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DEVIL ANGEL AYA -Jewel of Youth ep1-  作者: すこみ
第17話 揺れ動く戦局
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3 ルシール討伐

「いたぞ、あっちだ!」

「バカ、不用意に近づくな! 豪龍を殺した女だぞ!」


 街道にて。

 逃げるルシールを二人の男が追いかけている。

 互いの距離は開いており、前を走る方はすでにルシールの背後まで迫っていた。


「この間合いなら俺の≪連続攻打ダブルパンチ≫で一発だ! 反撃の暇なんて与えるかよ!」


 追撃者の声を聞き流し、ルシールは二つのジョイストーンをそれぞれ両手に握りしめた。

 まずは自分の能力を発動させると周りの景色が黄色く歪む。

 男はそれに気づいていない。


「覚悟しろルシール=レイン! お前を倒して新たなL.N.T.の覇者となるのは、俺たち『ツインロード』だ!」


 拳を振り上げ男が叫ぶ。

 次の瞬間、その声は戸惑いに変わった。


「え――」


 表情の変化を待たず、男の首から上が体から離れた。

 どんな能力だったのかは知らないが、彼のJOYは≪黄聖空間サークレッドエリア≫で完全に無効化された。


 男の首を刈ったのはもう一つのJOY≪白命剣アメノツルギ

 首の無くなった死体を蹴り飛ばし、次の追っ手に自ら接近する。


「ひっ!」


 相棒を殺されて判断力が鈍ったか。

 そいつは立ち止まってDリングの守りを展開させた。


 並の相手ならそれで正解。

 しかし、この最強の剣はDリングの守りごと敵の体を両断する。

 血飛沫をあげて上下に分かれた無残な屍を顧みることなく、ルシールは二つのJOYを解除した。




   ※


 ヘルサードから託された≪神鏡翼ダイヤモンドウイング≫を指定された人物に渡してから数日後。

 次々と襲い掛かってくる能力者たちを相手にルシールは戦いの日々を送っていた。


 世間では完全にルシールがヘルサードを殺したことになっている。

 彼女もそれを否定するような言動は一切していない。

 今や街中の人間が自分を狙っていた。


 四六時中こんな雑魚の相手をするのは煩わしいが、ルシールは誤解を解く気もなければ、身を隠す気もなかった。


 それもすべては、彼に託された最後の約束を果たすため。

 ルシールは戦い続けながら探して――選んでいた。

 彼の意思を継ぐのにふさわしい人物を。

 とはいえ、眠る暇もない戦い通しの日々は流石に辛い。


 他のJOYを弱体化させる≪黄聖空間サークレッドエリア

 あらゆるものを斬り裂く強力無比の剣≪白命剣アメノツルギ

 この二つのJOYがあれば無敵同然とはいえ、ルシールはつい数週間まではL.N.T.の能力者たちとは無縁の、普通の女子大生だったのだ。


 そんな彼女がすでに五十人近くの人間を斬り殺している。

 まるで人斬りか戦国武者だと思った。

 精神的にはまだまだ未熟な少女が、こんな修羅のような生活に耐え続けられるものではなく、もはや彼女の疲労はピークに達しかけていた。


 少し休息を取ろう。

 丸一日ほど身を隠せる場所を探さなくては。

 そんなことを考えていると、また別の追っ手がやってくるのが見えた。


「ルシール=レインを発見したぞ!」


 今度の相手は男女混合。

 数はさっきの倍だ。


 ルシールは焦らずジョイストーンを取り出した。

 いくら敵の数が多かろうと雑魚など物の数ではない。

 ところが、今度の敵はこれまでとは少し違う行動をとった。


「奴の十メートル以内に近づくな! 十分に間合いを取って射撃体勢に入れ!」


 おや、と思った時には敵のうち三人が弓を取り出し、矢を番えてルシールに狙いを定めてきた。


「撃てっ!」


 掛け声とともに矢が飛んでくる。

 能力ではない。

 相手は弓道部かアーチェリー部か。

 どうやらルシールを射殺すつもりらしい。


 ルシールはDリングを持っていない。

 あんな攻撃でも当たれば十分致命傷になる。


 なんとか物陰に隠れて矢を回避。

 敵はすぐに次の矢を番える。


 これは面倒なことになった。

 弓矢による攻撃なんてそうそう当たるものではない。

