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第19話 『魔王』の罪 前編

前回のあらすじ

秘密を打ち明けた

 

 時は十二年前まで遡る―――。




 クオーディナ連邦の首都からグリフに飛んでもらって、僕は北大陸東部にある竜人の里の近くまでやって来る。

 首都は大陸のほぼ中央付近にあるから、グリフに飛んでもらったとはいえそこそこ時間が掛かった。


 里の近くに着地すると、一組の家族が僕達を出迎えてくれた。


「久しぶりね、ダビデ、グリフ」


 そう言って僕達の方に近付いてくるのは、僕の実の姉のサーシャ姉さんだった。

 グリフは久しぶりに姉さんに会えて嬉しいのか、羽をバサバサと動かしている。


 姉さんは燃えるような真っ赤な髪を肩口で綺麗に切り揃え、勝ち気そうな瞳は僕と同じ金色に輝いている。

 手足はスラッと伸びていて、胸は…………うん。本人の名誉のために言わないでおこう。


 そしてそんな姉さんの腕の中には、小さな赤ん坊が抱き抱えられていた。


 僕はグリフの背中から降りつつ、姉さんに言葉を返す。


「久しぶり、姉さん。最後に姉さんに会ったのは姉さん達の結婚式の時だから……五年くらい前かな?」

「そんなに前だったっけ? つい最近も会ったばかりだと思ったけど」

「……五年前を最近だと感じるってことは、姉さんもだいぶ老けた……」

「ダ〜ビ〜デ〜? あたしにケンカでも売ってるのかしら〜? 言い値で買うわよ〜?」


 姉さんはそう、今にも僕に殴りかからんとばかりに凄んでくる。

 結婚して落ち着いたと思っていたけど、僕の思い違いだったようだ。


 そんなことを思っていると、青髪の眼鏡の男性がポンと姉さんの肩を叩く。


「サーシャ、そんなに怒らなくてもいいじゃないか。……ごめんね、ダビデくん。サーシャはこんな態度だけど、実は昨日からダビデくんに会えるってそわそわ、むぐっ」

「だ……だだだだ黙っててって言ったでしょ!?」


 姉さんは顔を真っ赤にして、片手で男性の口を塞ぐ。


 姉さんに口を塞がれている男性は、姉さんの夫で僕の義理の兄に当たるメルディン義兄にいさんだ。

 義兄さんは青空のように真っ青な髪と目をしていて、黒縁の眼鏡を掛けている。

 そんな義兄さんは竜人の里で小さな商店を営んでいて、それなりに繁盛していた。


 閑話休題。

 義兄さんは姉さんの手をタップすると、姉さんは義兄さんの口を塞いでいた手を離す。

 そして姉さんは顔を真っ赤にしたまま、僕の方を向く。


「……違うからね? メルディンの言ったことは出任せだからね? ダビデと会えることなんて全然、全く、これっぽっちも楽しみになんかしてないからね?」

「ああ、うん。そういうことにしておこうか」


 実の姉のツンデレなんて、いったいどこに需要があるんだ?


 そんなことを思いながら、僕は軽く返す。

 姉さんは唸ったままだったけど、義兄さんに宥められて気を落ち着かせた。


「はあ……まあいいわ。今日はこっちがメインなんだから。ようやくのご対面ね」


 姉さんはそう言いながら、腕に抱えた赤ん坊の顔を僕に見せつけてくる。


「ほら、あたしとメルディンの子供よ。ダビデから見たら姪っ子に当たるわね」

「姪……ってことは、この子は女の子か。名前は?」

「ソロモンよ」

「そっか……こんにちは、ソロモン。キミの叔父さんだよ」


 そう言いながら、ソロモンの柔らかい頬っぺたをつつく。

 するとソロモンは、その小さな手で僕の人差し指をぎゅっと握ってきた。

 思いの外力強くてビックリしていると、姉さんがクスクスと笑っていた。


「ビックリするでしょう? 赤ちゃんって意外と握る力が強いんだから」

「そうみたいだね……うん?」


 ソロモンが僕の後ろの方をジーッと見ていたので後ろを振り向くと、グリフが僕の肩越しにソロモンを見つめていた。

 魔物を前にして泣き声の一つも上げないなんて……ソロモンは将来大物になるに違いない。


「どうしたの、グリフ?」

「赤ちゃんが珍しい……わけでもないわよね?」

「うん……あ。もしかしたら、姉さんの子供だから興味があるのかも」

「そうなの? じゃあグリフにも見せてあげないとね」


 姉さんはそう言うと、グリフによく見えるようにソロモンを抱き直す。

 その間、ソロモンはずっと僕の人差し指を握ったままだった。


 グリフがソロモンに顔を近付けると、ソロモンは僕の人差し指から手を離してグリフの嘴をペシペシと叩き始めた。

 グリフは大人しくソロモンのなすがままにされていて、僕だけでなく姉さんと義兄さんもその事に驚いていた。


 グリフ、と言うよりグリフォンという魔物は非常に気位が高く、その体を触らせることはほとんどない。

 それがグリフォンにとって自身の威厳を示す、最も重要な部位である嘴なら尚更だ。


 親愛の証として自分から相手に体を擦り付けることはあっても、その逆は本当に心を許した相手にしか許されていない。

 グリフの場合、僕と姉さんだけが無条件でグリフの体を触ってもいい対象だった。


 義兄さんはグリフにとって、大好きな姉さんを取った相手だと認識されているようで、グリフに触ろうものならその翼で反撃を喰らわせていた。

 でも、「嫌いな相手」とは認識していても「敵」として認識はしてないから、この事に関して僕は放置していた。


 そんなグリフが、初対面のソロモンに体を触ることを許した。

 相手が赤ん坊だから乱暴なことをしないというのを抜きにしても、これにはさすがの僕も驚きを禁じ得なかった。

 もしかしたら、姉さんの子供ということで心を許す条件が緩いのかもしれない。


 すると義兄さんが、姉さんに声を掛ける。


「サーシャ、そろそろ」

「ええ、そうね。……ずっとこんな所にいるのも何だし、我が家に案内するわ。ついてきて」


 そう言って姉さん達は、竜人の里の方へと歩いていく。

 そして僕はグリフを連れて、姉さん達の後を追った―――。






姉夫婦の登場です!

と言っても、出番は少ないんですがね……。




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