2 宿命の対決! 星野空人VS赤坂綺!
この男、やるわね。
今までの敵とは一味違うみたい。
私の『フェザーショット』を避けて反撃してくる敵なんて今までにいなかったわ。
風使いかしら?
空中での機動力はほぼ互角みたい。
しかも攻撃が当たる直前に風で羽の軌道を逸らしている。
「star field――」
あら、なにか周囲が暗くなったような気がするわ。
「――sky――」
何かの能力を使うみたいね。
まあ、何だろうと飛び込んできた時があなたの最期よ。
カウンターに合わせて≪断罪の双剣≫でバラバラにしてあげるわ。
さあ、かかって来なさい!
「――白命剣」
敵の手に生まれる真白な剣。
それは……まさか!
私は≪断罪の双剣≫を十字に交差させて、その交点で白い剣を受け止めたわ。
ものすごい衝撃!
やっぱり間違いない!
でも……!
「甘いのよ!」
両手の剣を左右に開いて≪白命剣≫をはじき返したわ。
「バカな、受け止めるなんて……!」
「ふふ……あの人のJOYとは驚いたけど、美紗子さんの≪断罪の双剣≫と私の正義の力が合わされば、そう簡単にやられはしないのよ!」
そのJOYの本当の持ち主であるミイさんのことは確かに尊敬していたわ。
とても素晴らしい人だと思うし、私の才能を見込んでくれた。
特別授業では力の素をいっぱいもらったしね。
一緒に参加してた美樹は耐えられなくていろいろおかしくなっちゃったけど。
でも、その≪白命剣≫にはもっと別の因縁があるわ。
エイミーさんに支配の正統性を持たせるためにそのジョイストーンを奪い返そうとした作戦。
あの時に美紗子さんは命を落としたの。
だから絶対に負けるわけにはいかないのよ。
ミイさんならともかく、どこの誰かもわからない奴なんかにね。
神器と呼ばれるJOYを使ったくらいで私に勝てると思わないことね!
「今度はこっちから行くわよ!」
美紗子さんから受け継いだ二つの刃を力いっぱい握りしめて、私は目前の敵に向かって飛んだわ。
敵も風を纏って移動しつつ、斬撃をかわしたり≪白命剣≫で受け止めたりする。
その間もフェザーショットが四方八方から襲いかかる。
まさしく天空の超バトル。
これぞ最終決戦にふさわしい戦いだわ!
「綺、もうやめろっ! こんな戦いを続けても意味はないっ!」
なにこの敵。
劣勢になったとたん、急におしゃべりを始めたわ。
ま、そりゃそうよね。
機動力は互角で一撃の破壊力は向こうの方がたぶん上。
とはいえ、あっちには私の≪魔天使の翼≫みたいな防御の能力はない。
攻撃を一発でも当てればお終いよ。
お喋りで隙を作り出すのは卑怯だけど、よくある悪役らしい醜い足掻きね。
「問答無用よ!」
それにしてもよく耐えるわねこいつ。
手数は私の方が多いし、反撃する暇も与えず連続攻撃してるのに、一度もまともに当たらないわ。
機動力や風の防御ってだけじゃ説明がつかないわ。
さては先読みのSHIP能力でも持っているのね。
「わかっているのか! お前は騙されているんだぞ!」
「うるさいわね、いい加減にやられなさい!」
「ラバース社はお前を利用して戦乱を拡大させているだけだ! 死んだ人間が生き返るなんて、本気で思っているわけじゃないだろう!?」
なに言ってんのこいつ。
「死人が生き返るなんてあり得ない! お前がいくら戦おうとも、美紗子生徒会長は戻らないぞ!」
「……っ、黙れっ!」
両手の剣を力任せに振り下ろす。
今度は敵が白命剣でそれを受け止めた。
いけない、いけない。
私としたことが、つい激昂しちゃったわ。
けど、こんな奴が美紗子さんの名前を軽々しく呼ぶなんて許せないじゃない。
「そんなこと、言われなくてもわかってるわよ。彼らの言う死者復活なんてよく似た姿のゾンビ人形を作るだけ。本当に人間が生き返るわけがないじゃない!」
