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記録1 クサハミムシのスパイスソテー その1

レポート部分のみ演出上、以下の形式になっております。

①句点ごとに改行

②段落下げの代わりに空行

また、地の文と会話文も曖昧になっております。承知ください。

皆さんこんにちは。

私の名前はマイシィ・ストレプト。

ハドロス領内王立魔法学校に通う14歳。

中央貴族であるストレプト家の娘にして美食研究家(自称)をやっています。


おい誰だよ。

今、(自称)ってつけたやつ。

私は本気で料理研究してるんだから外しておいて頂戴。


───はい。

というわけで美食研究家たる私の華麗なる一日を皆様に紹介していきたいと思います!


まずは、ここがどういう場所なのかとか、私の家の事情だとかに触れておかなければなりませんね。


ここはダイノス魔法国という大陸の東にある島国です。

一応国王様もいらっしゃって王国という体制をとっているのですが、先王様の代に魔法立国を目指して国を改革。

今や平民の身分であっても貴族と変わらない暮らしができるようになったのです!

……貴族の格が落ちたという見方もあるのですけれど。

身分に関係なく初等学校や魔法学校───他国で言うところの中等~高等学校にあたります───に通えるようになったおかげで、国全体としてはかなり勢いが増したみたいです。

良いことです!


その弊害と言っては言い方が悪いのかもしれませんが、貴族の中では派閥争いが激しいらしいのです。

要するに貴族の権威を復活させようという復権派と、現体制を維持しようという国王様に味方している国王派に分かれてケンカしてるみたいなんです。

怖いです!


私の家は国王派なのですが、「子供の頃は、辺境の地で庶民の暮らしを身をもって知らねばならん!」というお父様の一声により、私は縁戚のフマル家へと預けられることになったのです。

たぶん、中央の貴族の権力抗争から遠ざけたいという気持ちもあったのだと、今ならわかります。


魔法学校でも貴族同士でいろいろありましたからねぇ……(遠い目)

まあ、その話は機会があればということで。


つまるところ。

私は肩書としては貴族令嬢なのですけれど、幼少の頃より辺境の地におり、男の子たちと殴り合いのケンカをしたり、時には泥まみれになって遊びまわったりと、かなりわんぱくに育ったのです。

もちろん貴族としての立ち振る舞いをお勉強させていただく機会はありますが、私はやっぱり自由気ままに生きているほうが好きです。


さて、そろそろ料理の時間とまいりましょうか。

本日のお料理はどろどろどろどろ……(※ドラムロール)……どろどろどろどろどろドドン!

クサハミムシのスパイスソテーでーす!

ぱちぱちぱち―。


「――ねえ、マイシィちゃん。これ本当にやるの?」


当たり前です!

いまさら何を言っているのよエメ君!

私が考えた最強のレシピを!

みんなに!

紹介せずに!

美食研究家が語れますか!


「……あー、はい。」


というわけでアシスタントを紹介いたします!

エメダスティ・フマル君です!

エメ君は私がお世話になっているフマル家の長男で、私と同い年なんだよー。

私の大親友の事が大好きで、彼女のためなら命だってかけられちゃうすごい子なんです。

少し体は丸いけれど、そこはチャームポイントだと思ってあげてくださいね!


「よろしくお願いします」


というわけで、さっそく食材の調達に参りましょう。

エメ君、虫取り網とかごを用意するのよ!


「えええ、そこからぁ……?」


***


私たちは今、フマル家から歩いてほど近い、小川沿いの草むらにやってきております。

この辺りは建物も少なくて自然も豊かな場所なのですが、小麦の休耕期間中は雑草防除のために炎魔法で丸裸にされている土地が多いです。

なので、クサハミムシが取れる場所はおのずと限られてきます。


「エメ君!」

「何、マイシィちゃん」


この時、私は思いました。


「……暑いわ!」

「夏だからね」


ここで改めて今回の食材、クサハミムシの紹介をしていきたいと思います。

クサハミムシは春先から晩秋にかけて活動する草食の昆虫です。

一番後ろの歩脚のみ太くなっていて、敵に見つかると飛び跳ねるようにして逃げます。

いくつかの種類があるようですが、この地域にいるクサハミムシはどれも食べることができますので、私個人としては区別せず、みんなまとめて「草喰蟲(クサハミムシ)」の名前で呼ぶことにしています。


