第9話 弟子入り 中編
前回のあらすじ
ソロモンがダビデに弟子入りした
ヒルデちゃんに腕を引かれて建物の中に入ると、老年の女性と鉢合わせた。
「あ、院長先生! こんにちは!」
するとソロモンが、その老婆に向かって元気良く挨拶する。
ヒルデちゃんとよく遊ぶ関係で、彼女とも面識があるようだ。
院長先生、と呼ばれたその老婆は、柔らかい笑みを浮かべる。
「はい、こんにちは、ソロモンちゃん。それと……こちらの男性は?」
老婆が僕の方に顔を向けてきたので、僕も彼女に挨拶をする。
「ソロモンの父のダビデです。娘がこちらでお世話になっているようで……」
「これはご丁寧にどうも。私はこの孤児院の院長を務めているイリス、と申します」
老婆―イリスさんはそう言うと、深々とお辞儀をしてくる。
僕も彼女に倣い、お辞儀し返す。
「ソロモン。ヒルデちゃんと少し遊んで来たら? 別に急ぐ用事でもないし」
「いいの?」
「うん」
そう返事をすると、ヒルデちゃんが僕の腕から離れ、ソロモンの手を取る。
「行こう、ソラちゃん!」
「うん!」
二人はそう言うと、きゃっきゃとはしゃぎながら庭の方へと駆け出して行く。
そんな二人に、イリスさんは暖かい眼差しを向けていた。
「やっぱり子供は元気でいることが一番ですね」
「そうですね。僕もそう思いますよ」
「……失礼ですけど、ダビデさんは何のお仕事をされていて?」
「冒険者やってます」
「そうなんですか? 私も昔冒険者をやっていた時期があるんですよ」
「え? 本当ですか?」
僕は耳を疑った。
物腰の柔らかいイリスさんの雰囲気と、荒っぽいことが多い冒険者という職業が全く結び付かなかった。
むしろ違和感しかない。
そんな感想が顔に出ていたのか、イリスさんはふふっと目を細める。
「私がそう言うと、みんなダビデさんみたいな反応をするんですよ。そんなに意外ですか?」
「え、ええ……こう言ってはなんですけど、イリスさんの雰囲気と冒険者っていう言葉が上手く結び付かなくて」
「これでも若い頃はちょっと有名だったんですけどね……時の流れには逆らえませんか」
イリスさんの過去はちょっと気になったけど、そこはあえて聞かずに話題を変える。
「ところで、この孤児院はいつ頃から?」
「私が冒険者を引退したのとほぼ同時期、ですかね。冒険者として稼いだお金でここを建てました。それからは、貯金を切り崩したり、弟子の仕送りでなんとかやっていけてます」
「弟子がいるんですか」
「ええ。今も元気に何処かで活躍してるんじゃないですかね?」
そう語るイリスさんの顔は、弟子に対する慈愛の心が浮かんでいた。
さらに会話を続けようとすると、ソロモンとヒルデちゃんがこっちに戻って来た―――。
◇◇◇◇◇
パパと別れ、ヒルデに腕を引かれて庭へと走っていく。
「ねえ、ソラちゃん。ダビデさんと何処に行くところだったの?」
その途中、ヒルデがそう聞いてきたので、ぼくは無い胸を若干張って答える。
……年的に、そろそろ胸が膨らみ始めてもいいのに、その気配はまったく感じられない。
ヒルデは膨らみ始めているのに……羨ましい。
「冒険者ギルドだよ」
「何で?」
「パパに弟子入りしたから」
「ダビデさんの弟子? ……ってことは、ソラちゃん。冒険者になるの?」
「うん。そのつもりだよ」
そう答えると、ヒルデはぼくから手を離して腕を組み、何か考え事をする。
「……ジョブは何にするの?」
「パパと同じ魔物使いだよ」
「魔物使いって……魔族も従えられるのかな?」
ヒルデがなんでそんなことを聞いてきたのか分からない。
でも、その質問に答えられる人がぼく達のすぐ傍にいた。
「分かんないけど、パパなら知ってると思うよ?」
「それなら、聞いてみよう!」
ヒルデはそう言うと、またぼくの手を引いてパパのところへと走っていく。
パパは院長先生と何か喋っていたけど、ぼく達の気配に気付いたみたいでこっちに目を向ける。
「どうしたの、二人共?」
「あの……ダビデさんに、聞きたいことがあるんですけど……」
パパの質問に、ヒルデが深呼吸を繰り返しながら答える。
「聞きたいこと?」
「はい。魔物使いって、魔族も従えられるんですか?」
「魔族も? まあ……まったく駄目ってことはないけど、魔族を従魔に……えっと、従えることはすごく難しいんだ」
「そうですか……」
パパの説明を聞いて、ヒルデはしょんぼりと肩を落とす。
気の毒かと思ったのか、パパが頭を掻きながらヒルデに尋ねる。
「あ〜っと……なんでそんなことを質問してきたの?」
「えっと……ソラちゃんがダビデさんに弟子入りしたって聞いて、ソラちゃんも魔物使いになるって言って、それなら私をソラちゃんの……その……」
「従魔?」
「それです! その、従魔? っていうのになりたいなあ……って思って……」
「そっか……ソロモンは?」
「え?」
すると、パパがぼくの方を向いて尋ねてくる。
「ソロモンは、ヒルデちゃんを自分の従魔にしたいと思う?」
その質問に、ぼくは―――。
ソロモンの選択は……。
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