臆病な王、部下を殺す。
「ヒイロス・バルトロアは賢く、カリスマがあります。しかし、非常に冷酷で残忍なのです。」
エリーから笑顔が消える。
「徹底した成果主義で、与えられた仕事を全う出来なければ処刑。権力とカリスマに魅せられ、近寄る者はたくさんいますが、成果を出せずことごとく消されています。」
「とんだブラック企業だな。」
「ええ、本当に。王の周りでは割と有名なんですが、合言葉は『処刑、罰金、辱め』です。」
「なんだそりゃ。」
「ささいな事でも財産を没収されたり処刑されるので、王の下で働く者は文字通り命懸けといえます。」
「そんな所早く辞めればいいのではないか?」
「ムリです。本人の意思で辞める事などできません。辞める時は死ぬ時ですよ。」
「逃げる奴とかいないのか?」
「もちろんいますが、少ないですね。連帯責任で同じ部署の人や家族がまとめて殺されますから。」
リオは込み上げる吐き気に顔をしかめる。
世界を自由に走り回ってきた冒険者のリオにとっては、信じられない世界だった。
「絵に書いた様な暴君だな。そんな王では国が成り立たんだろう」
「いえ、むしろ経済活動や統制力、軍事力は世界最高レベルです。とにかく合理的で頭が回りますからね。その上、疑い深く慎重なので、小さな問題を侮る事がありません。
1年で治水工事をする必要があるなら、
3カ月での完成を命じ、出来なければ処刑します。
命が掛かっていますから、皆本当に本気で働きますよ。」
「それのどこが賢いのだ。優秀な人材が潰れてしまうぞ。」
「賢王と呼ばれる所以は、絶対に不可能な命令はしない所です。その者が全てを捨てて死ぬ気でやればギリギリ出来るか出来ないかの瀬戸際を見極めた上で命じます。
それに適材適所も徹底していて、得意な事だけを死ぬ気でやらせるので人材はむしろどんどん発掘されるんです。」
エリーは目を細めて思案する。
たしかに合理的ではある。
だがどこかイビツだ。
リオが言葉を漏らす
「放っといても誰かが反乱を起こしそうだな。」
「それも難しいでしょう。
バルトロアは成果を挙げたものには、余りある程の報酬を与えるんです。成果を挙げれば全てを得るが、失敗すれば死ぬ。
そんな事を一貫して行っていますから、必然的に超優秀な人材だけが残ります。
超一流の人間達が、連帯責任を恐れて互いに監視し合っているんです。」
「ふむ、超優秀な人材以外は切り捨てる。それは本当の適材適所とはいえんな。
転がる石や草花にも役割があるのだ。
自分だけに都合の良い適材適所は、もっと大きな視点で見た時のバランスを壊してしまう。
それに気付かぬのなら愚王よ。」
エリーが吐き捨てる。
コーデリアはそれを聞いて表情を曇らさせた。
「気付かない方ではありません。気付いてもどうでもいいのでしょうね。」
「ふむ、大体わかった。リオよ。どう思う?」
エリーは珍しくリオの意見を求めた。
「うーん、賢いだのカリスマだの言ってるけど、
臆病でちっぽけな人にしか見えないな。」
決して皮肉ではない。
自然に溢れた感想であった。
それが分かるが故に、コーデリアは驚いたようにリオを見つめる。
「はっはっはっ!よう言うた!おっしゃる通りだリザルディア王!」
エリーは満足気だ。
「よし、宣戦布告の文を届けよう。」
「せんっ!本気ですか!?話聞いてましたか!?」
「もちろんじゃ、小心者をこらしめてやろう。」
「いくら戦闘に自信があってもムリです!ケタが違いますよ!」
「ではどうするのじゃ?」
コーデリアが押し黙る。
少しの沈黙の跡、不気味な笑みを浮かべおもむろに口を開く。
「…軍には軍をぶつける。というのはどうでしょうか…?」
「ふむ、面白そうだな。聞こうか。」
コーデリアがまず考えたのは、バルトロアの暗殺だった。
エリーの転移で近づき、なんとかして王を殺す。なにせこちらの戦力はたったの2人だ。