クサハミムシが最も活発になるのは夏です。

細長い葉っぱの草が好きみたいで、それらが伸びてくると幼虫はどんどん成長して、大きなものだと8cmくらいにまでなることがあります。

そう言う個体が捕れると良いですね。


気を付けたいのは、毒草が生えている場所の近くだと、有毒化した個体が混じっていることがあることです。

虫にとっては無害な毒でも、人間か食べると中毒になることがあります。

実際、去年にエメ君が食あたりで入院したことがあります。


「2回ね」


この丸々と太ったエメ君が、すっかり痩せこけてしまった時には夜しか眠れないほど心配になりました。

元気になってもらおうと思って、いっぱい虫を捕って食べさせてあげたのですけれど、やっぱり具合が良くならなくて、とても悲しかったです。


「それが2回目の食あたりだったんだよね」


前回の経験から、この小川の下流域での採取はまずいということがわかりました。

ですので今回は小川に沿って上流方向へと歩き、クサハミムシがいたら捕獲、という流れで行きたいと思います。

同時に毒草の有無など、フィールドの調査も行わないといけません。

毒草が見つかった時点で、その周辺で捕れた個体は逃がしてあげることにします。


「あっ」

「どうしたの、マイシィちゃん!?」

「あの木、ミツスイムシがいっぱい止まってる……」


私の大好きな昆虫が木に止まってミンミンジリジリと鳴いています。


「……ミツスイムシ料理は、また今度紹介しようね」


そうでした。

今回の食材はクサハミムシ。

浮気はいけませんね。

どちらかというとミツスイムシの方が甘くて濃厚な味わいなので好きなのですけれども、がまんがまんです。


さて、草陰を飛び回るクサハミムシを見逃さない様、目を凝らしながら歩くことにしましょう。

小さな個体はいくらでも見つかりますが、なるべくなら大型の個体を狙いたいところ。

風の動きとは関係なしに草葉が揺れたときは要注意です。

そこにはほぼ間違いなく何かしらの食材があるからです。


「───よっしゃ、ゲット!」


さっそくエメ君が一匹捕まえました。

大物です。

羽も伸び切った、大型の成虫個体です。

これはかなりの食いでがありそうですね。

私も負けてはいられません。


私が狙いたいのは成虫へと変態する直前の終齢幼虫です。

大人になって羽が伸びてしまうと、味的にはあまり変化がなくとも栄養価が変わってしまうのです。

あるいは、お腹の中に卵を抱えたメスの成虫も狙いたいですね。

やはり、おいしさだけでなく健康も視野に入れるのが美食研究家というものです。


「───もう一匹捕まえたよ、マイシィちゃん!」


ま、負けて……負けていられませんね。


***


何故ですか。

何故私のかごには虫一匹入っていないのですか。

エメ君のかごにはこれでもかと言わんばかりの大量のクサハミムシがいるというのに。


「あのー、マイシィちゃん? こっちはもう入らないからそっちに入れても……」

「キシャーーーーーーー!」

「うわぁ! 急に威嚇しないで!」


クッ……なんという屈辱。

虫取りの技術でエメ君に遅れをとるとは。

昔は私の方が上手だったのにな。

ずるいなー。


は!

ひょっとして、エメ君が上手になりすぎて、私の分のクサハミムシも全部捕られちゃってるのかな。

かといってエメ君に手を止めてもらうのはなんだか癪だし。


そうだ、良いことを考えました。

能力で負けているなら、権力で打ち勝てばよいのです。

これぞ貴族の戦い方だというのをお見せしてやりましょう!


まずは目を閉じて精神統一。

右手を天に掲げ、腕がぶれないよう、左手で支えます。

ここだ、と一番心が研ぎ澄まされたタイミングで目を開き、呪文を唱えます。

魔法には本来呪文など必要ないのですが、想像力に言葉を重ねることによってよりイメージが強固なものとなるらしいのです。

3年生の授業で習いました。

ようし、今だ!


「炎よ、天高く昇りて爆ぜよ! ふぁいあわーくす!」


私の掌から出現した炎の塊は、甲高い音を放ちながら天空へと駆け上がっていきます。

そしてその慣性力が無くなったタイミング、つまり最高地点に到達した瞬間に火花となって宙に舞い散りました。

ドンという重い衝撃音が、数秒遅れて空気を鳴らし、地面を揺らしました。


「な、なに!? なんで魔法!?」

「ふっふっふ、エメ君、私は数の力であなたを圧倒するわ!」

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