 だが、万が一にも能力者ではない人間なんかに討たれるわけにはいかないのだ。


 逃げるのは癪だが、ここは一旦下がるべきだろう。

 後ろを見るとすぐ傍の街道沿いに学校があるのが目に入った。


 あそこなら隠れて休息を取ることもできる。

 最悪でも建物に入ってしまえば飛び道具は使えない。


 そう判断したルシールは敵に背を向けて一目散に走り出した。




   ※


『誘導成功。ルシール=レインを曽埼地区の第七小学校に追い詰めました、どうぞ』 


 街道を走る車の後部座席にて。

 傍らの無線器から伝えられる報告を聞いた荏原恋歌はわずかに口元を緩めた。


「周辺のグループと連絡を取って周囲の路地を封鎖させなさい」

『了解しました。道路の封鎖を開始します』

「功を焦ってルシールを逃がすような馬鹿がいたら……わかっているわね?」

『肝に銘じておきます』


 遠く離れた場所にいる、名前も覚えていない人間が、自分の指示に従って動く。

 部下を持つというのは長い手足を手に入れたような感覚だ。

 恋歌は人知れず快感を覚えていた。


 これまでは寄せ集めの大所帯など邪魔になるだけだと思っていた。

 いざ多くの部下を抱えてみると、これが思いのほか便利に動いてくれる。

 もちろん、慣れ合いを許さない厳しさは恋歌のグループ『エンプレス』にはある。


 昔のように自ら戦うだけではない。

 部下を使って最良の状況を作り出していく。

 それだけの知恵とカリスマを恋歌は持っている。


 恋歌の過去の評判は人々の耳目を容易く集めた。

 今やグループの規模はフェアリーキャッツに迫るほどだ。


 とは言え、やはり最後の一手は自らの手で決めるつもりである。

 何よりルシールを倒すことが出来るのは自分しかいない。


『北の一より報告、どうぞ』


 さっきとは違う声が無線機から聞こえてきた。


「報告しなさい」

『水瀬学園より生徒会が出動しました。ルシール=レインの討伐にあたる模様です』


 やはり来たか。


 支社ビル奪還作戦の後、水瀬学園生徒会はほとんど動きを見せていない。

 水学の学園長がルシールの実姉であることを考えれば腰が重くなっても同然だ。


 L.N.T.の大部分がルシールを敵とみなしている以上、遅かれ早かれ行動するとは思っていた。

 恋歌に言わせれば遅いくらいだが、ある意味ではちょうどいいタイミングだと言える。


「北の一、生徒会と接触しなさい。ルシール=レインは曽埼第七小学校に立て篭もっていると教えてあげるのよ」


 少し間をおいてから『了解』と返事が来た。


「生徒会に干渉されては我々の作戦に支障がでるのでは?」


 これまで黙って運転に集中していた翔子がミラー越しに視線を送ってきた。

 彼女は最初の支社ビル襲撃後に生き残った二人の親衛隊の片割れである。


「ルシール=レインを倒すには協力者が……いえ、捨て石が必要よ。せっかく集めた部下を無駄に減らしたくはないでしょう?」

「しかし、よりによって水学生徒会を利用するとは……」

「麻布美紗子はルシールを殺さず生け捕りにするつもりでしょう。付け入る隙はいくらでもあるわ」

「なるほど」

「それに……」


 ルシールとまともに戦える人間なんて赤坂綺と麻布美紗子の二人しかいない。

 恋歌はそれを口にしなかったが、翔子もなんとなく悟ったのか言葉の続きは促さなかった。


 あの豪龍を倒したというルシール=レインは間違いなく強い。

 しかも奴は相手のJOYを弱体化させるという恐るべき能力を持っているらしい。


 どれほどの弱体効果があるのかはわからないが、恋歌の≪七星霊珠セブンジュエル≫はその性質上、モロに影響を食らう可能性が高い。


 麻布美紗子にはSHIP能力がある。

 赤坂綺は弱体化されてもそれなりに戦えるだろう。

 認めたくないが、彼女たちの力を借りなければルシールに勝つのは難しい。

 以前の恋歌にはあり得ないことだったが、今の彼女は目的を同じとする他者と協力し合うことも必要だと思っている。


「急いで頂戴。水学生徒会よりも前に到着しておきたいわ」

「わかりました」


 街道を西へ向う車が加速する。

 恋歌は心地よい揺れに身をまかせながら、頭の中でルシールを追い詰める作戦を練り始めた。

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