第18話 発覚
前回のあらすじ
ダビデが隠してきた秘密がバレた
翌日。
ソラちゃんは珍しく朝寝坊していた。
そして彼女が起きてきたのは、正午になるかならないかという時間帯だった。
お昼の用意をしていた私は、リビングにやって来たソラちゃんに声を掛ける。
「おはよう、ソラちゃん。いや……おそよう、かな?」
「おはよう、ヒルデ……」
そう答えるソラちゃんの顔は、どこか暗かった。
う〜ん……ソラちゃんの女の子の日はまだ先だったハズだけど……? そうじゃなかったら、いったい……。
そんなことを思っていると、おとうさんが出先から帰って来た。
「ただいま〜」
「あ。お帰りなさい、おとうさん」
「今戻ったよ、ヒルデ。……ソロモンも起きてたのか。おはよう、ソロモン。寝坊するなんて珍しいね」
「……うん。おはよう……」
そう答えるソラちゃんは、まるで親の敵でも見つけたかのようにおとうさんを睨み付けていた。
ソラちゃんがいつもと様子が違うことに、おとうさんも気付いたようだった。
「……? どうしたの、ソロモン? そんな怖い顔して?」
「…………一つ、聞きたいことがあるの」
「何? 改まって」
「……ぼくの本当の両親って、どこの誰なの?」
「……?」
ソラちゃんの質問の意図が分からなかった。
だってソラちゃんはおとうさんの――ダビデさんの実の娘……。
そう思っておとうさんの方を見ると、おとうさんはほんの少しだけ驚いたように目を見開いていた。
だけどそれも一瞬のことで、おとうさんはいつもの優しい笑みを浮かべる。
「突然どうしたの、ソロモン? ソロモンの親はこの僕――」
「惚けないでっ!!」
おとうさんの言葉を遮り、ソラちゃんは大声を上げる。
普段の彼女らしからぬ声音に、私は反射的に身を竦める。
「本当にパパがぼくの父親なら、なんでこの家には母親がいないの!?」
それは私も疑問に思っていた。
だけど、深く聞いてはいけない気がして、今まで聞けずにいた疑問でもあった。
ソラちゃんは堰を切ったかのように、思いの丈をおとうさんにぶつける。
「ぼくは誰から産まれたの!? パパは本当にぼくと血の繋がった父親なの!? 隠していることがあるなら正直に話してっ!!」
「…………」
それだけソラちゃんに言われても、おとうさんは黙ったままだった。
大声で叫んで体力を使ったのか、ソラちゃんは肩で息をしている。
しばらく誰も口を開かなかった後、おとうさんがふぅ〜っと深い溜め息を吐く。
そして無言のままソファーに座ると、視線だけで私達に向かいのソファーに座るように促してくる。
それに従い、私はソラちゃんと並んでソファーに座る。
それを見計らって、おとうさんは口を開く。
「………………本当は、ソロモンが成人してから打ち明けるつもりだったんだ」
「やっぱり、隠してたんだ……」
小さな声でそう言うソラちゃんの声音には、どこか落胆の色が窺えた。
おとうさんもそれに気付いたようだけど、それをあえて無視して話を続ける。
「話をする前に……ソロモン。いつそれに気付いたんだ?」
「昨日の夜。パパが一人で晩酌してる時に聞こえてきた声で」
「そうか……僕も迂闊だったな……」
おとうさんはそう言って、バツが悪そうに頭をガシガシと掻き乱す。
「そんなことより、本題の方を話して」
「……仕方ないな」
ソラちゃんがややせっかち気味に先を促すと、おとうさんは頭を掻くのを止めて姿勢を正す。
「……そうだよ。僕はソロモンの本当の父親じゃ――ない」
「そう、なんだ……」
覚悟はしていたんだろうけど、おとうさんの口から改めて言われて、ソラちゃんは悲しげに目を伏せる。
だけど、おとうさんの言葉はそこで終わりじゃなかった。
「だけど……血が完全に繋がっていないわけじゃない」
「……? どういう、こと……?」
「ソロモンは姉さんの……僕の実の姉の子供なんだ。だから僕とソロモンの本当の関係は、叔父と姪なんだ」
「叔父と……」
「姪……」
ソラちゃんと私は、おとうさんの言葉を反芻するように呟く。
その言葉で、私の中にあった疑念が氷解した。
おとうさんとソラちゃんは親子という割にはあまり似ていなかったけど、叔父と姪という関係性なら納得が言った。
それなら、あまり似ていないことにも説明がつく。
「それで……ソロモンの本当の両親がなんでいないかっていう話だけど……これは全て僕が悪い。僕の責任なんだ」
そう言うおとうさんの顔は、とても辛そうに見えた。
そしておとうさんは自らの罪を、犯してしまった過ちを訥々と語り始めた―――。
ダビデが自らの罪を告白します。
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