第4話 『魔王』 その4
前回のあらすじ
ソロモンとヒルデを救出した
馬車の荷台から降りて、バルトを御者台に括り付けてから、地面に転がっている人さらいの集団の人間だった奴等の亡骸をぞんざいに荷台へと積んでいく。
その間、ソロモンとヒルデちゃんはグリフと戯れていた。
きゃっきゃと楽しげな声が聞こえる。
さっきまで怖い思いをしていたというのに……子供の感情の切り替えの早さはすごいなぁ、と思う。
「ソロモン、ヒルデちゃん。こっち来て」
一通り積み込み終わり、水属性の魔法で腕にこびりついた血糊を洗い流してから、二人にそう声を掛ける。
二人はタタタッと駆け足で僕の傍まで近寄ってくる。
そんな二人の後ろを、グリフがゆったりとした足取りで歩いている。
「それじゃあ今からこの集団のアジトに向かうから、二人はグリフの背中に乗ってね。グリフ、馬車の牽引を頼むね」
「「は〜い!」」
ソロモンとヒルデちゃんは元気の良い返事をして、グリフも了承の意を示すようにクルクルと軽く鳴く。
そしてグリフは二人が乗りやすいように姿勢を低くして、僕は二人がグリフの背中に乗るのをサポートしてあげる。
「二人共。落ちないようにグリフにしっかり掴まっているんだよ」
「うん!」
「はい!」
二人がそう返事をしたのを聞き、僕はグリフの首筋を撫でる。
それを合図にして、グリフは子供達を気遣うようにゆっくりと立ち上がる。
いつもより高い視界に、子供達のテンションも上がっている様子だった。
そのまま馬車の近くまで誘導し、馬車を引くための縄をグリフの体に巻き付けていく。
ちなみに元々馬車を引いていた馬は、先の戦闘のどさくさに紛れて何処かへと逃げて行っていた。
手綱もあったけど、長さが足りないのと、グリフ相手にそんな物は必要ないことから、荷台に適当に放り投げていた。
僕は御者台に座り、そこに括り付けられているバルトに向かって、子供達には聞こえない声音でそっと耳打ちする。
「……もしお前の言った場所にアジトがなかったら、その時は……分かってるな?」
そう脅すと、バルトは無言で何度も頷く。
ここまで脅しておけば、変な気は起こさないだろう。
そう思い、僕はグリフに指示を出して馬車を発進させた―――。
◇◇◇◇◇
グリフの引く馬車は、背中に乗る子供達を気遣ってかゆっくりとした速度で進んでいく。
それでも、普通の馬車の一・五倍の速度は出ているけど……。
そんなゆっくり(?)とした速度で進んでいると、当然魔物にもその存在を捕捉される。
少人数なのを格好の獲物だと捉えたのか、魔物達は上位クラスの魔物であるグリフがいるにも関わらずこちらに向かって来ているのを索敵魔法で捕捉する。
それは僕としても好都合だった。
人さらいの集団がいるアジトにいるのがバルトの言った通りの人数かは分からないから、戦力は多いに越したことはない。
それに、グリフには子供達を守ってもらうつもりだったから、ここで魔物と仮契約もしておきたかった。
魔物達は一目散にこちらに接近してくるけど、僕らの視界に入る頃にはすでに僕と仮契約は済んでいた。
仮契約した魔物が続々と馬車の周りに集まってくる。
周りの魔物をキョロキョロと見回して、ソロモンが僕の方を振り向いて尋ねてくる。
「パパ。ここの魔物達って何なの?」
「ああ、僕が仮契約した魔物。ソロモンには前にも言ったけど、僕は魔物使いだから、こうして魔物を従えることが出来るんだ」
「それじゃあ、ぼくとヒルデが乗ってるグリフもパパが従えてるの?」
「うん、そうだよ」
「そうなんだ! パパってすごいんだね!」
ソロモンはとびっきりの笑顔を浮かべて、そう言ってくる。
娘にそんな笑顔を浮かべられながら煽てられると、俄然やる気がみなぎってくる。
そうこうしている内に件のアジトの近くまでやって来て、そこでグリフに命じて馬車を止める。
アジトは森の中を突っ切る街道を外れた位置にあった。
アジトからは見辛く、街道から見易い位置に馬車を停めて、グリフの体から縄をほどく。
そしてバルトを縛っている縄の端を持ちながら、グリフに命じる。
「もしソロモンとヒルデちゃんの身に危険が迫って来てたら、僕を置いて竜人の里まで戻っていいからね」
そう命じると、不承不承といった感じで不満しかない鳴き声を上げる。
そんな忠誠心に篤い従魔を宥めすかすように、首筋を撫で回す。
そうしながら、ソロモンとヒルデちゃんの方を向く。
「二人共。何が起きてもグリフの背中から降りちゃダメだよ? とっても危ないからね」
「うん……早く戻って来てね?」
「はい、分かりました」
「よし、いい子だ」
僕はそう言い、子供達の頭を順番に撫でてゆき少しでも安心させる。
そして手を離し、バルトを連行して仮契約した魔物達を引き連れてアジトの方へと向かった―――。
次回、ダビデの本領が発揮されます。
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