2.
目を開けると知っている天井で……………えっ?私生きてるの?
苦しさが尋常ではなかったから死んだと思ったけど……。
あれ………何かがおかしい。
あんなに手足が動かなかったのに今は身体がとても軽い。
むくりと起き上がり身体を動かしてみる。
あれれ?動いてる私。夢見てるのかな?
キョロキョロと部屋を見回すが変わったところはない。
「あっ、レティア皇女様お目覚めですね。ご気分はいかがですか?」
にっこりと微笑んでベッドに駆け寄ってきたのは私の専属侍女のニチェだ。
「ニチェ、私動けるの。」
「はい。レティア皇女様は昨日も短時間でしたがお庭を散策されておりましたよ。」
キョトンとした顔をして私へ返事を返すニチェ。
昨日?どういうこと?
私は部屋も出れず血を吐くことしかしてなかったはず。
最後部屋を出たのはカインデット様にお会いした日だった。
「ねぇ、鏡持ってきてくれる?」
「はい。こちらをどうぞ。」
鏡に写った私は頬も痩せこけてなくまだしっかり食べれてる時の顔だ。
これ夢なの?
「ニチェ、私一日何回血を吐いてるの?」
「えっ?レティア皇女様、血を吐かれたのですか?」
私の言葉を聞いてニチェの顔が青ざめていく。
お芝居をしているようには見えない。
と言うことは死ぬ間際願ったことでもう一度やり直してるってこと?
ちょっと待って……………頭がついていかない。
「不安にさせてごめんなさい。血は吐いてないわ。ふふ。」
「もうレティア皇女様、心臓に悪い冗談はやめてください。」
口を尖らせて安堵しているニチェは、血を何度も吐いて弱っていく私を献身に支えてくれた私にとっては信用できて安心できる存在。
「それよりも今から支度しますね。今日は建国記念日のパーティーです。レティア皇女様は座って出席致しますが、無理なときはその場で退席するように国王陛下より仰せつかっております。」
…………夢ではないみたいね。
このパーティーは覚えてる。私が出席できた最後のパーティーだ。
私も最後は意識が朦朧としてたから正確な日にちはわからないけど、一年半前後くらい前に戻ってるみたい。
それにしても……………次の人生もまた病弱の私をやり直しってことか。
せっかく前の自分に戻れたのだから、叶えたいことを実行しよう。
どうせ先は長くないとわかってるんだから………………………。
「ニチェ、パーティーの前にお父様にお会いしたいの。その事を伝えてきてもらえるかしら。」
「国王陛下にですか??わかりました。レティア皇女様からお会いしたいとは……国王陛下はお喜びになりますね。では、少しばかり外します。」
笑顔でニチェは伝言を伝えに行った。
すぐ行動してくれるところがニチェの良いところだ。
ニチェが喜ぶのもわかる。私は自分のことで必死でお父様に必要以上に関わらないようにしていたから。
ううん、お父様にもお母様にも姉や妹にも誰一人と関わろうとしなかった。
病と戦って………独自に完治する方法を探していた私は心身共に限界だった。
無意識に……………私がいなくなった後、思い出してもらえなかったら…と怖かったのかもしれない。
「レティア皇女様、今戻りました。国王陛下の側近の方にご伝言したところ戻ってくるときに追いかけてきて国王陛下が今すぐ来るそうです。」
「えっ?今すぐ?ここに来られるの?」
「はい。国王陛下はとても嬉しかったのでしょうね。忙しいなか即来られるとはレティア皇女様大事にされてますね。」
お父様にそんな一面もあったなんて…………私が見えてなかっただけなのかもしれない。
「大事な娘だよ。体調はどうだ?」
声の聞こえた方を振り向くとお父様とお父様の側近であるブキエルが立っていた。
本当に早く来てくれたみたいだ。
「お父様、来てくださりありがとうございます。ふふ。体調はとてもよい気分です。お父様こちらにどうぞ。」
部屋のソファーに座ってもらい向かい側に私も座る。
「お願いがあるのです。」
「レティアがお願い事とは珍しいな。言ってみなさい。」
「スピアお姉様にもカルティナにも婚約者がもういます。私にも婚約者が欲しいんです。それに婚約したい人がいます。」
婚約したいもしくは婚約したい人がいると聞いてなのかお父様は目を見開いて私を見る。
私が真剣な顔をしているのがわかってお父様も真顔になり、私の真剣さが伝わったのだろう。
「わかった。願いを聞き入れよう。で、婚約したい人は誰かな?」
「はい、魔法使いのカインデット・シュリーム様です。」
「カインデットか。レティアと接点はあったとは思えんが?」
「ふふ。私が密かにお慕いしていただけですわ。」
私がにっこり笑って話してるのが珍しいのかお父様がまたも目を見開いて私を見ている。
「レティアが幸せそうに笑った姿を見たのは久し振りだね。いつも側にいてあげられなくてすまない。」
「何を言っているのですか。私は今の生活に不満はありません。身体が弱いせいで公務ができないのに衣食住不自由なく過ごせて感謝でいっぱいです。それなのに婚約も許可いただいて胸いっぱいです。ありがとうお父様。」
