本じゃないの! へ、変な本じゃないからね!?」


「知ってるよ、〇〇マンガ先生いいよね! 僕〇霧ちゃん推し」


 ――え? 妹とのラブコメは否定派じゃないかって? ほら、実妹とはって言ったけど義理の妹だし。え? 〇乃も好きだよ? 僕の妹じゃないし。


 なんて言うと、 へ? と柊さんは気の抜けた声をだした。


「え、あ、うん。わ、私はエ〇フ推し。けど〇霧も可愛すぎるし、エンディングの洗濯機の前でダンスしてる所なんて抱きしめたくなるわよね!」


 その瞬間、僕たちは握手を交わした。


 ――僕たちは、分かり合えた……。


 とと、一瞬変な電波を受信しかけたけど、まさか柊さんが同好の士とは。柊さんも、同じ気持ちなのだろう。僕の手を握りながらも飛び跳ね、嬉しそうな声を出した。


「噓! やった! まさかこんな所でオタク仲間と会えるなんて!」


「うん、僕も嬉しいよ。最近じゃオタクにも優しい世の中になってきたけど、教室で堂々と仲間探しはできないからね」


 それからしばらく、僕たちは最近のアニメやラノベについて語り合った。


「でね! 私としてはユ〇キ編が一番だと思うのよ、やっぱり!」


「でも僕としてはG〇O編も推したいなぁ、シ〇ンがカッコイイし可愛い」


 大分話し込んだところで、僕は話をもどした。


「そういえば柊さんはどの巻が欲しいの?」


「出来れば一巻から揃えたいけどね、ウチちょっと貧乏でさ。そんなに沢山買う余裕ないのよ、だからアニメの続きから揃えようかなって」


「そっか……。ねぇ、良ければ僕のあげようか? なんなら全巻」


「え? そんなの悪いわよ、一巻で十分。そのうちコツコツ貯めて買ってみせるわ」


「遠慮しなくていいよ。これでも僕、気に入ったラノベやマンガは保存用・観賞用・布教用を買いそろえる質なんだ!」


「けど……」


「良いんだよ。折角布教用揃えてあるんだから、そのまま本棚に埃を被ったままにする方がもったいない。それに僕たちオタク仲間じゃないか! 仲間には最大限良くしたいんだ」


 そう僕が言い切ると、柊さんは顔を輝かせた。


「い、いいの? その……本当にありがとう!」


「どういたしまして」


 柊さんは、少しもじもじしながら暫く思い悩むと、意を決したように僕に問いかける。


「あのね……出会い方は悪かったんだけどさ、その。貴重なオタク仲間だしさ……わ、私とお友達になってくれませんか!!」


「もちろんだよ柊さん! 僕の方こそよろしくね!」


 その僕の返答を聞くと、柊さんはにかんで言った。


「雪菜」


「え?」


「柊さんじゃなくて雪菜って呼んで。私たち……その、友達でしょ?」


「うん! わかったよ雪菜、僕の事も嶺二って呼んで!」


「ありがとう、それじゃあ……本当に全巻貰っちゃっていいのね?


 少し心配そうに雪菜は言った。


「うん、今度紙袋に入れて雪菜に渡すよ」


「あ! もうこんな時間! 私今日この後用事があるから帰るね! それじゃ、また明日!」


「了解、じゃあね~」


 そうして、雪菜は帰った。




 ――確かに災難続きだったけど、こうしてオタク友達が出来たんだ。割と最高のスタートなんじゃないか? ありがとう! 神様! 


 なんて、どこぞの知らない神様に向けて手のひらをクルクル返しながら、これからの高校生活に胸を弾ませ、僕は早速布教用のラノベを補充するために本屋へ向かった。

 久しぶりの投稿だとやっぱりブランクあるなぁ。連投しないと埋もれちゃうのかな……。まあボチボチやってきます。妙霧マジで可愛いよね……。二期、いつまでも待ってます!!


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