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予想は見事に的中。
両親だけが盛り上がる会話。子どもたち側はただ両親たちの話を静かに聞いているだけだ。
子ども同士で話せばいいと思うかもしれないが、両親たちの会話が弾みすぎてそんな隙は一切ない。
子ども側が気を遣わなければならないお茶会ってある意味新鮮で面白いかもしれない。
……ルーカス様は物凄く楽しくなさそうだけど。
ルーク様は何を考えているのか分からない。ただ表情を崩さず穏やかな様子で大人たちの会話を聞いている。
もちろんエマは大人たちの会話を退屈なものだとすぐに判断して、ケーキを食べることに専念している。
「そういえば、先日街で暴れた能力者が捕まったそうだ」
ローガン様の発言に私は先日あった事件を思い出す。
数日前、建物爆破事件が連続であった。幸い死人はでなかったが、怪我人は多く出た。
「どんな能力者だったんだ?」
「すまない、それはまだ言えない。……しかし、あれはとんでもないバケモノだ」
利用してこようとしてくる者たちに狙われるから、特殊能力を公言しないほうが良い。
だから、自分がどんな能力を持っているのかを親族にさえ隠したりする。
「俺がこの家のボスになって、皆を守ってやるから安心しなっ!」
ルーカス様が突然その場に立ち声を上げた。
……びっくりした。
大人な会話に急に幼い言葉が入って来たんだもの。……私とそんなに変わらないのだけど。
アリア夫人はすぐに「ルーカス! 行儀が悪いわよ!」と叱責し、彼を座らせる。
「だから、父上! 兄ちゃんにこの家渡すなよ!」
当主は目をぱちくりさせている。
遺産相続って分割されないからこのままだと全てルーク様にいく。
……ただ、このことをまだルーカス様は知らないわよね、多分。
「じゃあ、ルークが当主になるのを諦めるしかないな」
「そうですね」
ローガン様とルーク様が笑いながらそう言うと、ルーカス様は顔を赤くして怒った表情を浮かべる。
……ルーカス様が怒っても少しも怖くないのよね。
「兄上と半分にすればいいじゃないですか!! イサンっていうのはわけるものだろ!」
遺産という言葉自体をあまり聞きなれていないのか、最近知ったのか分からないが、子どもが頑張って難しい言葉を使うようにしか見えない。
……って思っている私の心は最低なのか。
「分割するとユラビス家の強い力を守れなくなるかもしれないからな」
「そんなことない! 父上は間違っています!」
ルーカスの正義感は分からなくもないけど、ローガン様の言っていることは最もだ。
ただ、まだ六歳には難しいのかもしれない。……と、一個下を馬鹿にする私って。
私の性格が良くないことぐらい周りも知っているし、大丈夫。
「ルーカス、そんなに大きな声を出さないの」
「母上も父上が間違っていると思っていませんか? イサンは独り占めするものじゃない!」
彼が必死にそう声を上げている中、私はひらひらと自分の近くを飛ぶ青い蝶へと視線を向けた。
こんなに大きくて綺麗な蝶を見たことがない。立派な青い羽を動かすたび、甘い匂いが漂う気がした。
そっと人差し指を目の前に差し出す。
蝶はゆっくりと私の指に留まった。とまった、と心の中で呟く。
間近で見るとますますその美しさが分かる。鱗粉が輝いて見えた。
……何か特別な蝶なのかもしれない。
「なんでみんな分かんないんだよ!」
ルーカスが力強くバンッと机を叩いた。その瞬間、ビクッと指を震わせそれに反応して蝶はどこかへと羽ばたいて行った。
私はゆっくりとルーカスの方へと視線を向けた。
自分の言い分が通らないからと言って、場の空気も考えずにワーワーと喚く。まるで……。
「生まれたての赤子」