表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/3

1.

ゴホッゴホッ……………………。

黄色いドレスの胸元が真っ赤に染まる。

すかさず側にいた侍女のニチェが血相を変えてハンカチを渡してくれる。


「ありがとう…………ゴホッ………。」


咳をするたびに血を吐いて息が苦しくなる。毎日毎日症状は同じだが、少しずつ咳の頻度が増えていっている気がする。

そう、血を吐く回数が増えてるってことだ。

私が何をしたっていうの?

このままでは本当に死んでしまう。

探さなきゃ、一刻も早く何でもいい。この病に効く薬を。


体が思うように動かないため、ニチェに頼んで医療などの本を持ってきてもらう。

医学はわからないが、自分の病が少しでも押さえられるなら………と読み始めた。

薬を色々と試してはいるがなかなか合うものがなく副作用で苦しかったこともあった。

それでも希望を持って別の薬を試してしまう。


「はぁ………見つからない…………。ゴホッ………神様は私を見捨てたの………ゴホゴホッ。」


口を押さえてた手に大量の血がつく。

ボロボロと涙が溢れてくる。

小さい頃からいろんな事を治るために我慢した。

でも結局、今も治らず病と戦ってる。

はぁ……………この血の量からして私は長くないだろう。


手の血を拭きまた本を読み始める。

ん?これは何だろう………今まで何十冊も医学書を読んできたが見たこともない薬草だ。

今まで色々な薬を試しても症状は重くなるばかり。

皇室専属のお医者様も手を尽くしたと………投げやりではないが前ほど熱心に取り組んでくれていないようにも感じる。

…………私がもう長くないことを悟ってるのかもしれない。

今は完治は望んでない。せめて進行が遅くなったりもっと好きな人を見ていたい。


私が生まれた環境は皇女だが、お姉さまと妹がいるから私はいなくなってしまっても王室は大丈夫だ。

というより、小さい頃から体が弱かった私には誰も期待はしてないだろう。

お姉さま…………それに、妹も婚約者がいるというのに私だけは婚約者もいないため、いずれいなくなることを想定されているのだろう。

まぁ……そうだろう。私とだと婚約者が可哀想だ。

毎日動けない上に血を吐いて弱っていく………誰にも辛い思いはさせたくないな。

だからいなくてよかったと思ってるけど………心残りはあの方へ想いを告げられなかったこと。


私の部屋の窓から見える中庭のベンチに座ってよく読書をしている魔法使いのカインデット。

どうしても近くで見てみたくて体調がよく歩けるときに………ニチェに支えられながら連れていってもらったことがある。


近くで見ると眺めてるときとは違って銀の髪は太陽の光があたってキラキラと輝いて、真っ赤な目がとても綺麗だった。


「はっ………初めまして。私は皇女のレティアです。少しだけお話ししてもいいですか?」


ニチェに支えられながら力を振り絞って声を掛けた。

どうか、今だけは血をはきませんように。


「もちろんです。レティア皇女様。皇室専属魔法使いのカインデットと申します。こちらにお座り下さい。」


立ち上がって今座っていた場所へ誘導してくれる。


「カインデット様、ありがとうございます。」


座って侍女を少し離れたところに下がらせ、カインデットに話しかけた。


「読書をしてらしたのにお邪魔してしまいすみません。」


「いやいや、本はいつでも読めますから。レティア皇女様とお話しできることを光栄に思います。」


にっこりと笑ってくれて笑顔にどきんと胸が高まる。

私に笑顔を向けてくれている。いつも上から眺めるだけだったカインデット様が目の前で……………ポロリと涙が出てきた。


「レティア皇女様、大丈夫ですか?」


涙を見て慌てたカインデット様が私を除きこむ。

真っ赤な赤い目が近くで私を見つめてる。それだけでもう幸せいっぱいだ。


「嬉しくて………ただカインデット様とお話できて嬉しいんです。ありがとうございます。」


感謝の気持ちをしっかりと伝える。

私の身体の状況からしてこんなチャンスはもう来ないだろうとわかっているから。

あまり長くはいられない。


目が赤ければ赤いほど魔力が強いことを示している。

カインデット様は真っ赤な目をしている。今国内にいる魔法使いの中で一番と評価されているのを知っているが、それを妬んでいる者もいるようで……だからかよくこのベンチに一人でいるのかなぁ~と想像していた。


