19 内藤清次VS新生浩満
次の研究施設は精肉店にカモフラージュされていた。
能力者もゾンビ人形も居なかったので、研究員ごとあっと言う間に瓦礫に変えやった。
またラバースの成果を一つ潰した清次はさらに次の研究施設を目指す。
その後も遊技場、地下風俗店、ファーストフード店の準備室と矢継ぎ早に巡った。
そうして街中にさりげなく溶け込んでいるデータ集積場所を破壊して回り、付近の研究施設は残すところあと一か所になった。
香織たちと別れて二十分ほど経過しただろうか。
今頃、高速出入口近くで脱出のタイミングを見計らっている頃だろう。
具体的に何時に脱出するのか聞いていなかったが、無事に逃げ出せることを祈っている。
「……まあ、万が一ってこともあるからな」
これまでの敵の戦力を考えればある程度の力を裂いても余裕はある。
役に立つかどうかはわからないが、ちょっとした援護を試してみた。
香織にはああ言ったが、清次はもうL.N.T.を脱出するつもりはない。
仮に次の研究施設で空人を見つけ助けられたとしても考えは変わらないだろう。
残った時間と余力でL.N.T.にまだ一〇〇〇近くあるはずの残りの研究施設を潰して回るだけだ。
この命はすべて復讐に使う。
そう清次は決めた。
ただのヒロイックな陶酔に過ぎないかもしれない。
ラバース社に対してというよりはL.N.T.という街に対しての怒りか。
とりあえず近場の研究所であるバスターミナル近くの警備員詰め所に向かおうとすると、
「いやあ、本当によくやってくれたよ」
目の前に白スーツの男が現れた。
オールドバックの金髪の下、眉間に寄った皺が彼の怒りを物語っている。
「……新生浩満か」
「学生の分際で街の最高責任者に対して『さん』付けくらいできないのかね」
清次はずっと前を見て歩いていた。
何もなかった場所この男は突然現れた。
まるで風景のスイッチを切り替えたみたいに。
清次は足もとの光球に飛び乗って大きく後ろに下がった。
「どこへ行くんだい?」
声は背後から聞こえた。
前方にいるはずの社長がすぐ後ろにいた。
「な……」
あり得ない。
超スピードで移動したのなら気配くらいはするものだ。
「僕からは逃げられないよ。決してね」
清次はゾッとした。
こいつはヤバイ。
赤坂綺とは別種の、絶対に相手をしちゃいけないタイプの人間だ。
「うわああああっ!」
清次は恐怖を払うように光球を飛ばした。
攻撃と同時に後ろを振り向く。
エネルギーの塊が社長に襲い掛かる。
光球が当たる直前で社長の姿は消えた。
肩を叩かれた。
後ろを向いても誰もいない。
再び視線を前に戻すと、社長はさっきと変わらぬ位置に立っていた。
「落ち着けよ。少し話をしよう」
「ふ、ふざけんな!」
清次は足もとに光球を置き、それに乗って宙に舞い上がった。
こんなわけのわからない状況があってたまるか。
「だから逃げるなって」
このバスターミナルには天井がある。
駅出口正面のペデストリアンデッキの下にあるからだ。
だから柱の一つから梯子を伝ってキャットウォークに上ることができる。
新生浩満はそこにいた。
「君には長々と説教をしてやらなきゃいけないんだからさ」
清次は慌てて急降下して地面に降りる。
腹部に鈍い痛みが走った。
「ぐ……」
殴られた?
一体いつの間に――
「口で言ってもわからないなら、ちょっと痛い目を見てもらおうか」
すぐ耳元で声がする。
直後、側頭部に鈍器で殴られたような衝撃を受けた。
「この……っ!」
社長は少し離れた位置に立っていた。
清次はがむしゃらに三つの光球を飛ばす。
それが敵に当たるよりも先に、両膝が割れるように痛み出した。
「無駄無駄。無駄なんだよ。止まった時の中では絶対に君は僕に手を出せないんだから」
「止まった……時……!?」
「そう。僕の神器≪絶零玉≫は時間を止める。君たち学生のJOYとは次元が違う能力なんだよ」
瞬間移動をしているように見えたのも、突然体が痛み出したのも、清次が動けない間に移動して抵抗できないうちに攻撃を加えたからなのか。
攻撃事態はたいしたダメージではない。
だが、攻撃の過程を飛ばして一方的に傷つけられるのは非常に恐ろしく、また腹立たしいことであった。
そんな怒りが逆に清次を冷静にさせる。
「おや、なんだその目は?」
社長は不愉快そうに眉を動かす。
「私が怖くないのかい。まさか神器遣いを相手に戦いを挑む気か?」
「さてな」
にやりと笑って言い返した直後、右頬を思いっきり殴り飛ばされた。
痛みと悔しさの中で清次は歯を食いしばる。
「ち……くしょう、殴られるまで動けないんじゃどうしようもねえな」
「その通りだよ。君はこれから死ぬまで私のサンドバックだ」
「ほざいてやがれ」
確かに恐ろしい能力だが、ネタがわかったことで気分は楽になった。
時間停止能力であることを喋ったのは絶対に破られない自信があるからだろう。
その油断が命取りだってこと、思い知らせてやるぜ。




