第12話 「やらないで後悔するよりやって後悔したほうがいい 」
現在、放課後。僕はいつも通り部室に来ていた。
――雪菜、今日も休むって言ってたな。
あれから一週間。あの後電話で勝手に帰ってしまったことを、雪菜は謝ってくれたがやはり何も教えてはくれなかった。
ちなみに、夏美さんともこの一週間殆ど口をきいていない。いや、事務的なやり取りはするんだけどさ……。
――家族の事情、か。
この一週間、雪菜は確かに表面上は普通に取り繕うとしていた。だけど時おり目が赤く腫れていたり、ふとした時に暗い表情で俯いていたりする。その度に気にしないでくれというのだが……。
「ちょっと嶺二君! 急にトリップしないでよね! いきなりキャラが動かなくなっちゃったからびっくりしたじゃない!」
麗子さんとカレンさんが用事で、暇していた燐さんと某ガ〇ダムゲーをしていたのだが、ついボーっとしていたようだ。
「え? ああすいません……。って、ちゃっかり僕の戦力ゲージが減ってるんですけど」
「フフッ、ボーっとしてる方が悪い!」
「いやそれはそうなんですけど……」
僕がジト目で燐さんを見ると、燐さんは胸を張る。
「ねえ嶺二君、何かあった?」
「ゴホッ!? なんでわかったんですか!?」
燐さんはため息をつきながら、やれやれと首を振った。
「いやいやぁ、君ィ。そんな状態で寧ろ何もないなんて方が無理でしょ」
――な、なんかちょっとムカつく……!
「雪菜ちゃんとなんかあった? ……ここ最近顔も出さないし」
「いえ、僕が何かあったわけじゃないんですけど……」
そうして、僕は今知っている事を洗いざらい話した。
「……なるほど、ね。家族の事情か」
「そうなんですよ。それと、雪菜と僕の隣の席の子がどう関わってるのか全く分からないんですけど……。僕に出来る事があるなら、どうにかしてあげたいなと」
「ねえ嶺二君。君はどうして首を突っ込もうとしてるの? 家族の事情って言われたんでしょ?」
燐さんは正座になると、僕の目を真っ直ぐに見つめる。
「それは……友達だからです」
咄嗟に口から出た理由は、やはりそれだった。
「けど、君はどうして雪菜ちゃんと友達なのか? って聞かれて答えられなかったんでしょ?」
そうだ。僕はその問への答えを出せずあの日、何も言い返せなかった。
「……分からないんです。確かにあの時言われた通りに、下心……。可愛いからだったり、学校の人気者と友達っていう優越感もあったとは思うんです。だけど……」
「だけど?」
「ただなんとなく、雪菜と一緒だと楽しくて。居心地も良くて……まだ友達になって短いですけど、落ち込んでる雪菜は見たくなくて……。すいません、理由になってないですよね」
僕が頭を掻きながらそう言うと、燐さんは微笑む。
「なんだ。ちゃんと自分で答え、出てるじゃない」
「え?」
「それでいいじゃない。一緒に居て楽しくて、その人の落ち込んでいる姿なんて見たくない。友達でいる理由なんてそんなもんで十分。それに最初から下心ありきで近づいて、それしかないって訳じゃないんだし」
――そっか……。友達でいる理由なんて、それで良いんだ。
「だけど、やっぱりおかしいですよね。人様の家族の事情ってやつに首を突っ込むのは……」
「ストップ! そこでうじうじしないッ!」
僕が俯いてそう言うと、燐さんは僕の頭にチョップした。
「痛ッ!?」
「嶺二君。無意識に逃げ出すための理由、自分の中で作ろうとしちゃってない?」
「え? あ……」
「友達でいる理由で悩むのは分かる。自分の中に確かにあったであろう少し後ろ暗い部分に触れられて、分からなくなっちゃったんでしょ。だから相談にも乗ってあげた。だけどもう、雪菜ちゃんと友達でいたい理由は分かったんだから。後はもう友達を助けてあげたい。力になってあげたい。って思いが元からあるんだったら、行動に移す理由なんてもう他にいらないわよ。拒否されるかも、なんて後から考えればいいの! きっとやらないで後悔するよりも、やって後悔する方がずっといい。何も考えずに一直線に進んじゃいなさい!」
「はい……」
――そうだ。僕はあの日、雪菜と同じように泣きながら去っていったあの子の事を見て見ぬふりして後悔した。だから!