「な……」
あらあら、驚いた顔しちゃって。
「じゃあなんでお前は戦うんだ!?」
「私はこのL.N.T.をもっと良く作り変えなきゃいけないの。美紗子さんはそのためにこの≪断罪の双剣≫を私に託したんだから」
「そんなふうに奴らの言いなりになって人を殺すのを、生徒会長が望んだとでも言うのか!」
「美紗子さんが愛した街の人たちを少しでも多く向こうに送ってあげるの! そうすれば天国にいるあの人も寂しくないでしょ!? L.N.T.はこの戦いが終わった後に生き残った人間で立て直していけばいいわ!」
「綺、お前は……!」
まあまあ、すっごい目で睨みつけてくれちゃって。
所詮、悪役が崇高な正義の理想を理解できるわけがないのよ。
「もうおしゃべりは十分でしょう! 語りたいことがあるなら、その剣で語りなさい!」
※
水瀬学園前線基地。
上空で行われるバトルを見ている無数の目があった。
そのほとんどは基地の中に隠れている平和派の人間たちである。
ある者は突然現れた謎の戦士が赤坂綺を倒し、この恐怖支配を終わらせてくれることを願った。
ある者は結局新たな犠牲者が出るだけだと冷めた思いで空を見上げていた。
ある者は単純に人間同士とは思えない戦闘に見入っていた。
それらとは少し違う気持ちで空を見上げている男が一人いる。
内藤清次である。
「空人、もう……」
清次は空人の限界を気にしていた。
彼は≪白命剣≫を完璧に扱いこなしているわけではない。
彼の新たな能力である≪流星落≫で強引に抑えつけているに過ぎないのだ。
あの能力は空人の精神力をとてつもない速度で奪っていく。
長時間にわたって維持しなければいけない≪白命剣≫の使用は最低限に抑えるべきだった。
だが、ここに誤算があった。
当初の予定では、風の力と先読み能力、そして腕力と単発使用の≪流星落≫だけで赤坂綺を抑え込み、≪白命剣≫はあくまでトドメの技として使う予定だった。
何故なら≪魔天使の翼≫の防御を打ち破れるのは≪白命剣≫しかないからだ。
しかし、赤坂綺の力は清次や空人が思っていたよりもずっと強大だった。
最初の一手から≪白命剣≫の使用を余儀なくされ、攻め手を欠いたまま長期戦に持ち込まれた。
このままでは力尽きるのも時間の問題。
どうにか限界が来る前に勝負を決めてくれ。
清次は祈る思いで見ている事しかできなかった。
常人には手の届かないレベルで行われている空中戦を。
「あっ!」
一枚の羽が空人の肩を貫いた。
空人は体勢を崩し、追い打ちとばかりに赤坂綺が迫る。
どうにか空人は≪白命剣≫で攻撃を受け止めた。
しかし衝撃を抑えるまでは至らない。
彼は前線基地の巨大な壁面に叩きつけられてしまう。
空人の体が落下する。
気絶しているのか、再び上昇する気配はない。
そこに真っ赤な六枚翼をひろげて≪断罪の双剣≫を持った赤坂綺が迫る。
「空人ぉ!」
清次は叫んだ。
無慈悲な断罪の魔天使が墜落中の空人に止めを刺すべく急降下する。
もうだめだ――
清次が目を逸らした、その直後。
轟音が響いた。
うっすらと目を開く。
砂煙が舞い上がっていた。
さっきのは空人が落下した音だ。
Dリングの守りがあるから衝撃で死ぬことはないだろう。
しかし、赤坂綺に斬られていたとしたら……
「空人! 大丈夫か!?」
清次は急いで空人の下に駆け寄った。
「う、うう……」
倒れている空人を抱き起こす。
気を失っているが、肩の出血以外に傷はない。
追撃はなかったのか?
赤坂綺はどうなった?
再び天を見上げた清次は、砂煙の向こうでぶつかり合う二つの天使の姿を見た。
赤坂綺の攻撃を阻み、受け止めていたのは白い翼の少女。
ミス・スプリングだった。




