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DEVIL ANGEL AYA -Jewel of Youth ep1-  作者: すこみ
第17話 揺れ動く戦局
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8 自由のための同盟

 話を聞き終えた蜜は、偉樹の語った内容を頭の中で反芻した。


 すべてのグループの統一。

 抗争の終結。

 支配からの脱却。

 新たな秩序。

 L.N.T.の刷新。

 打倒運営。

 完全なる自由。


 彼の発した言葉が断片的に頭の中を駆け巡る。

 現実感が喪失し、足下の感覚を喪失させる。


「僕たち『フリーダムゲイナーズ』は必ず今語ったすべて実現させる。便宜上ひとつのグループという形を取るが、メンバー間に上下はない。あくまでこの街を裏から操っている巨悪と戦うための集まりと考えてくれればいい」


 偉樹は喋っている間、一度たりとも蜜から目を逸らさなかった。


 冗談ではない。

 この男は本気ですべてを敵に回す気だ。

 L.N.T.という街を根本から変えようと考えている。


 この街に住む者なら誰もがラバース社に利用されている自覚はある。

 それを楽しんでいる者、怯えている者、受け入れながら守ろうとしている者。

 様々な人間がいるが、共通していることは「敵は自分以外の能力者」ということだ。


 支社ビルが占拠されて以降、存在感を失った運営を意識している者はほとんどいない。

 何となくの不信感は誰しもが持っているとしても、ラバース社を敵と言い切る人間と出会うのは初めてだった。


「巨悪を倒すためには力を持つ能力者同士の団結が絶対に必要なんだ。いずれはアリスや、荏原恋歌さえも引き入れたいと思っている。本当の自由を掴むために争うべき相手は、僕たち学生同士ではないんだ。僕たちの……いや、この街に住むみんなの願いを叶えるために、本郷君もぜひ協力して欲しい」


 この誘いは非常に魅力的に思えた。

 L.N.T.に閉じ込められ争わされている若者たち。

 みんなが手を取り合い、見えない巨悪と戦って勝利を勝ち取るなんて。


 だが、しかし――


「せっかくですが、お断りさせていただきます」


 蜜は断った。

 偉樹は伸ばした手を引っ込めて表情を硬くさせる。

 それでも彼の視線は揺るがない。


「よければ理由を聞かせてもらえるかな」

「あなたの考えは理解しました。けれど、その実現に暴力という抵抗手段をとる以上、私たちは協力できません。それではかつて水瀬学園を占拠したテロリストや豪龍組と同じですから」

「それは……」

「あんた今の話ちゃんと聞いてなかったの!?」


 偉樹が何かを言おうとする前に花子が横から割って入ってきた。


「あたしたちがやろうとしてるのは支配するための抗争じゃない、争いをやめさせるための戦いなんだよ!? テロリストなんかと一緒にすんな!」

「どれだけ崇高な理想を口で語っても同じです。大規模な勢力同士のぶつかり合いになれば、傷つくのは力を持たない人たちなんですよ」

「街を変えるためには少しくらいの犠牲は仕方ないじゃん!」

「率先して抗争ごっこを楽しんでいた貴女が言っても何の説得力もありません」

「なっ……」


 花子は顔を赤くして絶句する。

 最後の一言は余計だったかもしれないが、取り消すつもりはない。


 彼女にどんな心境の変化があったかはわからない。

 落ち目の時に偉樹の耳障りの良い言葉に乗せらたのか。

 ともかく、蜜は考えを改めるつもりはなかった。


「私は友達や近所の人たちを守るだけで精一杯なんです。成功の見込みの少ない賭けに付き合って、あなた達と共倒れになるわけにはいきません」

「これだけのメンツがそろって力不足だって言うの!?」

「重要なのは個人の力じゃありません。いくら私や貴女が他の人より優れた能力を持っているとして、この場の五人でエンプレスに勝てますか?」

「あたしにはフェアリーキャッツのみんなもいる!」

「数を頼みにしては大きな抗争に繋がるだけと言っているのに……」

「わかった、もういい」


 花子との言い争いが過熱し始めた頃合いで、偉樹がついに視線をそらした。


「君の考えはわかった。残念だが、今日はもうお引き取り願おう」

「このまま帰ってもいいのですか?」

「ああ。わざわざ遠くまでご足労ありがとう」


 偉樹のあっさりした態度に蜜は拍子抜けした。

 これだけ重要な内容を聞かされたのだ。

 協力しないなら始末するくらいは言われると覚悟していた。

 もちろん、この場の全員を敵に回そうと自分が逃げるだけなら自信はあったが。


「ただし君たち北部自警団の協力を諦めたわけじゃない。数ヵ月後、僕たちがより目標が近づいた時に改めて声をかけさせてもらうとしよう。その時には君の考えも変わっているかもしれないからね」

「わかりました、そういうことでしたら回答は保留とします」


 蜜は一礼して後ろ手でドアを開いた。

 空気の手を伸ばして気配を読んでみるが、廊下に待ち伏せの気配はない。


「帰りは護衛の人物をつけよう」

「結構です。では……」


 最後まで背中を見せないよう用心しながら蜜は会議室から退出した。

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