「だから、改めてもう一度聞くわよ嶺二君。君はどうしたい?」
「僕は……。僕は……! 雪菜に元気になって欲しい! 雪菜の泣いたり落ち込んでいる顔なんて見たくない! 何よりも、もう二度と友達が困っているのを見て見ぬふりをして、後悔したくないッ!」
――もう二度と、あんな思いはゴメンだ……! 今度こそ踏み出すんだ、一歩を!
僕は今も記憶の奥底にこびりつく後悔と、泣きながら走り去る雪菜の姿を僕の脳裏で思い出しながら決意した。
――行こう! これは僕の……リトライだ!
「それでいいのよ、やりたいようにやってみなさい。貴方は自由なんだから」
「はい!」
「それにしても嶺二君、なんかトラウマ持ちの主人公みたいな事言ってたけど、まだ中二病が……」
――ぐッ!? 心に深刻なダメージが!
「ち、違いますッ! いつか話しますよ。それじゃあ僕ちょっと用事を思い出したので帰りますね! ……ありがとう、燐さん」
そうして僕は部室を後にし、雪菜の家に向かった。
「何を偉そうに説教してるんだろ、私。自分の事棚に上げちゃってさ。そんな資格、私には無いのに」
――つい勢いで飛び出してきちゃったけど、どうしよ……。
とりあえず雪菜の家の前まで着くと、僕は考え込む。
――図々しいかもしれないけど、雪菜の事情を聞かせて欲しい! は直接過ぎるよな……。いやいや、案外直接的な方が……。うーん……。
そうやってうんうん唸っていると、突然後ろから肩を叩かれた。
「んなっ!?」
「あの……さ。何やってんの? 友達とはいえ、家の前でひたすら唸られると通報したくなるんだけど……」
「ゆ、雪菜か……。ビックリした。あれ? まだ家に帰って無かったの?」
「……スーパーの特売セールがあったのよ」
「そ、そう……」
――気まずい! 思ったより気まずい! 何かないか何かないか!
「えーっと……。そ、そうだ! カ、カラオケ行こうって誘おうと思ってさ!」
「なんで今思いついた風? いや、けど私部活休んでるし。その……悪いんだけど」
そうして言いよどむ雪菜に、僕は畳みかける。
「ほら! この前カラオケ行こうとして行けなかったでしょ!? ぼ、僕不完全燃焼でさ! なんなら僕が奢るから! ホラ!」
「え、えぇ……。なんでそんな必死なのよ、まあいいけど。勝手に帰っちゃったの私だし、奢らなくてもいいわよ……」
「じゃ、じゃあレッツゴー!」
そうして僕たちはカラオケで一通り歌った後、公園のブランコに座ってジュースを飲みながら話し込んでいた。
「全く、今日は一段とおかしかったわよ。アンタ」
「は、はははは……」
「多分、気を遣わせちゃってるわよね。最近」
「バレたか」
「分かるわよ、んな事」
そう言って雪菜は俯き、ポツリと涙が落る。
「ごめんね、嶺二。だけど私、大丈夫だから。だから……」
「大丈夫な人は、そんな顔しないよ」
僕が指摘すると、雪菜は慌てて涙を拭いた。
「え、あ、その! コレは違うの! コレは……」
「ねえ雪菜、お節介なのは分かってる。多分、安易に踏み込んで良い領域じゃないことくらい。だけど、それすら承知で教えて欲しいんだ。雪菜が、どうして最近いつもそんなに辛そうな顔をしているのか。あの日、夏美さんと何があったのか」
「……アンタには関係ない」
そう言って去ろうとする雪菜の腕を、僕は掴んだ。
「離してッ! アンタには関係ないって言ってるのよ!」
「ゴメン、それはできない。ここでまた手を離したら、きっと僕はもう一生前に進めないから」
――ははは、理解できないって顔してる。そりゃそうだよね。
「うん、訳が分からないよね。だから雪菜のその事情と交換って訳じゃないけど、話をしよう。僕の……。どうしようもない薄情な臆病者の話を」
そうして僕はポツリと僕にとって苦い、後悔の記憶を話し始めた。
タイトル回収! ここまで長かった……。時間がない! 投稿遅くなって申し訳ないです……。oh、やっぱり投稿頻度が低いとマジでPVが付かない。趣味で書いてるから楽しいけど、やっぱりちょい凹むなぁ。ブクマ、ハート、評価つけてくれると嬉しいです!