奇襲でトップを狙うのが最も現実的だろう。
だが、それでは暗殺事件が起きただけで、リザルディアがルシエントを支配する事には繋がらない。
そもそもそんな簡単に暗殺できるのなら、とっくにされている。
結界があるので、転移できるのは城の外までだし、
城の中は修羅の道を生き残った化け物だらけだ。
コーデリアには目の前の2人が、それを実現できるとは思えなかった。
次に可能性があるとすれば、隣国スオニールとの戦争に乗じることである。
ルシエントは今、スオニール帝国と臨戦態勢に入っていた。軍事力ではスオニール帝国のやや劣勢である。
帝国にしてみれば、少しでも戦力が欲しい所。
たとえ建国などと馬鹿げた事を言っていても、S級のリオの申し出なら大歓迎だろう。
戦勝した暁には、報酬として領地をもらい受けれるかも知れない。
領地があり、戦勝に貢献したとなれば、小さな国として認められる可能性もある。
つまり、スオニールの協力国として参戦し、あわよくば国としての土台を作る訳だ。
「ふむ、なんだかまどろっこしいな」
エリーは面倒そうに頭をかいた。
「いいんじゃないか?今後の事を考えれば、友好的な国を作っておくのも悪くないし。」
「それもそうじゃな。」
「よし、じゃあエリーはエドワードを勧誘しに行ってくれ。俺はスオニール王に謁見出来ないかギルドから掛け合ってみよう。」
「私は情報収集のために残ります。」
各々の役割を確認し、その日は宴会を楽しんだ。
翌日になり、リオはエリーの転移でスオニールのギルド本部へ送ってもらった。
「たぶんエリーの方が早いと思うから、適当にブラブラしててな。」
「うむ、スオニールはスイーツが有名らしいからな。ゆっくり行ってきていいぞ。」
エリーは嬉しそうだ。
ギルドのドアを開けると、部屋の中は屈強な冒険者達で賑わっていた。
とりあえず受付かな。
昨日は忙しかったけど、やっぱりギルドは落ち着くな。
リオは物心ついた頃からギルドを出入りしていた。
A級に到達した辺りから、徐々に迷宮に篭ったり旅に出るようになり顔を出さなくなったが、それでもリオにとってはホームである。
懐かしい気持ちで窓口に向かい歩いていると、男がぶつかって来た。
スキンヘッドで、口にピアス、全身にタトゥーの入ったいかにも柄の悪い男だった。
「あぁ、イタタター!くそぉーいてえぇえ!!!」
小さな取り巻きが男に駆け寄る。
「アニキ大丈夫ですかあ!!!?ありゃー!こりゃ折れてるぜー!!バッキバキだぜー!」
「ええと、なんというか、古典的だな」
今時こんな絡み方がまだあるのか。
「新人潰しのリーモー兄弟だわ。」
「あいつ目をつけられてかわいそうに。」
ヒソヒソ話が聞こえてくる。
誰か助けてくれよ。
「はあぁあい!?てんめーこの新米野郎!!どうしてくれんだよあああん!!!!?」
新米?
あぁ俺のことか。
リオは世界に5人しかいないS級冒険者だが、男達がリオを新米冒険者と勘違いしたのは無理もなかった。
上級冒険者にもなれば、その魔力から言いようのない存在感を放ち覇気を纏う。
装備も一級品のはずだ。
だが、リオのステータスは現在、素早さ以外は村の子供並み。
装備は何の変哲もない街人が着る服に、短剣を腰に掛けただけだった。
「てめーわかってんだろうなあああ!!!治療費と慰謝料と美女と甘さ控えめのモンブランケーキを毎日持ってくるつもりはあんだろうなあああん!?!?」
「ずいぶんだな。」
「こっちは折れまくってんだぞおおああ!痛いお目々をご覧になりたいらしいなあああん!?
ええい!もうしねえええ!!!」
折れたはずの腕で切り掛かってくるチンピラ。
まさかギルド内で遅いかかられるとは。
武器を抜いたのだから覚悟は出来ているのだろう。
ギルド内に疾風が吹いた。
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