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短編(シリアス)

もう少しだけ待っていて

作者: 鞠目

 毎朝6時に起きる。起きた後は5分間ストレッチ。その後パジャマのままスマホでメールとニュースをチェック。


 6時20分までに歯磨きと洗顔を行い、フロアモップで床掃除をする。床の掃除が終わればブラックコーヒーとヨーグルト、ドライフルーツの朝食を取る。朝食を食べ始めるのが6時35分。


 6時50分に朝食の食器を片付けて化粧をする。化粧をしながらその日のコーデを決める。もちろん服だけでなくアクセや鞄、靴も決める。


 着替え、持ち物の準備を完了させて7時30分ぴったりに家を出る。このルーティンを私は2年間続けている。もちろん、ルーティンは朝だけではない。料理や家事、寝る前にも同じように分刻みのルーティンがあり、それも2年間続けている。最初はなかなか覚えられなかったけれど、今では体に染みついている。1分も遅れる事はない。






 SNSであなたの投稿を見る。あ、新しい化粧品を買ったんだ。ちょうどそんなタイミングだと思っていたから意外でもなんでもない。買った商品が私が買うだろうと予想していたものと同じブランド、同じ商品だったので安心する。もちろん私も既に購入済みだしなんなら今日少し使ってみた。手鏡を見る。うん、肌によくなじんでる。


 道を歩く人たちがすれ違い様に私に振り向く。たまに「今すれ違ったのって……」と囁き合ってるのが聞こえる。そんな時私はすごく気分が良くなる。


 服を買いに行く。行く店は決まっている。もちろん商品も。事前にリサーチ済みなので迷う事はない。あなたが買うであろう商品をあなたのお気に入りのブランドショップで買い揃えていく。毎シーズンなかなかの出費だ。でもここ2、3カ月でかなり精度が上がってきていて正解率は高い。無駄な出費が減ってきているので満足している。


 お昼に最近話題のカフェでランチをする。ここは昨日あなたが写真をSNSに上げていた。1週間以内には行くだろうと思っていたのでやっぱりなと思った。あなたが食べたものと同じメニューを注文し同じように写真を撮る。


 ランチ中私を見た女の子二人組が「マスクをしていた時は本人かと思ったけど似た人だったね」と話しているのが聞こえた。私は聞こえないフリをした。






 ああ、本当にごめんなさい。もう少し待っていてほしい。マスクをした状態ならほとんど誰にもバレないレベルまできたの。後は鼻と口だけなの。


 あなたが上げた動画はもう目が腐るんじゃないかってほど何度も見たわ。おかげであなたのルーティンは全て覚えている。声だってばっちり。東北のちょっとした訛りだって再現できる。もちろん仕草も。


 あなたの顔を見ればわかる。あなたはこの世界に嫌気がさしている。そんな事ないと言う人がいるかもしれないけれど私にはわかるの。だって私はあなたを守るべき存在であり、あなたは私に守られるべき存在だから。


 だからもう少し待っていて。私があなたを幸せにしてあげる。私があなたになる事であなたを自由にしてあげる。私があなたとして生きるから、あなたはもうこの世界に縛られなくていいの。


 あなたが考える事はもう大体わかってる。だから安心してほしい。問題なんて一つもないわ。私があなたになっても誰も気付かない。だって私はあなたになれる唯一の存在なんだもの。

 私が守ってあげるから、あなたは私の中にいればいいの。もうこの世界で傷つく必要なんてないわ。






 私はあなたになるために整形の予約を入れた。これは全てあなたのため。あなたをこの世界から救うため。






 だから私の整形が終わるまでもう少し待っていて。必ず迎えに行くから。

挿絵(By みてみん)

イラストはみこと。さまからいただきました

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― 新着の感想 ―
[一言] 怖かったです〜。 ある日突然ドッペルゲンガーみたいな女が現れて 「わかっているのよ。この世に嫌気がさしてるでしょう?でももう大丈夫」とか言って刺されたりしたら……。 そんなことまで考えてしま…
[良い点] 全く別の作品でしょうが、まるで『深夜に見るマネキンほど怖いものはない』のマネキン視点のような作品だと思いました。読む順番が逆だったら、また見え方が違ったんだろうなぁと思います。純文学……で…
[良い点] これは、本人の知らないところで起こっていることなのですね! こーわい! :;(∩´﹏`∩);:
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