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第10話 弟子入り 後編

前回のあらすじ

ヒルデはソロモンの従魔になりたい

 

「……したい、かな。別にヒルデを従えられなくても、ヒルデと一緒に冒険者にはなりたい」


 パパの目を真っ直ぐ見つめて、ぼくはそう答える。


「そっか……まあでも、出来るかどうかは今は分からないけど、ヒルデちゃんを従魔にするのは二人が成人して、ソロモンが魔物使いになってからだね」

「そんなに待たないといけないの?」

「うん。本契約はちゃんと魔物使いにならないと出来ないからね。仮契約はソロモンの年でも出来なくはないけど……」

「ホンケーヤク? カリケーヤク?」


 知らない言葉を聞いて、ぼくは首を傾げる。

 するとパパは苦笑いして、ぼくの頭に手を置く。


「ごめんごめん。魔物使いのアレコレは、用事が終わったらゆっくりと教えてあげるよ」

「ホントに?」

「うん、本当だ」


 パパはそう言うと、ぼくの頭をそのまま撫でる。

 なすがままにされていると、院長先生が口を開く。


「……あ。でしたら、ヒルデちゃんと一緒に暮らすのはどうでしょう?」




 ◇◇◇◇◇




「……はい?」


 僕は耳を疑った。

 聞き間違いじゃなければ、イリスさんはヒルデちゃんと一緒に暮らしたらどうか? って言ったような……。


「あの……すみません。もう一度仰っていただけませんか?」

「ヒルデちゃんと一緒に暮らすのはどうでしょう?」


 イリスさんは両手を揃え、にこやかな笑みを浮かべながらそう言う。

 聞き間違いじゃないようだ。


「え〜っと……何故そのようなことを?」

「いずれ一緒に冒険者になるのでしたら、一緒に暮らすことで絆が深まると思ったからですけど……二人は今でもすごく仲が良いので、必要ないかもしれませんね」

「あ〜……確かに……」


 イリスさんの言うことは確かに一理あった。

 ソロ活動がメインだった僕とは縁の無かった話だけど、プライベートも一緒にいることで固い絆で結ばれたパーティーというモノを僕は何組か目にしたことがある。


 たまに男女関係でパーティーが滅茶苦茶になった例もあるけど、ソロモンもヒルデちゃんも女の子同士だからそんな事態にはならないだろう。


 と、なると……メリットしかないように思――。


「……?」


 視線を感じてソロモン達の方に顔を戻すと、ソロモンとヒルデちゃんがすっごくキラキラとした目で僕を見上げていた。

 二人の考えがなんとなく分かりつつも、僕はあえて二人に尋ねる。


「え〜っと……何、二人共?」

「パパ。ぼく、ヒルデと一緒に暮らしたい。お願い」

「ダビデさん。私、ソラちゃんと一緒に暮らしたいです。お願いします」


 二人は祈るように両手を組み、キラキラとした目を真っ直ぐに向けてくる。

 う〜ん、と腕を組みながら天を仰ぎ、僕は逡巡する……フリをする。


「……分かった。二人がそこまで言うなら、僕はそれを認めるよ」

「「わあい!!」」


 僕がそう告げると、ソロモンとヒルデちゃんは互いの手を取り合って喜び合った―――。




 ◇◇◇◇◇




 ヒルデちゃんも引っ越し(って言っていいのか?)の準備やら、孤児院の友達とお別れするのに時間が掛かるだろうと思って、彼女を我が家に招き入れるのは来週にすることにした。


 僕の方も、ヒルデちゃんの身請けの手続きでもう一度孤児院に伺うことになっていた。

 書類上だけど、ヒルデちゃんは僕の養女となって、ソロモンとは義理の従姉妹で幼馴染とか言う、非常にややこしい関係へと変化する。

 だけど二人の前では、そんな事実など全て些事だろう。




 時間もいい感じに潰せたので、僕はソロモンと共に孤児院を後にする。

 そして当初の予定通り、冒険者ギルドの建物へと向かう。


 ソロモンと一緒に中に入ると、朝のピークは過ぎたようで閑散としていた。

 中にいるのは、今日はクエストは受けないと決めて朝っぱらから酒を呷っている冒険者や、次はどんなクエストを受けるか話し合っているパーティーくらいだった。


 そんな彼らが座るテーブルの合間を通り過ぎ、受付カウンターへと向かう。

 そしてカウンターまでやって来て、アビーを呼ぶ。


「すみません。アビーって今います?」

「あ……はい! 少々お待ちください!」


 カウンターに詰めていた受付嬢はそう言うと、奥に引っ込んでいく。

 そして五分後、その受付嬢と共にアビーがやって来た。


「お待たせしました、ダビデさん。それで本日はどのようなご用件で?」

「ああ、うん。弟子を取ることにしたから、その手続きに」

「えっ!? ダビデさん、弟子を取るんですか!?」


 そう用件を伝えると、アビーは大袈裟過ぎるほどに驚愕する。

 その声はギルド内に響き、この場にいた冒険者達の視線が僕に集まるのを背中越しに感じる。

 その視線をあえて無視して、僕は続ける。


「えっと……うん」

「それでその、お弟子さんはどなた何ですか!?」


 何かテンションが高いアビーの質問に、僕は横にいるソロモンの頭をポンポンと叩きながら答える。


「僕の娘のソロモンだよ。娘たっての希望で、娘を僕の弟子にすることにした」

「ソ……ソロモンですっ!」


 ソロモンはやや緊張気味に、ペコリとアビーにお辞儀をする。

 その仕草に、アビーの心は撃ち抜かれたかのように大袈裟に仰け反る。


「か、可愛い……」

「そうだろう。僕の自慢の愛娘だからね」


 見ると、ソロモンは羞恥からか耳まで真っ赤にして顔を俯けている。

 その反応に、アビーは完全に骨抜きされたようだ。


「はぅっ……お持ち帰りしたい……」

「駄目だからね。それより、手続きの方を……」

「そっ!? そうでしたね!?」


 アビーは上擦った声でそう言い、気を取り直してから書類を何枚か僕の方に手渡してくる。

 それに必要事項を記入していく。


 ソロモン本人にも記入してもらうところがあって、ソロモンの身長がちょうどカウンターと同じ高さだから、小さめの木箱を踏み台にして書きやすい高さにしてあげる。


 そして全て記入し終わり、アビーに渡す。

 彼女はそれらに素早く目を通す。


「…………はい。記入漏れはないみたいですね。これで正式にソロモンちゃんはダビデさんの弟子になりました。……ソロモンちゃん。ダビデさんの下で魔物使いとしての修行、頑張ってくださいね」

「はい! 頑張ります!」


 アビーの激励に、ソロモンは元気よくそう答える。


 こうして、ソロモンは僕の弟子となった―――。






未婚なのに娘が二人になったダビデ。




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