第2話 「自己紹介はインパクトが大事」
生徒会長のあいさつが終わり、僕達は入学式を終え……。
「石川竜也! 身長は184㎝! 趣味はサッカーとナンパでーす。 高校三年間、可愛い彼女作って面白おかしく生活するつもりっス! 可愛い子いたら紹介してくれ! そんじゃよろしくお願いします!」
「可愛い子なんていたら俺が狙うんで渡さねーぞ!」
「竜也君よろしくね!!」
僕達は現在、自己紹介の真っ最中である。
竜也の自己紹介が終わった時、僕はパニックに陥っていた。
――マズイマズイマズイ!! 全くいい感じの自己紹介が思いつかない!? え!? なにこれ、何言えば良いのさ!? もういっそ、宇宙人、未来人、超能力者……。って、コレ言ったらドン引きされるの確定じゃないか!?
我ながらもはや正常な思考が出来ていない。この調子では、きっと僕はとんでもないことを言い出すだろう。
『ひゃ、ひゃじめまして! た、高月嶺二でつっ!」
こんな自己紹介してみろ僕。この先クラス替えまでの最低一年間はネタにされること請け合いだ。
この世の終わりのような顔で自己紹介を考えていると、隣の席の人の番が来たようだ。
僕は相変わらず悩みながらも、教室の雰囲気が変わったのを察知して顔を上げる。
「皆さん初めまして! 私は佐倉夏美と言います。趣味はカラオケと色々な所に行って、綺麗な風景を取ることです。正直今日クラスにつくまでとても不安でしたが、皆さん面白くて優しそうで今は安心しています。みんなと仲良くなれるといいな! これから一年間よろしくね!」
黒髪ロングでまるで大和撫子のように清楚で可憐な出立ち、出るところは出てて引っこむところは引っこんでいる。
まるでアイドルのような美少女だった。
――この学園、ちょいと顔面偏差値高すぎません? ていうかこの人がお隣さん? うっそん。
「よろしくー!」
「俺とこの後お茶でもどうですか!!」
「抜け駆けはずるいぞ!是非とも俺と!」
ちなみに二番目の初っ端からお茶に誘い出した男は竜也である。佐倉さんが片っ端からやんわりと誘いを断っているのを尻目に、僕はまた自己紹介を考えることに集中した。
――ここは勢いよく……いや、でもそれだと暑苦しい奴に思われないかな? でも……しかし……
「俺の名前は坂田直樹、趣味はネットサーフィンと写真撮影です。楽しくやっていけたらいいなって思ってます。よろしく」
その時。聞きなれた声がして、僕は再び顔を上げた。
自己紹介の通り彼の名前は坂田直樹、中学からの嶺二と竜也の悪友で頭は良い……。頭はいいのだがとんでもないスケベ野郎。
趣味はまあ嘘は言ってないが御察しである。彼に言えばお目当ての写真は大抵手に入るだろう。
ちなみに、なんか爽やかなイケメンオーラを演出していた。見た目だけは王子様系イケメンなだけに様になってる。
――うわあ。滅茶苦茶偽装してるよ。
そんなこんなで過ごしていると、遂に僕の番が来た。気分は断頭台に上がる死刑囚だ。
「えー、初めまして。僕の名前は高月嶺二と言います。えーっと……趣味はアニメとゲームで、最近はネット小説漁りにはまってます……よろしくお願いします」
――あれだけ考えていたはずなのに、口から出たのはザ・無難だよ。しかも無駄に緊張していたせいでどもっちゃったし。
僕が恥ずかしさに顔を真っ赤にして着席しようとした時。隣の佐倉さんから声を掛けられた。
「高月嶺二君って言うんだね! よろしくね!」
「よ、よろしくお願いします。えっと……佐倉さん、ですよね」
――おうふ……。美人過ぎてまともに目が合わせられない、だと?
