第15話 熱量
「さぁ、ハビリよ、我に見せてみよ! お前流の蒼炎をッ!」
王子と組手とか考えたこともなかったんだが……だが、親父や兄貴を見ても「コクリ」と頷いて止める気なし。
いやコクリじゃねえよ、止めろよ!
しかもやらねーといけないみたいだし……
「あ~~もうどうなっても知らねーっすよぉ? 滾れッ! 蒼炎の剣ッ!」
蒼い炎を掌に集め、炎の剣へと象る。
親父と兄貴曰く、これも蒼い炎を生み出すことより更に二段階ほど上の高等技術だとかなんだが、数時間頑張ったらなんかできたものだ。
「ほう、剣にまで! 本当に習得しているようだな! もうこの時点で魔法学園の全ての生徒を一気に抜いたな!」
蒼炎の剣を見た瞬間に漏れた王子の賞賛。
お世辞を言わない王子だからこその本音なのだろうと思うと、少し胸がゾクゾクする。
「キレイ……先輩の炎……昨日僕に見せた赤い炎と違う……これが先輩の力……」
そして、ネメス……お前、女であること隠す気あるのか? 物凄い雌顔で蕩けてるんだけど?
「よいぞ! 才気溢れる次世代はいつも心躍るッ! 我とレツカの後は谷間が続いたが……お前が筆頭か、ハビリ!」
ちがあああああう! 筆頭となるのはネメスなんだよぉ! ほら、ここに居て雌顔で顔をトロンとさせてるネメスだよぉ!
「さぁ、打ち込んでくるがよい! お前の炎の熱量を我が吟味してくれようッ!」
「いいんすね!? もうやるっすから、ほんと、やるっすからね!」
とにかく、もう打ち込んで来いと言うもんだし、打ち込まないと始まらないので、もうぶちこんでやることにした。
駆け出し、振りかぶり、王子の脳天目がけて一気に振り下ろし……
「ガイアハンドッ!」
「ッ!?」
だが、そんな俺の剣を王子は片手で掴み取りやがった。
「ぬっ、あ、ぐおッ!?」
巨大な岩……いや……これはもう大地!? 掴まれてビクともしねぇ!?
「う、受け止めた!? 先輩の剣をッ!?」
「……ふっ……小生も血が騒ぐ……帝国最強王子……巌窟王ブドー……」
「……寒気のする強さですねぇ……『相変わらず』……」
そして、掴まれた瞬間に伝わってくる。
相手の筋力。魔力。更に圧倒的な威圧感。
思わず全身が委縮しそうになるほどの圧倒的な力を感じる。
「どうした? お前の熱量はここが限界か?」
「ッ!」
イラっとくる。
いくら王子とはいえ何の事前連絡もなしにいきなり現れては急に人と立ち会えとか事情も関係なく言ってくるわ、その上で褒めたかと思えば急に見下したかのような目で見てきやがって……ふざけんな……
「おぉあああああああああああああっ!」
「ぬっ!」
押しても引いてもダメなら……飲み込んでやるッ!