「まさかレティアが婚約者が欲しいとは思ってもいなかった。」
「ふふ。身体の弱い私をカインデット様が受け入れてくれるかわかりませんが………私がいなくなったときカインデット様には婚約解消をしていただきますので安心して受け入れていただけると思いますわ。」
私は満面の笑顔だが、お父様にニチェとブキエルは私の話を聞いて硬直している。
「レティア…………。」
「お父様そんな顔をしないでください。お父様もそれがわかっていたから私に婚約者をつけなかったのでしょう。」
「…………………………。」
部屋にいる私以外の人は何も言えなくなって黙っている。
「私はお慕いしているカインデット様の婚約者になれるだけで幸せですわ。だから、そんな顔しないでくださいね。」
三人を見渡して私は伝えた。
三人とも気まずそうにしている。心が傷つかないといえば嘘になるが、今の私にはそんなことである。
婚約してもいいと許可を頂けたことだけが嬉しい。
「………………レティア、今日のパーティーで早速カインデット・シュリームとの婚約発表をしよう。カインデットには私から伝えよう。」
「ありがとうございます、お父様。」
私の幸せそうな顔を見てもお父様は複雑な顔をしている。
図星をつかれたからなのか私の身体を思ってなのかわからないが、今私はこの約束だけが生きる糧になるのは間違いない。
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パーティーの前に私の部屋に訪れたのはカインデット様だった。
お父様に婚約のことを聞かれたのだろう。
高鳴る心臓を落ち着かせ、招き入れソファーへ案内する。
「初めましてカインデット様。突然お父様からお聞きになったと思いますが了承してくださいますか?」
「…………初めましてレティア皇女様。突然ではありましたが私なんかでよろしければお受け致します。」
カインデット様が受け入れてくれてホッとする。
本人を目の前にして言うのは辛いが、ここはしっかりと伝えなければならない。
「嬉しいです。カインデット様了承していただいてありがとうございます。私の噂はお聞きですか?」
「お噂ですか……………身体が弱いとだけ………。」
「はい。その通りです。お父様から話しは聞いてるかもしれませんが、私は身体が弱く公務もこなすことが出来ません。今は立って歩くことも可能ですが………いずれ一人では歩けなくなるでしょう。この先私は長くないです。」
カインデット様は目を見開きそして複雑な顔をした。
ごめんなさい。重い話で…………でもこれはきちんと伝えたい。
「カインデット様は好きな方がいますか?」
驚いた顔をして………その方を考えてたのか頬を赤らめた。
カインデット様は正直な方ですね。
私も好きだから心が痛い………私のことだとどんなに幸せなことか…………でもよかった想い人がいるのなら私がいなくなっても幸せになってもらえるから。
「ふふ。カインデット様に想われてる方は幸せですね。羨ましいですわ。でもよかった…………私がいなくなったら婚約破棄をしてその方に想いを告げられてください。私からカインデット様を婚約者にとお父様に言いましたから皇女と国王から言われればとても断れないことは皆さんわかっているはずです。それを利用して構いませんわ。私はカインデット様には幸せになってほしいのです。」
にっこり微笑んで伝えたが心は痛かった。
私だけを愛してくださいなんて…これから先、私がいなくなることを考えるととても言えない。
本当に心から幸せになってほしい。相手が私じゃないのは残念だけど。
「レティア皇女様は何故私を婚約者に選んだのですか?」
「それは………………お恥ずかしいですが、この私の部屋からはお庭が見えるんです。体調が良いときがあまりないため部屋から出れずに一日過ごすことが多々あります。窓からカインデット様がよく読書をされているのを眺めてました。ごめんなさい。」
「そうだったのですね。誰もいないと寛いでました。」
ふふ。同じ事を仰るのね。
「窓からカインデット様を眺めていると心が温かくなるのです。気付いたときには好きになっていました。スピアお姉様やカルティナにも婚約者がいますが私にはいませんでした。私は先が短いことを悟っているため、お父様も私には婚約者を決めなかったのだと思います。でも、私は短いからこそ好きな人との思い出が欲しいです。私の欲のためにカインデット様を巻き込んでしまいすみません。よろしければ想い人には私からも手紙など残せますので、いつでも言ってください。短い間になりますが婚約者としていてください。」
「レティア皇女様が私を好きとは思いませんでした。お気持ちありがとうございます。今の話を聞いてますます婚約者としてレティア皇女様を支えたいです。」
カインデット様がうっすら頬を赤くして私に微笑んでくれた。
私の我儘に付き合ってくれてありがとう。