僕がしどろもどろになりながらそう言うと、佐倉さんはクスリと笑った。
「ふふっ、夏美でいいよ。それと、これからお隣さんとしてご近所付き合いするんだから、敬語禁止。ね?」
――なんだこの子、眩しすぎる。浄化されて溶ける溶けるッ!
「う、うん。よろしく、夏美さん」
「うん!」
夏美さんはそう言うと、僕の耳に顔を寄せて囁いた。
「ねえ……」
――いや近い近い……。て滅茶苦茶いい匂い……。
「そういえば車の窓から見えたんだけど、斜め後ろの席の竜也君? で合ってるよね? あの人の股間に顔突っ込んでたのって嶺二君?」
不意にそんな問いが飛んできて固まった。
――待て、焦るんじゃない。僕。まだ終わってはいない、ダイジョウブダイジョウブ……。ホントに大丈夫?
どう言い訳しようかと思い悩んでいると、竜也が口を開いた。流石マイベストフレンド! 助けてくれるんだね! などと感激している僕に、竜也は更なる爆弾を放り投げてきた。
「あーそうだよ。俺、石川竜也! よろしくな! 夏美ちゃん!」
フォローをするふりをして、どうやらトドメを刺しに来たようだ。どうやら夏美さんと会話したかったらしい。いい笑顔でサムズアップする竜也を、僕は弟子に後ろから刺された某魔術師の如く凄まじい顔で見た。
「え、二人はホモダチ……?」
「なよっとした中の上フツメンとイケメンな野獣……アリですねぇ」
「キャ! いけないわ! 私達はそっと暖かく見守るべきよ!」
「オイ待て、入学初日からとんでもないな……。まあ愛ってのは人それぞれだから。ウン、それは兎も角俺はノーマルだから近寄るなよ」
「佐倉さんの隣なんて羨ましいと思ったが、それなら問題ないな」
「まさか外でそんな? つまり導き出される結論は二人で夜を過ごし、そのせいで遅刻しかけたけど、我慢できずに外で……キャ!」
――終わった。初日からなんでこんな事に……サヨウナラ僕の青春。こんには、貴腐人達の養分生活。それと自分は違うアピールした直樹。オマエは道連れニシテヤル。
終わりである。色んな意味で終わりである。僕は、精神衛生上何も聞かなかったことにして机に突っ伏すと、自己紹介中とその後の質問攻めに対して。顔を上げることはなかった。
――もうゴールしてもいいよね?
印象的という意味では最高の自己紹介になった。最も、この先ずっと愉快なニックネームと付きまとうイメージに苛まれながら、高校生活を送る羽目になるだろうけどね……。
自己紹介も終わり、自由時間。
「なあ嶺二、元気出せって」
「なんかごめんね? 嶺二君」
「いや良いんだ夏美さん……。僕もあんなの見たらつい聞いちゃうかもしれないし……。後竜也が言うのか。というか僕はてっきりとどめを刺したのかと思った」
「い、いやだってなんか黙ってたから助け船出してやろうかなと」
「……」
その後直樹も来て、竜也と落ち込んでいる僕を慰めてくれたが、残念ながら僕は心を閉ざしている。
というかこうなっている原因に何を言われても心に響かない。むしろ殺意が湧いてくる、人間直接的な悪意より無自覚な悪意の方が心に来るものである。
――というか竜也、君も他人事じゃないんだけど。いつか……。いつかコノ借りを返してやる、必ずだ。
僕はそのまま竜也と直樹への憎しみを沸き上がらせ、負のオーラを出しながら顔を伏せていたせいで、高校生活ボッチ確定かと思われたが、伏せたまま一ミリも動かない僕を哀れんだのか、隣の夏美さんが話しかけて来てくれた。
しかし、伏せていた僕の顔を見て、夏美さんは顔を引きつらせる。
――そんなに怖い顔しているだろうか?
とりあえず二話目投稿完了……。あ、章付けしなきゃ。ちなみに、昔の文法とか嶺二の一人称が定まってなかったり、口調も定まってなかったり無茶苦茶だったのをリメイクしているので、ちょいそういうミス残ってるかもです。