「蒼空大炎上ッ!!」
炎の力を上げ、量を増やし、なんなら俺も王子も丸ごと飲み込むほどの巨大な炎を解き放つ。
「ぬぬっ!? ハビリの奴、なんということを!」
「こ、これは……ハビリッ! 王子!」
「兄様ッ!?」
俺がこんなことをするとは予想外だったようだな。
親父も兄貴も姫様も皆して驚いてやがる。
そうだ、本当の俺ならこんなことはしねえ。
自分すら飲み込む炎は自分の身すら危険になる。
自分が痛い思いをしてまで相手に一矢報いようなんて、クズの七光りのバカ息子ならやるはずのない行動だ。
だけど、今の俺なら屁でもねえ。
地獄のような地べたを這い蹲る、プライドも糞もねえ惨めな日々を送り、無力な末路を辿った経験のある俺なら、この程度何でもねぇ。
「お、おお、おおっ!」
「どーっすかぁ、王子ッ! あっちーーーっすかぁ!」
「お、おおおっ!?」
流石の王子もこれだけの炎に包まれれば、何ともないはずが――――
「よい……よいぞ、この熱量ッ! あまりの熱量に我も沸騰するほどになぁッ!!」
「うおッ!?」
何ともないというか、怯まないというか、それどころか更に王子の全身に魔力が漲り……
「魔岩石王・ガイアモードッ!!」
全身に、魔力で象られた岩の鎧を纏い、全ての炎を弾き飛ばす。
なんか、噂で聞いたことあるような、伝説で語られているような、王子の戦闘モードというかなんというか……
「知るかぁぁあ、飲まれろおおおお!」
「ほぉ! まだ振り絞るか、よいぞ! よいぞ、ハビリッ!」
消えたなら、また燃やし尽くすまで。
新たな炎で再び王子を丸ごと飲み込んで、もう俺は後先考えずにとにかく吼えた。
そして……
「「ガァァァァ――――ッ!!!!」」
俺はとにかく全てを出し尽くし―――
「坊ちゃま!」
「御主人様ッ!」
「先輩ッ!」
「王子、ハビリッ!」
「これは……」
「兄様……ハビリ……す、すごい……」
大気が震えて突風が吹き荒れて……
「がっ、ぐっ……そっ……」
結局そこで俺の魔力が完全にカラになっちまった。
「ふ、ふはははは……どうやら我を燃やし尽くせなかったようだなァ……ハビリよ!」
そして、そんな俺に笑う王子はまだ岩石の鎧を纏ったまま。
この勝負、結局……
「はあ、はあ、はあ……だが……まだまだ発展途上でありながら既にこれほどというのは末恐ろしい。一年後には我が負けているかもしれんなァ……ハビリ!」
「ッ!?」
そのとき、王子が岩石の鎧を解除すると、その下には笑いながらも大量の汗を流して肩で息をする王子。
ひょっとして、王子も意外と追い詰められていた?
「まったく……途中止めようかと思いました」
「ははは、本当。ハビリも怖いことするな~、僕もドキドキだったよぉ~」
「でも……これでハビリのこと、兄様も分かったかな~?」
「せんぱ~~い! 大丈夫ですか、先輩!」
「坊ちゃま、冷水風呂で冷やしましょうぞ! 小生が裸でお付き合いしましょう!」
「御主人様、火傷はありませんか? 舐めます!」
そして、立ち合いもこれまでという空気になり、親父たちが少しホッとした表情で間に入ってきた。
ネメス、ソード、マギナも慌てて俺に駆け寄って介抱してくる。
俺は一瞬呆けてしまったが、そういえばそもそも何でこんなことになったんだっけ?
すると……
「とにかく、お前の才能、可能性、そして熱量は見せてもらった、ハビリ。よかろう、合格だ! これで我が国は更に盤石となるであろう!」
「え? ご、合格?」
合格? 俺は何かを試されていた? 何の合格なんだ?
「今日より、お前はトワレの婿となる」
「……はぁ!?」
「「「えっ!!??」」」
それはまた、あまりにも予想外過ぎて王子相手に思わず「はァ!?」と言ってしまった。
だが、ネメスもソードもマギナも驚いている。
一方で親父と兄貴は満足そうに「うんうん」と頷き、姫様は……
「えへ♪ よろしく~」
えへじゃねえよ、この姫は!? 何で普通に笑ってんだよ!
「実は昔そういった話もあったが、お前の心も歪んでいたし、見どころのないクズであったし、トワレも望まなかったので破談とした。しかし最近のお前の評判を聞き、さらには今我自身が試したことで、もはや何の憂いもないと判断した」
「い、いや、あの、ちょ、待って下さ、お、俺の意志!」
「拒否は許さん。これは決定で、王命である。父も我に委ねると仰っている」
いや、王命って、あんた王子で王じゃなくて……いや、王も委ねんなよ!?
「ふぇぇんん、そ、そんな、先輩がぁ……」
前回姫に惚れられていたネメスはちょっとショックを受けてるみたいだし……
そして……
「……ハ? ナンダト? ナントイッタ?」
「……フザケルナ……ワタシノ御主人様ヲ……」
ソードとマギナがめっちゃ怖い目でブツブツ何かを言っているようだし……
引き続きよろしくお願い致します。
「面白い」、「続きが気になる」と思っていただけましたら、「ブックマーク登録」、および下記の評価欄で「☆☆☆☆☆」をポチっと「★★★★★」にご評価いただけましたら非常にうれしいです。
何卒よろしくお願い致します!!!!!




