第12話 新しい家族 前編
前回のあらすじ
バルトがダビデの舎弟になった
アビーと共に一階のロビーへと戻ってくる。
その間に、バルトの身元引き受けはまだ先になると説明された。
僕は地下へと続く階段を昇り切ったところでアビーと別れ、ソロモンの方へと向かう。
ソロモンはというと、テーブルに座って色とりどりのスイーツをもっきゅもっきゅと美味しそうに頬張っていた。
スイーツを食べて機嫌が良いのか、足をぷらぷらと振っていた。
ソロモンの面倒を見てくれていた女性冒険者達はというと、そんなソロモンの様子に骨抜きされているようだった。
みんながみんな、ソロモンに甲斐甲斐しく世話を焼いている。
ソロモンもソロモンで、なすがままにされている。
「ソロモン」
僕が名前を呼ぶと、ソロモンはこっちを振り向く。
そして笑顔を浮かべると、椅子から飛び降りて僕の方へと駆け寄ってくる。
その勢いのまま僕に抱き着いてきて、僕はなんとか足を踏ん張ってソロモンの身体を受け止める。
「パパ、用事は終わったの?」
「うん。それじゃあ帰ろうか、ソロモン」
「うん!」
僕がそう言うと、ソロモンは笑顔で頷く。
そして娘の手を取り、面倒を見てくれていた女性冒険者のパーティーにお礼を言う。
「娘の面倒見てくれてありがとう。これは借りにしておくから、何か困ったことがあったら……」
「いえいえ、そんな!? 『魔王』に貸しを作るとか、私達の心臓が保たないですよ! 貸し借りとか、本当に結構ですから!」
パーティーのリーダー格の女性冒険者が、わたわたと慌てふためいた様子で必死に抗弁してくる。
他のメンバーの方に目を向けると、リーダーの言葉に同意するようにコクコクと何度も首を縦に振っている。
「そっか……みんながそれでいいならそれでいいけど……ん?」
するとソロモンが、クイクイッと僕の腕を引いていた。
娘の方に目を向けると、ソロモンは何かを懇願するような眼差しで僕の顔を見上げてくる。
「ねえパパ。またこのお姉さん達と一緒に遊んでもいい?」
「「「「「「!!??」」」」」」
ソロモンの言葉に、六人の女性冒険者達は驚いた様子だった。
彼女達の方に目を向けると、十二の瞳が何かを期待するように僕の方を見てくる。
……まあ、ソロモンの今後を考えれば、彼女達と交流を持つことはマイナスにはならないだろう。
同性の先輩冒険者、それが女性ともなれば、その存在はとても貴重だからだ。
だから僕の選択肢には、「はい」か「イエス」の二択しかなかった。
「……うん、いいよ」
「「「やったー!!」」」
僕の言葉に、ソロモンだけでなく女性冒険者達も諸手を挙げて喜びを露にした―――。
◇◇◇◇◇
一週間後。
ぼくはパパと、今日のために里の中へと入れたパパの従魔のグリフと一緒に、ヒルデのいる孤児院へと向かっていた。
グリフの体には、ヒルデの荷物を運ぶ用のリアカーが繋がれている。
パパとグリフと一緒に通りを歩いていると、先週仲良くなった冒険者のお姉さん達とすれ違った。
お姉さん達はぼくに気付いて、手をひらひらと振ってくる。
ぼくも手をひらひらと振り返すと、お姉さん達はニッコリと笑って通り過ぎて行った。
そんなことがあったこと以外は特に何もなく、孤児院の前へとやって来た。
門のところには、ヒルデの姿があった。
「ソラちゃん、ダビデさん!」
「ヒルデ!」
「やあ、ヒルデちゃん。迎えに来たよ」
ヒルデはぼく達の方に近付いてくると、ぼくの手を握ってその場でぴょんぴょんと跳び跳ねる。
ヒルデは今日が来るのがとても楽しみだったみたいだ。
ぼくもヒルデと一緒に暮らせるのが楽しみで、昨日はあまり眠れなかった。
すると建物の方から、院長先生がやって来た。
「こんにちは、ソロモンちゃん、ダビデさん」
「こんにちは!」
「こんにちは。ヒルデちゃんの迎えに来ました」
ぼくとパパはお互いに、院長先生に挨拶をする。
それから、ヒルデの荷物をリアカーに積んでいく。
ヒルデの荷物は意外と少なかった。
服が入っていると思われる袋が二つと、本とか趣味の物が入ってる箱が一つだけだった。
……これなら別にリアカーなんて必要なかったんじゃ?
そんなことを思っていると、パパがヒルデに向かって言う。
「……よし。それじゃあこれから、ヒルデちゃん用の家具を買いに行こうか」
「え?」
パパの言葉に、ヒルデは驚いている様子だった。
そんなヒルデに構わずに、パパは続ける。
「自分で使う家具くらい、自分で選びたいでしょ? だからこれから買いに行くのさ」
「え、いいんですか!?」
「うん。ヒルデちゃんも今日からウチの娘だからね。遠慮することはないよ」
「あ……はい! 今日からお世話になります!」
ヒルデはそう言うと、パパに向かってペコリと頭を下げる。
そしてヒルデを加えて、ヒルデ用の家具を買いに大通りにある商店街へと向かった―――。
ヒルデがメラスレ家の新しい一員となりました。
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