第8話 弟子入り 前編
前回のあらすじ
プレゼントを渡せなかったことを謝った
「……え? ソロモン、今なんて?」
パパが食べる手を止めて、ぼくにそう聞き返してくる。
今日の朝ご飯はトーストにハムエッグ、野菜サラダとカボチャのポタージュだった。
その朝ご飯時にぼくは覚悟を決めてあることを告げると、パパは驚いたような顔をする。
だからぼくは、もう一度パパに告げる。
「だから、ぼくもパパみたいな魔物使いになりたいの!」
「……それ、本気?」
「うん!」
即答すると、パパはフォークをテーブルの上に置いて、ぼくの顔を真っ直ぐに見つめてくる。
「……なんで、僕みたいな魔物使いになりたいの?」
「だって、カッコ良かったから!」
「カッコいい?」
「うん!」
パパの言葉に、ぼくは笑顔を浮かべながら頷く。
昨日、パパがたくさんの魔物を引き連れているのが、とてもカッコ良かった。
まるでおとぎ話に出てくる英雄みたいに……。
そんな魔物使いにぼくもなりたいことを身振り手振りを交えて説明すると、パパがいつもの優しい笑みを浮かべる。
「そっか……ソロモンは僕みたいな魔物使いになりたいのか……」
「うん!」
「魔物使いになっても、後悔しない?」
「しない!」
「なら……ソロモンは今日から、僕の弟子だ」
「弟子?」
ぼくがそう聞き返すと、パパは頷く。
「うん。一定のランクまで昇格した冒険者は徒弟制度……えっと、弟子を取ることが出来るようになるんだ」
意味の分からない単語が出て来て首を傾げるぼくに対して、パパは意味を噛み砕いてぼくにも分かりやすく説明し直してくれる。
「そうなんだ」
「うん。で、その弟子は師匠と同じジョブにしかなれないんだ。だからさっきソロモンに確認したんだよ。後悔しない? って」
「全然! むしろ、魔物使いにしかなりたくないくらいだよ」
「そう言うソロモンみたいな子の方が珍しいんだけどね。……それじゃあ今日は、弟子入りの手続きをするために一緒に冒険者ギルドに行こうか」
「うん!」
「そうと決まれば、朝ご飯が冷めない内に早く食べ終わらないとね」
パパはそう言うと、フォークを再び手に取る。
ぼくもスプーンを手に取って、早く冒険者ギルドに行きたい一心でカボチャのポタージュを掻き込む。
そして案の定噎せた―――。
◇◇◇◇◇
ウキウキルンルンと、嬉しそうな表情を隠そうともしないソロモンと手を繋いで冒険者ギルドへと向かう。
まさかソロモンが僕に憧れているなんて夢にも思わなかった。
たぶん昨日ソロモンが上の空だったのは、このことを言いたかったからなのかもしれない。
そしてソロモンと一緒に冒険者ギルドの建物までやって来て、中に入る。
ちょうどクエストに行く冒険者達で込み合う時間帯で、ギルドはごった返していた。
手続きは時間を置いてからした方が良いだろう。受付も今の時間は忙しいだろうし。
「ソロモン。少しその辺で時間を潰そうか」
「それならいい所があるよ」
「いい所?」
「うん! 連れてってあげるね」
ソロモンはそう言い、僕の腕を引っ張ってそのいい所とやらまで連れて行かれた―――。
◇◇◇◇◇
「ここは……」
ソロモンに案内されたのは、小ぢんまりとした建物だった。
建物の周りは塀で囲われ、小さいながらも庭がある。
その庭で、小さな子供達が楽しげな歓声を上げながら遊び回っていた。
噂では耳にしたことはあるけど……ここは孤児院のようだった。
なんでソロモンがこんな場所を知っているのかは、すぐに判明した。
「あ! ソラちゃん!」
一人の少女がソロモンに気付き、こちらに駆け寄ってくる。僕の姿には気付いていないらしい。
それが彼女らしいと言えばらしいけど、まさか僕の名前を覚えられていないなんてことは……ありそうだから困る。
その少女―ヒルデちゃんはソロモンの前までやって来ると、そこでようやく僕の方にも目を向けてくれた。
「ダビデさん、おはようございます」
ヒルデちゃんはそう言って、ペコリとお行儀良くお辞儀をする。
……良かった、僕の名前は覚えられていたようだ。
そんなことを思いながら、僕もヒルデちゃんに挨拶する。
「おはよう、ヒルデちゃん。ヒルデちゃんが孤児院にいるなんて初めて知ったよ」
「あれ? 言ってなかったっけ?」
僕の言葉を聞いて、ソロモンがコテンと可愛らしく首を傾げる。
「聞いてないよ」
「パパには言った気がするんだけど……気のせいだったのかなぁ?」
「ソロモン。こういう時は?」
「えへへ……ごめんなさ〜い」
「うん、よろしい」
全く反省の色が窺えないソロモンの謝罪の言葉だけど、そこまで深刻な問題じゃないから僕も笑って許す。
「それで……今日は二人してどうしたんですか?」
「ソロモンがいい所があるって連れて来られてね。ギルドに用があったんだけど、混んでたから何処かで時間を潰そうと思ってね」
ヒルデちゃんの質問にそう答えると、彼女は納得したように頷く。
「そうなんですか。それなら中に入ってください。さあさあ」
そう言うヒルデちゃんに腕を引かれ、孤児院の敷地内へと誘われた―――。
ソロモンの大事なことほど言わない性質は幼少期の頃からです。
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