第10話 もっと熱くなれよ!
「一体何なんじゃ? スポイルド家の次男は何を……」
「学園長……その、どうやら彼が失格した受験生を鼓舞しているようで……」
「ううむ……先ほどから何やら熱い言葉が飛び交っておるが……彼、ああいう子じゃったか?」
「わ、分かりません……試験休み期間の間に何かあったのでしょうかね?」
くそぉ、俺もこれまでの俺なら言わないようなことを叫んでいるから何だか恥ずかしい。
(坊ちゃま……何だか前回と少し流れが変だが一応決闘に……しかし、前回は明らかに平民であるネメスが気に喰わないという形で決闘されていたが……今回は……ネメスの失格を阻止しようと? 坊ちゃまはネメスの才能を既に承知? 何故?)
駆けつけてきたソードもポカンとしている。
だが、とにかくやるしかねえ。
「おら、来いよ!」
「で、でも……」
「でもじゃねえ! じゃねえと、こっちから行くぞォ!」
「ッ!?」
とにかく、テキトーにこいつを痛めつけて怒らせればどうにかなるはずだ。
「おりゃああ!」
「ぐっ、そんな、ま、待って下さ、どうしてあなたは―――」
「魔王が攻めてきてもお前は待ってくれと言うのか! それとも勇者になりたいってのは口だけか!」
「ッ!?」
とりあえず飛び蹴りから、これでもうやるしかないだろう。
するとネメスも訓練用の木剣を鞄から取り出して、ようやくやる気に。
「違います、口だけなんかじゃありません! 魔法は苦手ですが……剣なら!」
「おお、来いよ!」
「疾風斬り――――」
ただ、問題なのはこれからだ。
たしかこいつはこの時点ではダメダメの弱々だった。
だけど、俺が執拗に罵倒してイジメたら、怒りやら何やらをキッカケに覚醒だったから……くそ、何か意識してやろうとすると結構メンドクサイし恥ずかしいな……
「おるぁ!」
「ごふっ!」
膝蹴りを腹に叩き込む。それだけでこいつは簡単に膝が崩れ……
「さぁ、見せてやる! これがスポイルド家の炎の力……ファイヤーバースト!」
「ッ、な、なんという熱量!?」
「どうだー、これが選ばれた貴族の力だー! どうした、田舎者! お前はこれからもっと大きな力に立ち向かおうとしているんだ! こんなものに怯んでるんじゃねえ!」
蒼炎はマジで危ないから普通の赤い炎でセーブして……
(ッ?! 坊ちゃま……蒼炎ではなく……やはり、坊ちゃまはこの決闘でネメスを倒すつもりはない? むしろ……というか、坊ちゃま……演技下手過ぎぬか? 明らかにネメスを鼓舞しているようにしか見えぬぞ……)
さぁ、これに立ち向かってお前は勇者の眠れる力を覚醒させて……
「うぅ……僕じゃダメなのか……こんなすごい力……」
「ん?」
「今までどんなキツイ修行にも耐えて……村の大人たちとだって頑張って手合わせして……でも、これが選ばれた貴族の―――」
「って、心折れてんじゃねええええ!」
ダメだ。最初に受付の足切りで「失格」を言い渡されていたのがよほど精神的にダメージが大きかったのか、前回立ち向かったことに対して、今回はすぐに心が折れやがった。
くそぉ……
「夢を……簡単にあきらめるんじゃねえぇ、もっと熱くなれよぉ!」
「……え?」
とにかくネメスにここで居なくなられたら困るので、俺はネメスの胸倉掴んで無理やり立ち上がらせて叫んでいた。
「いいか! 貴族だとか平民だとか、そんなの何も関係ないんだよ! 貴族なんて蓋を開けたらクソみたいなやつだっていくらでもいる! 生まれた血筋だけでエライと勘違いしてやりたい放題にし、権力に物を言わせて他者を虐げる……そういう奴らにお前は屈するんじゃねえ!」
「あ……あの……」
「何よりもお前はお前の夢のため、ここで屈していいのかよ! 諦めたらそこでお前の夢は途絶える。まだ、走り始めてもいないうちに、諦めるんじゃねえ! 足掻いてもがいて、人の希望になって世界を救う勇者になってみろ!」
だからさっさと覚醒して試験合格しろよ~~と、心の中で叫びながら俺はネメスの手を掴んで無理やり立ち上がらせる。
「お前ならできるって、俺に何度言わせるんだよ」
すると、ネメスはどこか泣きそうな顔で俺を見上げ……
「……ッ……どうして……」
「あ?」
「どうして……今日、さっき会ったばかりの僕にあなたはそこまで……」
そりゃそうだよな! 実際俺たちは今こうして会ったばかりなのに、いきなり「お前はできる」なんて言われても根拠がねえよな。
なんて答える?