「カインデット様は素晴らしい人ですわ。自分を信じこれからも国民のためによろしくお願いします。」


にっこり微笑んで伝えるとカインデット様が目を見開いて私を見ていた。


「レティア皇女様からそのような嬉しい言葉を頂けるとは光栄でございます。」


「ふふ。カインデット様もそのように照れられるのですね。」


頬を赤らめて照れているカインデット様は見た目とは違って幼く見える。

こんな表情を見れただけでももう思い残すことはない。


「レティア皇女様お止めください。あまり誉められることに慣れていないのです。ここでお逢いしたのも何かの縁です。何かお望みがあれば言ってください。」


「では………いつも読まれている本を一冊今度お借しください。カインデット様が読まれているものを読んでみたいのです。」


「いつも……………。」


バレてしまった。なんて迂闊だったの私。

ストーカーのように見てましたなんて………。


「申し訳ございません。実はここは私の部屋から見える場所なのです。いつも見ていたなんて気分を害されましたよね……もう見ないようにしますのでまたここで寛いでください。」


終わった………初対面でストーカー宣言をしてしまった。

知らない人からいつも見られてたら気持ち悪いはずだ。


「ははっ。誰もいないと思い寛いでおりました。お恥ずかしい格好をお見せしてたのですね。ただ本を読んでただけですので気にされないでください。もしよかったら今度はお声かけしてくださると嬉しいです。」


なんと心の広いお方だ。

ストーカーを了承してくださってしかも声をかけていいといってくださって…………私もう幸せです。


「ありがとうございます。スト………いいえこんな私を受け入れてくださって。今度はお声かけしますね。」


その日は来ないだろうと思ってても希望を持ってしまう。

カインデット様には幸せになってほしい。


「レティア皇女様、私は晴れた日はここでよく読書をしておりますので、いつでもお越しください。」


「…………………ありがとう。お話できて嬉しかったですわ。カインデット様の婚約者の方は幸せ者ですね。こんなに素敵な方と一緒にいれるのですから。」


「レティア皇女様、誉めすぎですよ。それに私には婚約者はいません。この赤い目を怖がり遠巻きに見られることはありますが………ははっ。」


カインデット様が少し寂しそうに話してるように見えた。

みんな見る目ないのね。こんなにも心が綺麗なのに。


「ほら、この銀色の髪は太陽の光でキラキラに光って眩しいわ。真っ赤な目も情熱的で今の潤んだ瞳は宝石のように煌めいてとっても綺麗ですわ。こんなに素敵なのに皆さんどこに目をつけてるのかしら。」


私は見上げてカインデット様の顔を見ながら話した。

カインデット様は顔を真っ赤にし動揺しながら私を見ている。


………………………限界かな。

だんだんと辛くなってきた。まだ話したいのに………身体は正直だ。


「ゴホゴホッ………………。」


手で押さえたけど血を吐いたことがバレてしまった。

カインデット様はすぐにハンカチを渡してくれて大丈夫ですか?と言って心配そうに見ている。


「ふふ。大丈夫ですわ。お見苦しいところをお見せしてごめんなさい。今日はもう戻りますね。また………………会いに来ますわ。」


血を吐いた私のことは忘れてほしくて今できる最高の笑顔でカインデット様を見た。

最後の言葉は言うつもりなかった……が気持ちに嘘はつけなかった。





―――――――――――――――――――――――

――――――――――――――――

―――――――





苦しい…………今日は起きて何度血を吐いたんだろう。

カインデット様とはあれ以来会っていない。

あの日以降からどんどん悪化してきて今は部屋の窓側に行くことすら出来ずずっとベッドの上にいる。


今どうしているんだろう。

晴れてた日は特に願いながら一日過ごしてしまう。

身体が動きますように…………少しでもいいから外に出れる力が欲しいと。

無情にも悪化するばかりで部屋の中でももう動くことができない。

本を読むことすら出来なくなっている。

瞳を閉じればあの日のことが鮮明に頭に浮かぶ。

カインデット様の声、仕草、キラキラ輝く髪に真っ赤で綺麗な瞳。それにとても素敵な人だった。

あんな人にはもう巡り会えないだろうな。


瞳から涙が溢れてくる。

カインデット様をもっと見ていたかった。

一度しかお話しできなかったけど私にとって最高の時間でした。

約束の本をお借りできなかったことは心残りです。

カインデット様を想ってくれる素敵な女性と幸せになってください。

あなたの幸せを心より願っています。

そして………私のことを………体が弱かった皇女もいたなとだけでも心に残してくれていると嬉しい。

私にとっては一生分の思い出だったから。


……………身体が重い。

指を動かすことさえ出来ない。

あぁ、本当にこのまま終わってしまうのね…。

この病気で体が弱くて何もできなかったな。

せめて人並みに動きたかった。


唯一私の人生で最高の思い出ができたこと。これは誇りに思うわ。


私の人生、環境には恵まれたけど…寂しかったな。

好きな人に好きと言えなかった……。

大好きだった……ただ見つめることしかできなかった人生。


次の人生では思いを告げられる自分でいたいな。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