第27話 フレイミング
「ちょ、何なの、あの炎は!?」
「あ、青い火……あんなの見たことないぞ!」
「でも、なんて澄んだ色……」
周囲がざわめいてやがる。
そういや、俺も知らなかったんだから、他の奴らもこの蒼炎を知らないのも無理はねえ。
「学園長……な、何でしょう、アレは……」
「ぬぅ……なんと……ハビリ・スポイルド……あ、ありえぬ。アレは……蒼炎ではないか?!」
「蒼炎?」
「し、しかし、ありえぬ! 使えると!? 魔法学園在学中はレツカですら……そ、それを……!?」
どうやら、呑気に観戦モードだった学園長は蒼炎の力を知っていたみたいで、だからこそ余計に他の連中よりも驚いてる。
なんだか、こういう周囲の反応……悪くない。
「ふふん、そうなんだもん、先輩はすごいんだから……僕は前から知ってたんだから、今更みんなが驚いて掌返しても遅いんだから!」
「う~む、蒼炎も披露してガチモードであるなぁ、坊ちゃま。ドスケベにならず、バトルマニア路線を?」
ネメスはキャッキャして、ソードはムムムと難しそうな顔をしている。
さて、こいつは?
「青い炎? 何なの、それ。初めて見たわ……随分と奥深い気配を感じるわ」
こいつも、さっきまで自信満々に人のことをザコザコ言ってた態度から、警戒心むき出しに身構えている。
これが普通じゃないとすぐに感じ取ってくれたようだ。
「ああ、気配以外も感じてくれよッ! 燃え爆ぜろッ! 青天落火星!!」
掌を上に翳し、炎の球体を作り出し、その球体から小規模の炎の礫をチオ目掛けて連射する。
「むっ! 廻し……いや、ダメねッ!」
「おっ!」
すると、チオは先ほどまで両手を使って巧みに素手で俺の炎を捌いたというのに、今度は素早い動きで回避していく。
速い。
だけど、受けずに避けたな?
「この炎、質が違うわ。受けたらまずいわ……なによぉ! あんた、ザコザコのフリしてたの?」
そして、チオは俺に向かって「どこか嬉しそうに」叫んだ。
その瞬間、どういうわけか、俺もゾクゾクと胸が高鳴った。
「けっ、ザコのフリィ? そんな余裕はねえよぉ! なんてったって、俺はかませ犬だからなぁ! 蒼炎の剣ィ!」
「ちょ、炎が形を変えて、剣にッ?!」
「焼き切れろおお!」
俺の落火星を回避しながら間合いを詰めて接近戦をしてこようとしてきたチオを、俺は炎の剣を片手に迎え撃つ。
「ちょ、っ、くっ、こいつぅ!」
「げっ、速いな……」
俺が振り回す剣を、チオはまた回避していく。
当たらない。
俺は女相手とは言え、相手は未来の勇者。だから構わず全力でぶった斬るつもりで振り回すが、こいつは目を見開いて見切ってやがる。
「へん、炎は厄介だけど、あんた筋力とか剣の腕前は普通ね。それじゃぁ、私には当てられないわ!」
なるほど……それは確かに課題だな……
「こうやって、振り回された後の無防備な箇所にカウンターを叩き込めば――――」
「フレイミングモードッ!」
「はっ?!」
俺の攻撃や炎を見切って、その上で拳を俺に叩き込もうとするチオ。
だが、その前に俺は自分の全身を青い炎を纏って―――
「ちょ、え?! え……ええええ?!」
チオの拳が俺の顔面を貫通した。
「せ……え……せんぱいいいい?! うにゃああああああ!?」
その瞬間、ネメスの絶叫が響き渡り……
「は、ハビリ君の顔が?!」
「い、いやああああああ!?」
「こ、ここ、殺したッ!?」
「う、嘘でしょぉ?!」
そして生徒たちの悲鳴も響き渡る。
俺が「殺された」と誰もが思っただろう。
そんな中で……
「え……えぇ? 坊ちゃま……いくら坊ちゃまも天才型だったとはいえ……ソレをもう体得されちゃっているのかぁ? (ぐぅ、これでは逆に今のチオではキツイか……今宵は敗れて傷心した坊ちゃまが小生の乳房に甘えてバブバブしながらのドスケベミッドナイトの予定が……ぐぅ~~~!)」
ソードは呆れたように頭を抱え……
「な、あ……が、学園長……は、ハビリくんは一体……」
「し、信じられぬ……蒼炎に、炎を使ったあらゆる形状変化や創造に加え……自分自身をも炎化するなど……」
さらに学園長は激しく震えている。
ああ、いいなぁ……みんな驚け……
「待って、み、見て! ハビリくんの体が……」
「え? え?! あれ……炎を纏って……違う?」
「ハビリ君自身が……炎になっている?」
そう、これも兄貴と親父が無理やり覚えさせた奥義の一つとか何とか……
「こ、これは……どういう……」
そして、チオも蒼炎同様に見たことがない様子で拳を突き出したまま無防備に動揺してやがる。
「全身炎と化し、時には自分が激しく燃え上がり、時には受け流す……『フレイミングモード』……」
「フ、ふ、ふれいみんぐ?」
「俺に魔力を帯びないただの物理攻撃は一切通用しねえってことだよぉ!」
「ッ!?」
一見無敵……だけど、色々弱点があったり、燃費が悪いということで、最強なわけではないと親父と兄貴は俺に忠告してきたり、マジで死ぬ可能性のある『メルトダウン・バーニングモード』とやらがあるとか何とか言われたが、今はこれで十分。負ける気がしねえ。
つまり、これからネメス同様にまだまだ成長するであろうチオだが、現時点なら俺の方が―――
「ケリだ、一年嬢ちゃん!」
「あ――――ッ、逃げない! 私は! 未知の強敵を求めて来たのだから!」
だが、それでもチオは折れない。
俺にビビってこのまま動揺して動けなくなるかと思ったが、目に力を宿し、そのまま俺に立ち向かう。
「いいなぁ、流石だ! お前、スゲーな!」
「はぁ?」
「そうさぁ! そうやって、誰にも屈せずに立ち向かう……それこそが世界を変える武器ってな!」
「っ、何を……あんた……」
俺は嬉しかった。
この世界は前回とけっこう変わっちまった。
ネメスは雌猫になるし、ソードとマギナも変だし、トワレは進路変更しちまった。
だけど、こいつだけは変わらねえ。
前回と同じだ。
「これからも変わらずにいろ! お前はお前のままもっともっと強くなり、そして世界を救っちまいなぁ!」
「な……なによぉ……ほんっと、変な人ねぇ、『ハビリ先輩』は!」
その瞬間、なんかチオが俺に向かって笑っていた。
「魔極神・竜巻嵐脚!!」
「自炎乙!」
そして、そんな俺たちに周囲は……
「こ、これが先輩の本気……す、すごい……すごい! やっぱり間違いない……先輩は……先輩は、先輩こそが僕たちを―――」
「これほどの傑物であったか……どうやら、ワシらは本当に節穴だったようじゃな……」
「すごい、ハビリくん……熱い……」
「おれ、オレ、なんか、俺まで熱くなってきた」
「うん。私たちはどうやらすごい人とこれまで居たのに気付いてなかった」
「ハビリ・スポイルド……彼は、彼こそが――――」
なんか興奮している様子だけど――――
「「「「「新たな世代を引っ張る勇者ッ!!!!」」」」」




