召喚
続きました
ドンッ!!!
――――ま――
……?なんだろう、誰かの声が聞こえる
――――――さま――
―――――女さま――
「聖女様!!!お目覚めになられたのですね!!」
「…?私、死んだんじゃ……」
ここはどこだろう。トラックに轢かれて人生とさよならしたはずが、煌びやかなシャンデリアが視界いっぱいに映り込む。私を起こしてくれたのか、ニコニコと笑みを浮かべたお爺さんが顔を覗き込んできた。
「死……?なんのことかはわかりませぬが、貴女様は我がオウルア王国を救う聖女として召喚に応じてくださった救世主ですぞ!!」
――そうか、これは死後の夢なんだわ。
「……わたし、せっかくしあわせになれるとおもったのに……」
死んだ後の夢でまで幸せに縋りつくだなんて、なんて醜いんだろう。顔だけじゃなく心まで醜かったなんて。悲しくて涙が溢れてくる。目の前のシャンデリアの光がスパンコールのようにキラキラと滲んでいった。
「聖女様……!?どうかなされましたか!?お身体が痛むのですか!?」
「……違うんです。それに私は聖女なんかじゃない、そんな綺麗なものじゃないんです……」
言いながらまた涙が溢れてきた。どうしてこの人たちはこんなに話しかけてくれるんだろう。どうしてこんなに親切にしてくれるんだろう。
……きっとみんな優しい人なんだ。なのに私は指先の一つも動かせずに泣いてばかりで。
(返事すらまともに返せない自分が嫌になる……)
夢だというなら、もう一度眠れば目を覚ますかしらと思いついたその時、広間の扉がバン!と大きく音を鳴らした。
「聖女様がお目覚めになったそうだな!?」
入ってきたのは背の高い男性のようだ。そのままツカツカと靴を鳴らしてこちらに近づいてきた。
(…なんて綺麗な人なんだろう)
美しい金髪に、澄んだ青空のような瞳。
まるで絵画のように整った目鼻立ちの青年が顔を寄せてくる。
(まるで絵本の中の王子様みたい……)
「初めまして聖女様、私はオウルア王国第二王子、アルステア・フリントと申します」
「ほんとに王子様……?」
やわらかな微笑みを浮かべた王子様は、未だにぼんやりしている私の背に手を回して、抱き起こしてくれた。
背中に回った腕が暖かく、泣き疲れた私を眠りへと誘っていく。
「お疲れでしょう。柔らかいベッドでは無いですが、このまま眠ってしまって良いですよ」
「……お手を煩わせてしまって申し訳ありません」
「そんなに畏まらないで下さい。構いませんよ、ゆっくりお休みください」
王子様の腕の中で眠るのが申し訳なくて身体を動かそうとするが、疲れからかピクリとも動かない。
(あ…だめだこれ……)
動かすことができないまま瞼が落ちてきて、意識がぼやけていく。
私はお言葉に甘えて、王子様に体重を預けたまま深い眠りへと落ちた。