俺はお前が勇者になると知ってるなんてこの場で言っても何の説得力もねえ。
だけど、何か言わないと……
「この学園は……選ばれたエリート集うと言っても、入学してくんのは俺みたいな入学ラインをクリアできてるだけの貴族の七光りのバカ、それとコネクション作りしたいあざとい奴ら、将来の就職に有利だからとか、そういうのが多い。真面目な奴でも目標としてるのはせいぜい騎士団に入りたいとかぐらい」
「え、そ、そう……なんですか?」
「ああ……だからよ……お前みたいな真っすぐな目で、小さな子供のように『勇者になる』と口にするバカは実はこの学園に居ないんだ……そしてだからこそ気になり……そしてお前の奥底に眠る何かを俺は一目見て感じた……お前なら本当に……そんな夢を抱いた。だからこそ、俺は信じてみることにしたんだ!」
はっずぅ! はっず、はっず、はっずかしいいい! 俺、何言ってんだ? 自分でもなんか理由になってないというか、何を言ってるのかよく分からなくなってるし、しかもそうとう恥ずかしいことを言ってるんじゃないかと思う。
とはいえ、勇者は……
「あなたは……スゴイ人ですね……」
「あん?」
なんか、ネメスが顔を赤く、しかしなかなかイキの良い目で俺に微笑んで……
「なんだか、胸が、身体が熱くなってきました。そうです……諦めず、屈っせず、そして人の希望になる……それが勇者を目指す第一歩でした……僕の死んだ兄さんはそんな勇者を目指し……だからその夢を『私』は……」
「ネメス?」
「人を奮い立たせることのできる力を持った人……あなたは強いだけじゃなく、そんな素晴らしい心を持った人です。尊敬します」
「い、いや、そんなことは……」
「だからこそ、私もあなたのような勇者になるためにも、立ち向かいます!」
色々勘違いされているけど……
「ありがとうございます、熱血な先輩♪」
「けっ、勘違いすんな。俺はただのかませ犬さ!」
キタアアアアアアア! ようやく勇者の身体が光ったー!
「ねえ、ハビリくん……あんなこと言ってる……」
「普段私たちに対しての態度と違う……」
「ひょっとして、ハビリ様は僕たちを……『つまらない奴ら』と思って冷たく接してたんじゃ?」
「うん……だって、私たち……魔法学園に入ったからって勇者になろうなんて……」
「でも、昔は僕たちも夢を抱いた……勇者になって魔王をと……でも、いつの間にかそんな想いは無くなって……」
「でも、彼は違う……ハビリくんはそれを見抜いて……」
「ひょっとしたら、ハビリさんも勇者を志して……そして、その勇者の仲間を見つけたのかもしれない……だからこそ、本当の自分を曝け出して……」
「じゃあ、アレがハビリくんの本当の姿……」
おおおおおい、在校生どもぉおおお、なんかとんでもない勘違いをしてねーーかァァ!?
なんか、俺に対する視線がだいぶ変わってきている空気が?
まぁ、今はそんなことはどうでもいいとして……
「よーし、くらえー、ふぁいやーばーすとー(棒読み)」
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
「なにーおれの炎がかきけされただとー(棒読)」
よーし、でかい光! これで俺の魔法は搔き消される。
見たか、センコー共、これが勇者の力だ! さらにここからもっと光るんだぞ!
「何じゃこの力は! あの少年から……ハビリ・スポイルドが引き出したか!?」
「学園長……こ、これは……」
おうおう、教員たちも驚いている。これでネメスは問題ないだろう。
さあ、ココから更に爆発的な力を引き出せ!
「こ、これが僕の力? 僕にこんな力が……」
あ~良かった。これで歴史通り―――ん?
「おい……もっと出せるだろ?」
「え? 何を……今のこれでも僕にとっては信じられないぐらいの力なんです!」
それは、確かに覚醒の光だった……ただし……俺が前回味わったのよりも数段しょぼいように見えるんだが!?
いや、間違いなく、前回よりも遥かにしょぼい!
「すごい……あの受験生の子、一体……それに……」
「ハビリくんが引き出したのね……」
「分からない……でも、彼もすごいし……ハビリ様も……」
「……素敵♥」
そう、確かに何も知らなければ今のでも十分の力を感じるんだ。
だけど、これじゃねーんだ!
こいつはもっとすごかった。
特に、ブチ切れた時の……ブチ切れ……ん?
(坊ちゃまあああああ!? 悪逆非道な坊ちゃまはどこに!? 何か坊ちゃまが真人間通り越して熱血に!? ただ……その結果……コレとは……)
ブチ切れて前回は超ヤバ覚醒だったのに……今回は切れずに何とか引き出された光みたいなもんで……つまり……
(ネメス殿の溢れる魔力……前回よりも明らかに劣っている。こんなもの、チン●スレベルではないか! いや……ネメス殿にはチンは無いのだが……私たちもしばらく気づかなかったから、知った時には驚いたな……って、そうではなく! とにかく今の力では、魔法学園生徒の中では特筆すべきレベルではあるが、これでは魔王軍の大将軍レベルを前にすれば瞬殺レベル! というか、今のネメス殿など小生でも片手で倒せるぞ? こ、これは……まずいのではないか?)
覚醒が中途半端で勇者が前回より弱くなってるッ!?




